たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子62

2019-04-26 21:30:15 | 日記
語舎田の邸では、大津、山辺の遺体を前に大伯が舎人から話を聞いていた。
「そなた名は」
「シラサギと申します。」

「シラサギ…どうして大津はこのような目に合わなくてはならぬのかったか教えてくれるか。」

「はい。夕刻もかなり過ぎ道作と共に大津さまは戻られました。無くなる前日の夜参内するので用意を頼むと申されました。高市皇子が訪れられ川嶋皇子さまの邸を一緒にお訪ねになられました。…道作殿から大津さまは伊勢からの帰り畝傍あたりで不比等からの刺客に襲われたと聞かされました…なので道作殿と私で大津さまを警護しながら川嶋皇子さまの邸に参りました。しかし、川嶋皇子さまはおいでにはならず、川嶋皇子の仕い人に川嶋皇子さまの行方を尋ねられました。結局行方知れずのまま大津さまは苦悩されたように邸に戻りました。帰路、不比等からの刺客に注意せよと道作は申されましたが結局邸に戻らぬまで何事も有りませんでした。すると大津さまは…我の運命は決まったな…と仰言せになられました。大津さまは何が見えておいでなのかその時私はわかりませんせした。道作殿も判っておいでだったのか、今からでも皇太后さまのところに参りましょうと言われ、皇太后さまの宮まで参りましたが…皇太后さまはご不快で休んでおられると門番に言われ…」

その時道作は門番に「天皇の危機なのだぞ、なんとしてでもとりなせ。」と咆哮した。
女官長が騒ぎを聞き出てこられ一室に大津を通した。「天皇、皇太后さまが草壁さまの邸に御行きなさいましてからなんの御連絡もないのでございます。先ほどの夕刻、流石に苛立ち、私めが直接草壁さまの邸に向かうと草壁さまご本人が直々に私のもとにお出に遊ばれ、皇太后さまがご不快で伏せっておいでであったが、快方に向かっておいでじゃ。明後日には宮に戻られる。安心せよ、と言われました。しかし、一目お目めにかかりたいと申し上げますと草壁さまは激高なされて、私は引き上げるしかございませんでした。」と女官長は言った。

大津は「これで何もかも、終わった。まんまと不比等の罠に嵌った。」と呟き女官長に「皇太后さまが戻られたら皇太后さまに天皇を譲位いたしますとお伝え願う。大津は皇太后の意のままで構いませぬ。ただ、我に仕える者は皇太后の旨一つで引き取り将来を保証してくださるように。そして何かあれば私の責任一人で誰も裁かれぬことがないように願っていると…頼む、女官長。」と言った。
女官長は「不吉にございます。私はそのようなことは皇太后さまには伝えとうございませぬ。」と言ったが大津は子をなだめるように「われにもしのことがあったらじゃ。我は皇太后を御尊敬し敬愛致しておる。感謝の気持ちしかない。何事もなけれがそれでよい。」と言った。

シラサギが言い終えると「川嶋皇子さまは」と大伯が聞くと「川嶋さまが草壁さまに大津さま…謀反の疑いありと申されたそうでございますがにわかには信じられません。ここに山辺さまがおられるのですから。それに先ほど衰弱なさった川嶋皇子さまが邸に戻られたと聞きおよびいたしました。ずっと大津さまにすまない、すまないと怯える様子であった…と。」と言った。

大伯は「道作は何故流罪に。」と聞くとシラサギは悲しそうに話しを続けた。