下記に記事はダイアモンドオンラインからの借用(コピー)です
トリプルリスク回避のための睡眠法
睡眠が意外にも大事な理由
国際医療福祉大学医学部 坂本昌也教授(同大大学三田病院内科部長、糖尿病・代謝・内分泌内科学教授)は、筆頭著者、監修を務める近著『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム)で、「規則正しく毎日起きる時間を同じにする、これだけで長生きできる」「認知症の予防には、家族と同じ時間を過ごし、コミュニケーションを図ることが効果的」とエビデンスを基に述べている。
ここでは、坂本医師が患者に直伝している「睡眠の大切さ」「睡眠時無呼吸症対策」「認知症対策」を公開する。
◎7時間睡眠で、甘いもの欲求を撃退
トリプルリスク対策というと、食事と運動が重要視されがちだが、睡眠も重要。これは、国内外のさまざまな研究で証明されている。睡眠不足が続くと、空腹時血糖値が上昇し、インスリンの分泌能力が低下し、糖尿病のリスクが上昇する。マウスを使った実験では、ノンレム睡眠より眠りの浅いレム睡眠が不足すると、ショ糖や脂質といった「太りやすい食べ物」の摂取量が増えたとの結果も出ている。
イギリスのロンドン大学キングス・カレッジの研究では、1時間長く寝るだけで385キロカロリーの糖分摂取が減らせるとの結果が出た。韓国のソウル大学医学部の研究チームは、13万人を対象に調査を行い、睡眠時間が6時間未満の人はメタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクが上昇し、睡眠時間7~8時間の人が糖尿病などのリスクが最も低いと発表している。
ある40代男性は、都内の職場まで片道1時間半かけて通勤していた。3月末以降在宅勤務が主になり、大きく変わったのは睡眠時間。平日は4~5時間しか眠れなかったのが、今では最低でも7時間の睡眠時間を確保、慢性的な睡眠不足から解消された。
「日中眠気を感じないので、仕事の効率がよくなりました。また、不思議と、前ほど糖質を欲しなくなりました」という。
1日に3~4本飲んでいた甘い缶コーヒーも欲しくなくなり、何か飲むなら水やお茶で済ましている。
活動量が減っているので大幅に体重減とはまだなっていないものの、ゆるゆると体重は落ちていて、ベルトの穴がこの5カ月で2つ小さくなった。
この40代男性が痩せたのは、睡眠不足が解消されたことと大いに関係がある。睡眠時間が食事の内容や生活習慣病に関係していることは、英国のキングス・カレッジ・ロンドン、韓国ソウル大学など複数の研究で証明されている。
慢性的な睡眠不足は、空腹時血糖値の上昇、基礎インスリン分泌能力の低下、体内のホルモン分泌、自律神経機能の異常などを招く。わずか2日睡眠不足が続いただけで、食欲抑制ホルモンの分泌が減少し、食欲促進ホルモンの分泌が増す、という報告もある。
1日の終わりには食べないで!
「早めの夕食」のススメ
◎夕食の時間が遅いと睡眠中に体重が増えてしまう?
2020年6月、米国糖尿病専門ジャーナルが、「1日に口にする食べ物のエネルギー量が同じでも、食事の時間次第で体内での代謝が異なる。夕食の時間が遅いと代謝が滞り、血糖値が上がり、体重増加の原因となる物質が増えるために、食べた量以上に肥満が助長される可能性あり」と発表した。
対象は、健康な人20人。ランダム化クロスオーバー法で、夕食の摂取時間の違いが食後血糖値/中性脂肪などに与える影響を検討した。
条件は、夕食のエネルギー量は1日の総摂取量の35%、炭水化物50%、脂質35%で統一。脂肪燃焼を評価指標とし、パルミチン酸15mg/kgを食事に添加。
測定した代謝パラメータは、食後1時間ごとの(1)血糖値、(2)インスリン、(3)中性脂肪、(4)遊離脂肪酸、(5)コルチゾール(副腎皮質から分泌されるホルモンの一種。心身がストレスを受けると、急激に分泌が増えるため、「ストレスホルモン」と呼ばれる)。
その結果、下記のような結果となった。
・夕食を22時に食べた時の上記5つの代謝パラメータの変化は、18時に食べた時より4時間後ろにシフトし睡眠時間と重なった
・血糖値のピークはより高く上昇した
・中性脂肪のピークは遅延した
・遊離脂肪酸は低値となり、脂肪の燃焼も低下した
・睡眠状態への影響は見られなかったが、コルチゾールは増加した
つまり、18時に比較して22時に食べたデータでは、数値の悪化、体重への影響、まさに、トリプルリスクが高まってしまうことが示唆されたのだ。
ダイエットのためには、早めの夕食をおススメする。
◎日中の「寝落ち」は、SAS対策を
睡眠時間の十分な確保は、日中の眠気をなくすだけでなく、健康を維持することにもつながる。睡眠は、量とともに質も大切。「しっかり寝ているのに、日中眠い」「家族や同居者からいびきを指摘される」「起床時、頭痛や口の乾きなどがある」「すっきり起きられない。起きた時、体が重い」といったことがみられれば、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる。
