アポリポタンパクE(ApoE)は肝臓のみならず中枢神経内においてアストロサイトにより産生され、中枢神経系における脂質運搬などの関与していることが知られています。ApoEのバリアントとしてはAPOE2, APOE3, APOE4が主なものですが、1990年代前半に、家族性アルツハイマー病患者でAPOE4の頻度が高く、APOE4のホモ接合体>ヘテロ接合体>なしの順にアルツハイマー病が若年化するというgene dosage effectが存在することが明らかになって以来注目されています。これまでAPOE4がどのようなメカニズムでアルツハイマー病のリスクを高めるかについてはよくわかってませんでしたが、この論文で著者らはAPOE4遺伝子のホモ接合体保有者は、認知機能正常な時点でも、hippocampus(海馬)およびparahippocampal gyrus(海馬傍回)においてblood brain barrier(BBB)の破綻が見られることをdynamic contrast-enhanced MRIを用いて明らかにしました。このようなBBBの破綻はその後の認知機能の急速な低下と関係しており、βアミロイドやtauの蓄積とは独立して生じていました。一方でAPO3保有者ではこのような破綻は認められませんでした。APOE4ホモ接合体保有者の脳脊髄液においてはpericyte(脳血管周皮細胞)の傷害を示唆する可溶型platelet-derived growth factor receptor β(sPDGFRβ)が上昇しており、これはpericyteや血管上皮細胞におけるcyclophillin A(CypA)やmatrix metalloproteinase-9(MMP-9)発現上昇によるものであると考えられました。APOE4保有者においてはBBBの破綻が認知機能低下に関与している一方、最も多いAPOE3ではそのような現象がみられないことから、アルツハイマー病の発症には様々な要因が関係していることが考えられます。またCypAやMMP-3が治療標的になる可能性も示唆する極めて興味深い報告です。
Montagne, A., Nation, D.A., Sagare, A.P. et al. APOE4 leads to blood–brain barrier dysfunction predicting cognitive decline. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2247-3