徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

花火の陰

2017年06月01日 | 舞台
小劇場とは何ぞや、と明確に定義があるのかどうかはともかく。
仮にキャパ100~200人程度の会場を「小劇場」と呼ぶのなら、私にとって、そこでの演劇は、ある種「未知の世界」です。

行ったことがないわけではないのですが、何とな~く「敷居が高い」と感じていた時期がありました。というのも「自分の好きな俳優さんのお芝居が見たい」「好きな演目が見たい」のであって、芝居オタクでも演劇評論家でもない、ただの素人ですので…。
あと、もう随分前のことですが、あるスタジオで上演されたお芝居を観に行った時に、ちょっと気分の悪いことがあったりして…こういう経験は、結構トラウマになるのです。
そんなわけで、最近の「小劇場ラッシュ」は、ホントに偶然で、あくまでも「ご縁のある俳優さん繋がり」でしかありません。(苦笑)

『罠々』… 山崎彬さん
『一人芝居ミュージカル』… 一色洋平さん
『グリーン・マーダー・ケース』… 鍜治本大樹さん
『空と雲とバラバラの奥様』… 阿部丈二さん
『17 seventeen』… 畑中智行さん

例えばキャラメルボックスで見慣れた、あの俳優さんや、この俳優さんが、サンシャインやオリエンタルのような規模ではなく、手を伸ばせば触れられそうな距離の、お互いの呼吸音すら聞こえる小さな空間で、どんな表情を見せ、どんな声でしゃべるのか…作風も違い、客層も違う、いわばアウェイな場所で、どんな芝居を見せてくれるのか。

私が4~5月に観た上記5作品は、「ある役者の全く違った側面/魅力/可能性」を、ガッツリ伝えてくる、面白い作品ばかりでした。
役者だけでなく、演劇というものの可能性、アイディア次第で自由自在に世界が広がる素晴らしさを、改めて私に教えてくれました。

やっぱりお芝居って面白い!!

そして今回、満を持して登場!

『花火の陰』… 岡田達也さん

言わずと知れた、キャラメルボックスの「黒い王子様」♪(…またの名をジャイアンw)
3月の『鍵泥棒のメソッド』では、眼光鋭く色気ダダ漏れな黒衣の殺し屋&捨てられた仔犬のような眼をした記憶喪失の男。
4月の『スキップ』では、妻を見守り支える知的で心優しき高校教師の夫、そして「何年留年してるんだ?」と言われる風貌の高校生w。
そのお芝居の振り幅の広さ、存在感、キレのある動き、独特な声のトーン。少年のようなヤンチャさ、オトナの男の愛嬌と色気。
これらが全て相反することなく、ごく自然にブレンドされて、ひとつの器におさまっているような「安定感」…私の大好きな俳優さんの一人です。

そのお芝居を!まさかの!100席ほどの小さなハコで観られる!
こんな贅沢が許されていいのだろうか?!絶対これは逃してはいけない機会だ!と私の心に芝居の神様が囁くわけで。←既に意味不明

5月31日(水)公演初日。



「さて…達也さん、今度は何を見せてくれますか?」

期待を裏切られる気がしない、というのは、贔屓目ではなく、芝居好きの直感…です。^^



ハルベリーオフィス特別公演
『花火の陰』 


≪CAST≫ (敬称略)

姫川春子  :大鳥 れい
白幡由梨  :笠松 はる
小松広海  :宮吉 康夫
須崎陽一  :篠原 功(演劇集団SINK)
小松幸子  :きよこ
磯村おさむ :経塚 よしひろ
たまごちゃん:中村 恵子(映像・舞台企画集団ハルベリー)
橋本のぶゆき:阿 紋太郎
花岡しおり :大嶋 麻沙美
村瀬健吾・村瀬健二:本間 健太(劇団RocketRoid!!)
星野文子  :村松 みさき(村松みさきプロデュース)
サクマ俊介 :岡田 達也(演劇集団キャラメルボックス)

≪STORY≫ (公演チラシより引用)

とある田舎の廃屋。その隣にはもう使われていない廃ロケバスが停まっている。

20年前、ここでは映画の撮影が行われていた。それに関わる漫画家や俳優、女優や映画監督たちが作品を創る目的で身を寄せ合って暮らしていたのだ。
しかしとある事件をきっかけにロケバスは動かなくなり、表現者たちはバラバラになってしまった。

それから20年、かつてこのロケ地で撮影隊の助手として地を這うような生活をしていた女が、大物女優として大きく成長して戻ってきた。
彼女が時を越えてかつてのロケ地に足を踏み入れたその瞬間、目の前に当時の人間たちが現れる。
過去を回想していく中で、長年自分の中でひた隠しにしてきた想いに次々と巡り合っていく女優。

―『花火みたいな人生を歩めて、羨ましいです』
―『花火が綺麗なのは一瞬だけだから。そのあとの行方を、誰も知らないし、知ろうともしないでしょ』

遠い過去から誰かの声が聞こえた気がした。
田舎の空に花火の音が鳴り響くとき、過去と現在が静かに交錯し、そこで暮らしていた人間たちの生き様がじわりじわりと浮き彫りにされていく……。



 




