――――また、会えたね。
あのひとのうしろに隠れる
ようにして、俯(うつむ)き
加減の少年が立っている。
―――驚いた!こんなことって、
あるのね?
―――僕は驚かなかった。全然。
と,あのひとは言う。その時、書棚の
陰から、ひとりの少女が小鹿のよう
に飛び出してきて、わたしの姿に気
づき、はっと姿勢を正す。あのひと
笑顔を向けながら、話しかける。
―――ほら、章子ちゃん。ご挨拶して。
この人が『はるになったら』のお姉さん
だよ。
―――こんにちは、高田章子です。この
子は、弟の登です。
―――ああ、ほんとに、驚いちゃった。
こんなことって、あるのね
―――さっきから、驚いてばかりいる。
そう言って、あのひとは笑う。
―――あなたはどうして、驚かないの?
―――驚かないよ。だって、絶対
会えるってわかってたから。
―――どうして、わかるの、そんなこ
とが、
―――理由なんて、ないよ。ただ、わかっ
ただけ。決まってたんだよ。ここで、
こうしてまた会えるって、最初から
決まってた。
それからあのひとは、わたしの胸
もとに、まっすぐ右手を差し出す。
大きな手のひらだ。わたしは知って
いる。
大きくて、ごつごつしていて、温
かい。
わたしに手紙を書いてくれた手。
電話をかけてくれた手。あの日、
成田で、わたしを抱きしめてくれた
手だ。
そう、これがあのひとの「忘れ物」
だった。
わたしは繰り返す。
強く、強く、もう絶対に離さないと、
自分に言い聞かせながら。
自分の心をなぞらえるように
表現できる人が少なくなった。
それは人とつき合う時に、自分
の内面をさらす必要を多くの人
が感じなくなったせいだ。
軽いメール文が行き交う中で、
彼女に届いた一通の手紙。
勇気を得た彼女は彼に近づい
てみようと思った。
宝石のような手紙をくれた
彼に対する返事を彼女もまた
手紙に託した。
“さっき届いた白い封筒には
きのうのあなたの心が入って
いました“
二人は一年後に結婚した。
お互いに人生を幸福に導いた
のは、彼が心で書いた一通の
手紙だった。
文房具とか日用雑貨、時計、
アクセサリー・・・・。
ピンと来るものを見つけて、
財布に手を伸ばす自分に
私はいつもこう言い聞かせ
ます。
(これを買うのは、自分の物欲
を満たすためではない。いつか
これを自分よりも必要としてい
る人にあげるだめに買う
世間ではこういうのを、“自分
への言い訳“などと呼ぶので
すが、
私は半分本気でそう思ってい
ます。
TVの“何でも鑑定団”が高
視聴率なのもウナズケル。
(コレはいったい誰の手に
渡ることになるんだろう・・・)
そんなふうに考えていると、
出会いがまた違った角度から
見えてくる。
その面白さに私はお金を払って
いるんです。