- 今日のおすすめ
『「OODA Management」現場判断で成果を上げる次世代型組織のつくり方』
(原田 勉著 東洋経済新報社)
- PDCAは時代遅れ?(はじめに)
2020.8.11の日経電子版に、次のような記事がありました。『経営者が経営計画づくりで頼りにするのは過去のデータだが、「そこからでは意味のある未来予測はできない」。重要なのは「現在起きていること」であり、「そこに突然変異的な出来事が存在することがわかれば、目をつぶらずに真剣に未来への影響を考えること」ができる。なぜ過去に意味がないかといえば、「終わってしまって、情報としての価値を損なっている」のに加え、「企業のデータ解析では、時々表れる突然変異的事象を除外することが一般的」だからだ。(過去のデータが役に立たない不測の時代には)PDCAを回そうにも、計画の前提から貴重な情報が消えていては、PDCAそのものが意味をなさない。』
記事ではさらに加えて『不測の時代に予定調和はない。経営学者ピーター・ドラッカーは「未来についてわかるのは“未来はわからないこと”と“未来は現在と違うこと”の2つだけだが、未来の予兆はどこかに必ず存在する」と書いた。今後の「良い経営」は、「見えない未来の予兆を感じ取る経営、例外や突然変異と敏感に向き合える経営」』と記しています。
不測の時代に、「良い経営」のための、PDCAに代わる意志決定ツールは何でしょうか。また、PDCAはどのような領域で活用すべきなのでしょう。そこで今日は最近注目されている「OODAループ」を活用した「OODAマネジメント」を次項でご紹介し、PDCAとの関係性についても見てみたいと思います。
- VUCAなビジネス環境での最適な気づき方法論はOODAループ
【「OODAループ」とは。「気づき方法論」とは。「VUCA」とは。】
「戦わずして勝つ」を戦略として掲げる「孫子」の兵法の考え方を取り入れたパシル・リデル・ハート(英、軍事史研究家)の「間接アプローチ」が、ジョン・ボイド(米、空軍大佐)に引き継がれ、パイロットの理想的な意思決定プロセスをモデル化した具体的戦術・組織論として完成されたのがOODAループです。「O・O・D・A・ループ」とは「Observe:観察(見る、観る、視る、診る)」「Orient:情勢判断(分かる、判る、解る)」「Decide:意思決定(決める、極める)」「Act:行動(動く)」「Loop:改善(見直す)」のサイクルを表します。このOODAループは、状況を監視・観察、人から話を聞く等により収集した情報を通して、状況の変化や既存の理解や思考との違いを明らかにする、「気づき方法論」「Situation Awareness」です。
ビジネスの領域に於いて、OODAループはPDCAサイクルの弱点・欠点を補完・補強し、新規性の高い開発、イノベーションの分野、不確実性の高い分野における有用な意思決定ツールとして使われます。言い換えれば、安定(Stable)的領域ではPDCAサイクルが、VUCAの領域ではOODAループが最適な意思決定ツールなのです。「V・U・C・A」とは「Volatile;変動、Uncertain;不確実、Complex;複雑、Ambiguous;曖昧」を表します。
身近な例として、トヨタウェイがあります。トヨタ生産方式(TPS)では、PDCAサイクルに近い、「かんばん方式」と「後工程引き取り」を特徴とするジャストインタイム(JIT)を活用しています。一方トヨタ開発方式(TDS)に於いては、後述するミッション型管理(ヒエラルキー型・命令型管理ではない)を重視するチーフエンジニア制度と現場判断・現場機能を重視するLAMDAサイクルを一体的に活用しています。「LAMDA」とは「Look;観察する、Ask;質問する、Model;モデル化する、Discuss;議論する、Act実行する」を表します。将に、OODAループを応用したものです。OODAループを提唱したジョン・ボイドが、「トヨタがビジネスの世界で最も成功しているOODAループ活用企業である」と言っています。トヨタにおいても、イノベーションを続けないと勝ち残れません。各国の環境規制政策に影響を受けるEVやFCV(燃料電池自動車)開発は、PDCAサイクルでの成功はありえません。VUCAの中でチャレンジしていくにはLAMDAサイクル・OODAループでなくてはならないのです。
【知って得する『「OODAループ」を活用する「OODAマネジメント」』】
VUCAの領域では、OODAループが意思決定ツールとして最適であることについて上述しましたが、ここではOODAループを有効的・効率的に運用するOODAマネジメントについて紹介本から見てみたいと思います。
VUCAという不確実性が高く、スピードが求められる状況下では、想定外の不確実性への対処としての行き当たりばったりの「OODAループ」に留まることなく、不確実性を想定内化、つまり仕組み化による不確実性の削減とコントロールを可能にする体系化・組織化する「OODAマネジメント」が必要とします。
仕組み化とは、最適解を得るための有効に機能する各々のプロセスに於ける枠組みの構築です。「観察の仕組み化(O)」、「情勢判断の仕組み化(O)」、「行動の仕組み化(A)」が大切とします。詳細は紹介本を是非お読みください。ここで「意思決定の仕組み化(D)」と「ループの仕組み化(ループ)」について詳述してない理由は、『O・O・D・A・ループのプロセスで、「観察(O)」「情勢判断(O)」から「意思決定(D)」に至るプロセスと「ループ」のプロセスは、「ミッション型管理」と「現場に有るデータに基づく判断を現場に一任」の実施で適切に辿れるから』と説明します。
仕組み化された各々のプロセスを有効・効率的に回すのが「ミッション型管理」です。「ミッション型管理」に於いては、管理者は達成すべき「成果や期限」について現場と合意し、各々のプロセスの回し方、各々のプロセス間の辿り方は現場に一任します。「ミッション型管理」の対極はPDCAサイクルのタスク型管理(管理者が現場に細かく指示する)です。ここで大切なことは、管理者は、成果と期限とが有効に達成されているか、その為の資源は十分か等についてPDCAサイクル・改善ツールを回すことです。つまり、管理者はPDCAサイクルを、現場ではOODAループを回すのが「ミッション型管理」です。先述のトヨタ開発方式(TDS)「LAMDA」がその好事例です。
- 最適解を得るOODAループとPDCAサイクルの使い方(むすび)
PDCAサイクルは想定内の安定状況を前提とする「手順ツール」です。OODAループは、前述の通り、想定外のVUCAの状況を前提とする「気づき方法論」です。想定外のVUCAの状況を想定内の安定状況に導けた時に「手順ツール」として使うのがPDCAサイクルです。
OODAループとPDCAサイクルは対立軸にあるものではなく、それぞれを、時によっては使い分け、時によっては補完・補強し合いシナジーを生み出すツールです。
『既存事業の「深化」』はPDCAサイクルで、『成長機会の「探索」』はOODAループでと言えます。
OODAループは、ビジネス領域での活用はまだまだ限定的です。OODAループの体系化、組織化、仕組み化による「OODAマネジメント」により、想定外のVUCAの状況に於いて、最適解な「メタ(meta)」を得る「気づき方法論」として活用することで、私たちの経営は様変わりするでしょう。特にDXの時代こそ、突然変異的データを見逃さず、スピーディーな最適解を得る「OODAマネジメント」が重要です。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。