2020年1月から2月にかけてシンガポールにおけるクラスターから得られたSARS-CoV-2に382 nucleotideの欠損(Δ382)が見出されたことが報告されています(Su et al., MBio 2020;11: e01610–20)。この欠損はopen reading frame(ORF)7bの切断を生じ、その結果ORF8の転写が欠如することがわかっています。2020年1月22日から3月21日までに確定されたSARS-CoV-2感染者のうち追加解析が可能だった131検体中、野生型のみの感染が92人(70%)、野生型とΔ382の混合感染が10人(8%)、Δ382単独感染が29人(22%)でした。低酸素血症のため酸素投与が必要だった患者は野生型単独感染群では26/92(28%)だったのに対し、Δ382単独感染群では0/29(0%)と経過が良好であり、年齢、併存症を調整してもΔ382群は良好な臨床転帰を示しました。Δ382型ウイルスは3月以降検出されていないようですが(おそらく感染制御のため)、2002年から2004年のSARSパンデミックの際にもSARS-CoVウイルスのORF8欠損が認められたことから、著者らこの変異がウイルスのヒト社会への順応(いわゆる弱毒化)に関与するのではないかと論じています。
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