かげろうもえる窓辺で、頬杖を
ついている私がいた。二年前、
三年前の旅行を思い出して
いる。
京都では、どこの寺院の境内も
新緑が気持ちよかった。
人けのない庵のそばで、あなたは
いたづらっこのようにキスを
せがんだ。
玉砂利に数人の足音が聞こえ、
僧侶たちが通った時、ふたりで
あわてて石灯籠の影に隠れ
たっけ。
・・・こんなに優しい人なのに
あなたの優しさが、わからなく
なる時がある。女はたぶん、欲
が深く、いつでもときめきに
囲まれていたいと贅沢に思う。
「一日一日は、確実に過ぎてい
くんだし、細かいことに気にした
って仕方ない。今日の日にグッパ
イして、また一日始まる」
あなたは、細やかで、ナイーブに
見えても、さっぱりとした男
らしさがあって、やはりそれに
私は頼っている。
外は、本当に静かな、しめやか
かな雨が降っていた。
・・・これ以上、愛をねだる
なんて、贅沢な私・・・
胸があなたにふれた時
木々のざわめきがかき消され
敏捷(びんしょう)な小鹿の
ような瞳が
夜の闇へと とけていった。
・・・・