個人的にはワクチンの最有力は不活化ワクチンではないかと思っているのですが、この論文は患者から単離したSARS-CoV-2の中でCN2という株を用いて不活化ワクチン(PiCoVacc) を作成したというものです。マウスおよびラットにアジュバントとともに投与したところ、投与1週間目から効率よくIgG抗体の誘導が見られました。都合よいことに、Sタンパクのreceptor binding domainが最も強いimmunogenになっているようで、これはCN2を単離した患者の血清と一致しており、誘導できたIgGは患者の10倍でした。興味深いことに感染予防効果がないNタンパクに対する抗体は1/30程度しか誘導されませんでした。別の株であるCN1に対する中和抗体活性を経時的に見たところ、抗体は1週目から見られ、2週目にブースターをかけた後急上昇し、7週目まで高いタイターが認められました。
次にアカゲザル(Macaca mulatta)に対するワクチン投与の効果を検討しました。0日目、7日目および14日目にPiCoVaccの中用量(1回あたり3 μg)または高用量(1回あたり6 μg)を筋肉内経路で3回免疫したところ、S特異的IgGおよび中和抗体が両ワクチン接種群において、2週目に誘導され、3週目〜12,800および〜50まで上昇し、その力価は、回収されたCOVID-19患者からの血清の力価と類似していました。このサルにワクチン投与から22日目にSARS-CoV-2 CN1株を気管内経路するというチャレンジテストを行ったところ、ウイルス感染に伴う肺炎などの病態は改善し、臓器のウイルス量も中用量で95%以上減少、高用量ではほぼ100%減少されていました。ワクチン投与群にADEは生じませんでした。
ワクチンの有効性には懐疑的だったのですが、このように効率よくRBDに対する抗体が誘導されるのであれば大変期待が持てそうです。なおPiCoVaccを用いたフェーズI、II、IIIの臨床試験、および他のSARS-CoV-2ワクチン候補の臨床試験は、今年後半に開始される予定だそうです。