6月1日現在、まだ公演二日目なので極力具体的ネタバレは避けますが、
未見の方はご遠慮ください or 自己責任でお読みください…



ファンタジーっぽい作品、と仄聞していたものの、否!否!これは違う!
設定はファンタジックでも、これは大人の為の「過去と現在、そして救済の物語」切なくも美しい心の機微を丁寧に摘み取って花束にしたような、繊細で素敵な作品。

一幕110分の舞台、台詞のどれもこれもが、私の中にある「何か」を揺さぶるようなリアリティ。引き出された感情を増幅するのが、役者さんの芝居。
小劇場ならではの距離感!一方で小劇場らしからぬ、緻密に作りこまれた舞台セットと小道具、美術、照明。どれも…とても美しい。

生々しく心を鷲掴みにして揺さぶる台詞の数々は「声」を得て、観る側の感情も解き放つ。1時間30分までは「胸に迫る」空気に浸って、ラスト20分で…まさかの落涙。「感動はしても、泣きはしない」そんな予感がしていただけに、自分の頬を伝った涙に「えっ」と一瞬動揺した。そういえば、しばらく「舞台を観て涙を流す」という経験をしていなかった。キャラメルボックスは最近の2作品とも「ある種のハッピーエンド」であったし、他の舞台では「涙する」とは別の感動こそあれ、半年以上「これほどまでに心を震わせるような経験」と距離を置いていたわけで…心の澱が洗い流されるような、心地よい脱力感と充実感。これが最近の私には欠けていたのかもしれない。

登場人物一人ひとりの物語に、一つひとつ、丁寧に結末がやってくる。
涙を拭きもせずに、終幕までただ、舞台上の「抱き締めたくなるほど愛おしい登場人物たち」に釘付けになっていた。

ひとりについてだけ書くとすれば、大鳥れいさん演じる「女優・姫川春子」。
その美しさに、登場した瞬間「全ての感覚を持っていかれた」…何て綺麗な人だろう。平凡だけれども、こんな言葉しか出てこない。現在と過去、両方の「春子」を演じ分けながら、芯に一本通った「白い花のような美しさ」に、ただただ感動。「20年前の春子」は、飾り気のない白シャツとデニム、ざっくり纏めたポニーテールという格好でも、夢を追っている、そして恋をしている人間の持つキラキラした光のようなものが、周囲に撒き散らされるようで、本当に観ているだけでウットリする。
一生懸命に「ダメ出し」に喰らいつくガッツ、一途さが、ただ綺麗なだけでない逞しい生命力になって観るものの心を惹きつける。あんな女の子がいたら、きっと誰でも応援したくなる。
その一方で、小さな声で自問自答…「私にも、こんな時があったっけ…?」残念ながら過去形で。
でも、その微量の胸の痛みは「現在の春子」が語る回想、ふと見せる物憂げな眼差しや台詞で「ちゃんと掬い取ってくれる」。この「掬い取ってくれる」一言の台詞、ひとつのお芝居がどれだけ「過去形の人間」には嬉しいか。そして春子に強く深く心が寄り添っていたからこそ、あのシーンやあのシーンの「サクマの言葉と表情」が、とても切なくて、全身が震えるような思いで聴いていたのかもしれない。

他の登場人物たちも、それぞれの葛藤を抱えながら生きている。不器用で、暑苦しくて、時にめちゃくちゃで、周囲を振り回す。その姿が、本当に「愛おしい」。人間が生きるって本質的にはこういうことなんだよな、と、彼らの喜怒哀楽、そして孤独に寄り添いながら、私も同じように笑って、泣いて、110分を「一緒に生きている」ような感覚になっていた。このリアリティと近さは、やはり小劇場の距離感のなせる業だと思う。(しかし今は何が、とは書けない。ネタバレしてしまうから!)

今回のメインディッシュ。岡田達也さん演じる「映画監督・サクマ俊介」何と言うか…何と言いますか…いろいろと、罪な男。あれは反則だ…(苦笑)この役について語りだすと、やっぱり半分はネタバレになってしまうのが悔しい。本当に悔しい。週末を挟んで、よくよく反芻して味わいつくした上で、書いてみたい役どころ。と言うか書きたい。書かねばなるまい。しかし!今はダメだ…本当に全てネタバレてしまう…orz(悶死)

一言だけ。ホントに一言だけ書くならば!

中野の小劇場に降臨したブラック・プリンス。
私が持つこれまでのイメージをさらに大きく深く上書きするインパクト!

サクマの見せる優しさや強さ、包容力、愛嬌、焦燥や怒り、秘めた孤独感、その全てを凌駕する「哀しさ」に、全感覚が引き込まれました。なぜ、こんなにも優しくあたたかいのに、観ている側が胸を締め付けられるような哀しみに満ちた芝居が出来るのか…一人の男の魅力を余すところなく伝えてくる確かなキャラクター造形と演技が、素晴らしかったです。



この初日、本当に素晴らしくて、きっともっと素敵な舞台になる、と確信しました。許されるのなら、もう一度観たかった…!!!
これから行かれる方、12人の物語を素晴らしい台詞やお芝居とともに、全身で感じ取ってきてくださいませ♪ ^^