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「図でわかる会社法 第2版」(柴田和史著 日経BP 日本経済新聞出版本部)
- 知って得する「会社法」改正の流れ(はじめに)
2021年3月1日に、2019年12月11日公布の改正会社法の一部が施行されました。この機に最近の会社法改正の流れを追ってみたいと思います。
2006年5月1日に旧商法から独立して新会社法が制定されました。旧商法の「会社」編での449条に対し、旧商法から独立した会社法は、旧商法の会社関係法・省令など全てを包含し、979条の条文から成る会社法体系が確立されました。
旧商法からの会社法の独立、その後の保険法の独立、それ以前の手形小切手法の独立や海商に係る海上運送法の成立などに伴い、新商法の存在は極めて小さくなっています。2020年4月1日に施行された改正民法で法定利率が従来の5%から3%に変わったことに伴い、商法の法定利率6%が削除され、民法の規定に従う(整備法3条)などもその流れです。商事消滅時効5年についても削除され、民法の規定に従うとされています。
2015年5月1日から施行された改正(注1)は、コーポレート・ガバナンス・内部統制の強化及び親子会社に関する規律の整備等を目的とするものです。この改正により、日本企業に対する内外の投資家からの信頼の向上により、日本企業に対する投資が促進されることを目指し改正されています。
2019年12月11日公布の改正は、2021年年3月1日施行される改正(注2)と2022年4月~2023年6月施行予定の改正(注3)があります。株主総会の規律の見直しや取締役等の規律の見直しなど、2015年5月1日施行改正会社法のコーポレート・ガバナンス強化を一層透明化するものです。
2019年公布の改正の中から押さえておきたい項目を、紹介本に沿って、次項でご紹介します。
尚、紹介本は会社法の主要項目をピックアップし図解しており、要点を押さえた格好の入門書と言えますが、“計算書の公告”などコンプライアンスの基本と言える事項については記述が欠けており、法体系的に記述され、加えて2015年5月1日施行(2014年6月20日公布)の改正法についての記述が明解である、「会社法の仕組み(近藤光男著 2014年7月15日・日本経済出版社発行 」等との併読をお勧めします。
(注1)2015年5月1日施行の「会社法」改正内容
監査等委員会設置会社の創設、取締役会のグループ・親子会社に於ける内部統制システム構築義務(従来は会社法施行規則で規定)が会社法で明文化、社外監査役の社外性要件厳格化及び社外取締役設置強化、支配株主が変る新株発行の規制、多重代表訴訟、親会社の資産評価の5分の1を超える子会社株式の譲渡に親会社の株主総会特別決議が必要、90%以上の議決権を有する株主が残りの少数株主の株式をすべて買い取る制度(キャッシュアウト)の創設、組織再編行為の事前差止め請求制度の創設、債権者を害する濫用的会社分割等への規制など。
(注2)2021年3月1日施行の「会社法」改正内容
株主提案権の濫用的行使の制限、取締役の報酬等に関する規律の見直し、取締役に関わる相当な範囲の会社補償およびD&O(Directors' and Off icers')保険に係る規律の新設、社外取締役活用等に向けた規律の見直し、社債管理補助者制度、株式交付制度の新設、株主代表訴訟などで和解をする場合に監査役等の同意、議決権行使書面の閲覧等の拒否事由の改正、新株予約権に関する登記事項の改正、取締役等の欠格条項の改正など。
(注3)2022年4月~2023年6月施行予定の「会社法」改正内容
株主総会資料の電子提供措置制度の創設、会社の支店の所在地における登記の廃止。
- 押さえておきたい「会社法改正(2019年公布)」のポイント
【株主総会資料の電子提供措置の創設-2022年4月~2023年6月施行予定-】
株式会社は、定款で定めておく(上場会社においては義務)ことにより、株主総会招集の手続きに際し株主に提供すべき資料(「株主総会参考書類等」詳細は〈注4〉)を電子的に提供する事が出来る制度(「電子提供措置」詳細は〈注5〉)が創設されます。この場合取締役は、株主総会の日の3週間前の日(それより前に招集通知を発送する場合は招集通知の発送日)から総会の3か月後まで、電子提供措置をとる必要があります。
電子提供措置は、印刷・郵送にかかるコストの削減などのメリットがありますが、株主の議決権行使モチベーション低下の恐れがあり、対応が必要となります。
(注4)「株主総会参考書類等」の内容
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- 株主総会参考書類②議決権行使書面③計算書類及び事業報告④連結計算書類です。尚、株主総会の日時・場所、目的、電子提供措置をとっている旨、EDINET使用の場合はその旨などを記載した狭義の招集通知については、株主に郵送しなければなりませんので注意が必要です。
(注5)「電子提供措置」の詳細
・措置期間:本文を参照。
・提供場所:会社ホームページなどのWEBサイト。上場企業のEDINET。
・措置実施の場合の招集通知発送期限:公開会社の場合は株主総会の2間前(措置をしない場合と変わらず)。非公開会社の場合は2週間前(措置をしない場合は1週間前)。
・書面交付請求権:措置が講じられている場合に、書面による交付を受けたい株主は、株主総会の議決権行使の基準日までに請求する必要がある。
【その他の改正内容】
その他の改正内容は、取締役等の欠格条項の改正、会社の支店の所在地における登記の廃止、を除いては主に上場企業を対象とする法改正ですので字数の関係もあり省略します。
- 「会社法改正」を機に自社のガバナンス・内部統制体制を見直そう(むすび)
2006年の新会社法の旧商法からの独立とその後の「会社法改正」を見て来ましたが、そこから何を学ぶべきでしょうか。この約15年間の立法・改正はコーポレート・ガバナンスと内部統制(注6)の強化に於いて重要な意味を持っています。
規律対象は主として大会社・上場企業ですが、中堅・中小企業に於いても経営の透明性確保と経営の革新を促進するガバナンス・内部統制体制を積極的に、可能な形(注7)で取り入れたいですね。また将来のIPO(Initial Public Offering)に向けたステップにもなります。
原点に立ち返り自社の体制を見直し、新たな出発に踏み出してみませんか。
(注6)内部統制の流れ
内部統制強化の起源は2001年12月の米エンロン事件などに端を発するSOX法にあります。日本版SOX法は2006年6月制定の「新金融商品取引法」に取込まれ、2006年5月制定の「新会社法」に反映され、2014年6月制定の「改正会社法」で施行規則から法律本文へ格上げされました。
内部統制の方法は2005年12月金融庁公表(2019年12月改訂)の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(企業会計審議会策定)」に具体的に記述されています。
(注7)"可能な形"の「内部統制体制の確立に向けたマネジメントシステム」の活用
多くの企業で、ISO9001の品質マネジメントシステムを導入しているのではないでしょうか。その延長でマネジメント領域をISO9004(2018:「品質マネジメント-組織の品質-持続的成功を達成するための指針」)に拡大をすることで達成できます。つまり、内部統制の4つの目的(①業務の有効性及び効率性②財務報告の信頼性③事業活動に関わる法令等の遵守④資産の保全)等を9004の箇条7「リーダーシップ『戦略・法真・目標』」に加えプロセス・マネジメントを実行することで、経営・組織の革新と共に内部統制の体制が出来上がります。
加えて、このマネジメントシステムの運用の一環として、IT化を図ることで内部統制の構成要素である6つの基本的要素(①統制環境②リスクの評価と対応③統制活動④情報と伝達⑤モニタリング⑥ITへの対応)が実現されます。(図解はGlomacon Corp H/Pより。以下のURLをクリックしてご覧下さい。)http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakaisensei20210323appendix.pdf
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
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