とはずがたり

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腸内細菌とダイエットと抗菌薬

2020-03-26 15:29:58 | 感染症
以前にも書きましたが、なんでもかんでも腸内細菌のせい、という研究はいかがなものかと思いますが、食事からの栄養吸収に腸内環境が重要だ、といわれると「そうだろうな」と納得してしまいます。食事のうちどのくらいをエネルギーとして利用できるかには個人差があるようで、便へのエネルギーロスは2-9%と結構ばらつきがあることが知られていますが、その理由はよくわかっていません。著者らはこの論文で便へのエネルギーロスにおける腸内細菌の役割を検討しました。調べたのはPhase I: 過剰エネルギー食(通常食の1.5倍=overfeeding diet, OF)および過少エネルギー食(通常食の0.5倍=underfeeding diet, UF)の影響、そしてPhase II: バンコマイシン(VCM)投与の影響です。
Phase Iでは27人の被験者にOF, UFを3日間のwash-out期間を設けて3日ずつ投与しました。その結果、OFの方が便中へのカロリー排出(エネルギーロス)は多かったのですが、摂取カロリーあたりの割合にすると、むしろOFよりUFの方がエネルギーロスは大きいという結果でした(5.8% vs 8.9%)。Phase IIで同じ被験者をVCM投与群とプラセボ投与群に分けて検討したところ、VCM投与群では有意にエネルギーロスが多いという結果でした(8.4% vs 5.8%)。
次にこれらの違いが腸内細菌叢の変化によってもたらされるかを検討しました。UFとVCM投与群で腸内細菌叢のパターンに似た傾向があれば大変面白い!という訳ですが、実際はUF, OFによる腸内細菌叢の変化はVCM投与による劇的な変化と比較するとわずかなものでした。その中ではUFおよびVCM投与で共通してAkkermansia muciniphilaの腸内細菌叢に占める割合が増加していました。この細菌はムチン分解菌であり、腸管の炎症に対して抑制的に働くことが知られています。また肥満者では割合が減少していることも報告されています。したがってUF, VCMはAkkermansia muciniphilaの割合を増加させることで便へのカロリーの排出を促進しているのかもしれません。とはいえダイエットでVCMを内服するヒトはいないと思いますが。。
Basolo, A., Hohenadel, M., Ang, Q.Y. et al. Effects of underfeeding and oral vancomycin on gut microbiome and nutrient absorption in humans. Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0801-z



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