京都大学の小川誠司先生および慶応大学の佐藤俊朗先生の研究室から、それぞれ独立に潰瘍性大腸炎(ulcerative collitis, UC)の遺伝子変異に関する重要な研究成果が報告されました。いずれの研究においても、UC患者の大腸上皮においては、NFKBIZ(IκBζ)やZC3H12A(Regnase-1)などのIL-17シグナルに関連する遺伝子のsporadicな変異が特異的に見られました。このような変異はUC患者直腸全体の50~80%の面積に広がっていました。正常な大腸上皮細胞においてはIL-17によって細胞死(アポトーシス)が誘導されますが、これらの変異が存在する細胞ではIL-17による細胞死誘導が低下していました。すなわちUC患者の大腸上皮では、慢性的な炎症に適応するためにこれらの遺伝子変異が蓄積したものと考えられます。興味深いことに、このような変異は大腸癌では全く見られないものでした。また大腸上皮においてNfkbiz遺伝子を欠損したマウスは化学物質による大腸癌の形成が抑制されていました。つまりUC患者の遺伝子変異は発癌に対しては抵抗性を付与するものであり、癌自体はこれらの遺伝子変異を有さない細胞から生じる可能性が示されました。乾癬に対して有効性を示す抗IL-17A抗体は、かつて炎症性腸疾患に対しても有効性が期待されて治験が行われていましたが、かえって腸炎が悪化するという結果になったため開発が中止になりました(Hueber et al., Gut. 2012 Dec;61(12):1693-700)。今回の結果から考えると、IL-17AをブロックすることでUCの遺伝子変異を有する大腸上皮のさらなる増殖を誘導してしまったのかもしれません。
これら2つの論文はオルガノイド技術を用いた解析など、研究手法としても大変優れた内容を含んでおり、UC治療にもつながるすばらしい成果だと思います。
Nature. 2020 Jan;577(7789):254-259. doi: 10.1038/s41586-019-1844-5. Epub 2019 Dec 18.
Somatic inflammatory gene mutations in human ulcerative colitis epithelium.
Nature. 2020 Jan;577(7789):260-265. doi: 10.1038/s41586-019-1856-1. Epub 2019 Dec 18.
Frequent mutations that converge on the NFKBIZ pathway in ulcerative colitis.
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