SASには、空気の通り道である上気道が狭くなり、睡眠時に呼吸が止まる閉塞性睡眠時無呼吸タイプと、呼吸中枢の異常がある中枢性睡眠時無呼吸タイプがある。SASの大半が前者で、肥満による首や喉回りの脂肪沈着、扁桃肥大、頭蓋骨の骨格が小さく気道が狭くなりやすいなど、さまざまな原因がある。SASは治療を受けなければ良くならない。放置すると血圧が上昇し、やがては心筋梗塞や脳卒中を招く。少なくともいびきがあるなら、SASの検査をぜひ受けてみよう。
トリプリリスク対策は
認知症対策にもなる
◎糖尿病の人は認知症になるリスクが高い
アルツハイマー型認知症は最も多い認知症。糖尿病の人はインスリン抵抗性(インスリンが正常に働かなくなる)によって、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβが脳内に蓄積しやすくなる。
糖尿病を長く患っていると、動脈硬化が進行し、脳梗塞や脳出血を起こしやすくなる。加えて、糖尿病の人は高血圧、脂質異常症も抱えているケースが珍しくない。それによってリスクが高くなるのが、認知症の中で2番目に多い血管性認知症。血管性認知症は、脳梗塞や脳出血で脳の神経細胞が障害を受けて起こる。
つまり、糖尿病はアルツハイマー型認知症になりやすく、血管性認知症にもなりやすい。あるデータでは、糖尿病の人はそうでない人に比べて、アルツハイマー型認知症のリスクが約1.5倍、血管性認知症のリスクが約2.5倍高いとされている。
認知症のトップ2のリスクが高いという事実は、深刻だ。
◎血糖コントロールで認知症予防
さらに問題視したいのは、認知症を発症した後の糖尿病治療。糖尿病治療は、食事、運動、薬物治療の3本柱が基本。認知症で認知機能が低下すると、食事や運動の管理がうまくできなくなる。定期的な薬の内服や注射も管理しづらくなる。認知症発症前のように糖尿病治療がうまくいかず、糖尿病が悪化してしまうケースが珍しくない。同居家族の負担も増える。一人暮らしの場合は、なんらかの対策が必要だ。
2020年7月、米国の製薬会社「バイオジェン」がアルツハイマー型認知症の治療候補薬について、FDAへの生物製剤ライセンス申請を完了した。これまで承認された薬は認知機能を一時的に改善するに過ぎないのに対し、今回の候補薬は認知機能の低下を継続して抑えられたとの臨床試験結果が出た。世界初のアルツハイマー型認知症治療薬になるのではないかと期待されている。FDAに承認されるかは不明だが、承認後、日本に入ってくるのは何年も先。しかもしばらくは非常に高額。一般の人の使用までには相当時間がかかる。
現在糖尿病を抱えている人は、将来の認知症予防対策として何をすべきか?確実にできる対策は、血糖コントロールしかない。高血圧、脂質異常症がある人は、血管性認知症のリスクを下げるために、それらの治療にも取り組む。これまで4回の短期連載で本記事に公開したトリプルリスク対策が、すなわち認知症対策にもなるわけだ。
コロナを恐れ過ぎず
正しい知識で行動を
◎血糖コントロールで重症化回避
『最強の医師団が教える 長生きできる方法』(アスコム刊)、筆頭著者、国際医療福祉大学坂本昌也教授ほか総勢10人のドクターが、長生きの秘訣を「食事」「運動」「睡眠」「生活習慣」「治療法」に分類し63項目紹介している。216ページ。
糖尿病があると、コロナに感染しやすいのではなく、重症化するリスクが高まる。しかし、血糖コントロールが良好なら、重症化を避けられる可能性がある。糖尿病の患者の中には、コロナ感染を恐れて極力自宅にこもり、人と接触しないようにしている人もいる。仕事や学業、生活に必要な用事でステイホームとはいかず、不安を抱えながら外出している人もいる。
いずれの場合でも運動不足やストレスは、糖尿病をはじめとする生活習慣病のリスクを高める。コロナを恐れ過ぎず、正しい知識で行動することが大切だ。手洗いやマスク着用、3密を避けるといった基本的な対策に加え、糖尿病の人は、より一層血糖コントロールに力を入れる。巣ごもりせずに時には日光を浴びれば、ビタミンD不足による脂質悪化対策にもなる。
2年前、世界で初めて生活習慣病が冬に悪化する詳細を米国糖尿病学会誌で発表した坂本医師。4回にわたってお届けした坂本式トリプルリスク対策を参考に、見えざる怖い敵・トリプルリスクを乗り越えたい。コロナで「初詣」を自粛された方も、まずは数値の確認のための「病院詣」をおすすめしたい。
(監修/国際医療福祉大学医学部教授、国際医療福祉大学三田病院内科部長 坂本昌也)
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