とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

併用療法はよさそうです

2020-05-10 11:56:21 | 新型コロナウイルス(治療)
HIV感染症に対する薬物療法を見ると、現在の抗HIV剤の多剤併用療法(combined antiretroviral therapy, ART)にたどり着くまで様々な試行錯誤を繰り返してきました。現在SARD-CoV-2感染症に対して広く基本治療として用いられているカレトラ®はlopinavir–ritonavirの合剤ですが、lopinavirもritonavirもプロテアーゼ阻害薬です。残念ながらランダム化対照オープンラベル試験の結果、有効性は示されませんでしたが、機序の異なる薬剤との併用療法が有用である可能性は十分に考えられます。
この香港からの論文はlopinavir–ritonavir単独療法と、lopinavir–ritonavir+ribavirin(C型肝炎に対する抗ウイルス薬)+interferon beta-1bの併用療法とを比較したランダム化対照オープンラベル試験です。対象になったのは発症から7日以内の患者で、単独群と併用群に1:2の割合で割り付けられています。Primary outcomeは鼻腔咽頭培養のRT-PCRでウイルス陰性になるまでの期間、secondary outcomeとしてはNational Early Warning Score 2(NEWS2)のスコア変化などの臨床症状や死亡率などを調べています。
(結果)127人の患者が組み込まれ、併用群86人、単独群41人に割り付けられました。平均年齢は52歳、男性が54%です。40%の患者は移動困難な状態でした。脱落は単独群の1例(肝酵素異常による)のみでした。
結果は併用療法の優越性を示すもので、primary outcomeであるウイルス陰性化までの期間は併用群7日[IQR 5-11]、単独群12日[8-15]、HR 4.37[95% CI 1.86-10.24](p=0.0010)でした。また臨床症状の改善(NEWS2 0までの期間など)も併用群の方が良好でした。これを反映して入院期間も併用群で平均9.0日と単独群の14.5日と比較して有意に短いものでした(p=0.016)。血中サイトカインとしては2、6、8日後のIL-6濃度が併用群で有意に低く、TNF-α, IL-10には有意差なしでした。有害事象は併用群48%、単独群の49%に見られ、主なものは下痢、発熱、悪心、肝酵素異常などでしたが、群間に頻度の差はなくほとんどは3日以内に改善しました。重篤な有害事象は併用群ではありませんでした。研究期間中に17例(13%)で酸素投与が必要で、6人(5%)にICU管理が必要でしたが、単独群の中で挿管が必要であった96歳女性(抜管可能であった)を含めて死亡例はいませんでした。著者らはlopinavir–ritonavirに加えてinterferon beta-1b投与がキモではないかと考察しています。プラセボ群がない、併用群の中にinterferon beta-1bを投与しなかった患者がいる、超重症患者がいなかったなどのlimitationはあるものの、大変期待が持てる結果で、今後併用療法がスタンダードな治療法になりそうです。

Hung IFN et al., Triple combination of interferon beta-1b, lopinavir–ritonavir, and ribavirin in the treatment of patients admitted to hospital with COVID-19: an open-label, randomised, phase 2 trial.
Lancet DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31042-4