とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

中国万州区の不顕性感染患者asymptomatic patientsについての報告

2020-06-18 22:39:44 | 新型コロナウイルス(疫学他)
中国万州区(Wanzhou District)における不顕性感染患者asymptomatic patientsについての調査結果が報告されました。患者との濃厚接触者2088人のPCR検査を行った結果、ウイルス陽性であった178人のうち、37人(20.8%)が臨床症状を呈さないasymptomatic patientsでした。平均年齢は41歳(8-75歳)で22人が女性でした。
37人のうち3人にリンパ球減少、1人に血小板減少が、6人に肝酵素上昇、11人にCRP上昇が見られました。
胸部CTでは11人(29.7%)に限局性のすりガラス陰影(focal ground-glass opacities)が、線状陰影(stripe shadows)あるいはびまん性の浸潤影(diffuse consolidation)が10人(27.0%)に見られました。16人(43.2%)には所見がありませんでしたが、うち5人に入院後5日以内に上記のようなCT像が出現しました。CTで異常のあった21人のうち14人(66.7%)は一側、7人(33.3%)は両側に異常影が見られました。
Asymptomaticの患者(A群)をmildな症状を有する患者(symptomatic patients, S群)37人と比較したところ、初めのウイルス量は差がありませんでしたが、A群のほうがウイルスを長期間排出していました(中間値で19日 vs 14日, p=0.028)。またウイルス曝露から3-4週後にIgG抗体が検出されたのはA群81.1%, S群83.8%、IgM抗体が見られたのはA群62.2%, S群78.4%でした。S群では急性期(ウイルス排出が呼吸器サンプルから見られた時期)におけるIgG抗体価がA群よりも有意に高く(S/CO 20.5 vs 3.4, p=0.005)、この傾向は回復早期にも継続していました。興味深いことにIgG抗体は回復早期にA群で71.1%、S群で76.2%低下しました。ウイルスの中和活性についてもA群の81.1%(30/37)、S群の62.2%(23/37)で低下しており、低下率はそれぞれ8.3%, 11.7%でした。
S群ではA群よりも血清中のサイトカインレベルが上昇しており、特にtumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand (TRAIL) , macrophage colony-stimulating factor (M-CSF), growth-regulated oncogene-α (GRO-α), granulocyte colony-stimulating factor (G-CSF), interleukin 6 (IL-6)で差が顕著でした。A群を正常者と比較すると、stem cell factor (SCF), IL-13, IL-12 p40, leukemia inhibitory factor (LIF)がA群で高値でした。
以上の結果から、asymptomatic patientsは胸部CTのみならず血液検査や血中サイトカイン検査で、ある程度同定可能なことがわかりました。また血中の中和活性をもつIgGは感染の回復とともに低下してくることも示されました。つまり集団免疫herd immunityを感染によって獲得するのは難しいかもしれないということです。
Long, Q., Tang, X., Shi, Q. et al. Clinical and immunological assessment of asymptomatic SARS-CoV-2 infections. Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6



最新の画像もっと見る

コメントを投稿