今日は愛しの森谷真理さんのルチアで日生劇場。
1幕95分で休憩はなく、ステージに登場するのはルチアと亡霊だけという斬新な演出。その素晴らしさはどんなふうに書いても伝えられないと思うけど。
日生劇場芸術参与の粟國淳さんがプログラムに書いていた。
感染対策の観点から検討を始めたのだけれど、消極的な選択ではなく、新しい日常でのオペラを提案したと。
なるほど。
ぼくはさらに思った。
コロナによって、定番の演目をオーソドックスに上演せねばならないというくびきから解放されたことが、この傑作を生んだのだと。
コロナと新しい日常は、オペラの進化を促し、ポジティブな想像力で再構築できる芸術家、音楽家を求めた。
そして今日ぼくらは日生劇場で、そのような芸術家や音楽家が創造したルチアを観たのだ。
森谷さんに、今日のように90分間歌い続け、演じ続けることを求めたマエストロ、演出家も信じ難いが、それを見事にやってのけた森谷さんも、人間技とは思えない。
スター歌手の加耒徹さん、妻屋秀和さんらはステージには上らず、迫真のアリア、重唱で情景を浮かび上がらせた。
終盤、ステージの上でのたうち回っていた歌手はもはや森谷さんではなく。
狂気と正気の間を彷徨うルチアそのひとに見えた。
最後にそのルチアがことはててのエンディング。
しばらく拍手はなりやまなかったけれど、ぼくにはそれでも短く感じた。
ぼくはもっと、いやずっと、拍手し続けていたかった。
生涯忘れることがないだろう今日のルチア、これまで観たなかでも最高のオペラだった。
森谷真理さんは偉大な歌手だ。
今日もまたそう思った。