要するにソバの茹で湯である。
ラーメンやスパゲティの茹で
湯は捨てるのに、ソバ屋では
湯桶(ゆとう)という専用容器
に入れ、食後を見計らって麗々
しく茹で湯を出す。
ソバ湯はなぜうまいのか。
それはソバの滋味が湯の中に
とけ出しているからだ。
余ったもり汁をソバ湯で割った
ものを、ソバ屋のコンソメと
称する。
フランス料理はコンソメで店の
実力がわかるというが、
もり汁のソバ湯割りも、たぶん
ソバ屋のテスターとなり得る。
ソバ湯だけを合いの手に、酒を
呑むのは、年を重ね、盃を重ね
たものの到達する、枯淡の境地
であろう。
こんなにもうまいソバ湯に値が
ないとは、いかにも、仏のミルク
といった風情ではないか。