動物奇譚 蚊について……2
世界で最も多くの人命を奪い“人類最大の敵”とまで言われる「蚊」。マラリアやデング熱、ジカ熱、日本脳炎、西ナイル熱、黄熱、原虫疾患であるマラリアなどなど、聞くだけでも恐ろしい感染症が主として蚊によって伝染し、其の死者が世界で年間72万人以上にも上ると言われている。
そんな中、世界では驚くような“蚊対策”が始まっている。ブラジルではデング熱の患者が増え続け、2024年だけで100万人を超えるブラジル人が罹患、しかもこのウイルスの4つの型すべてが同時流行し、4つの型の免疫を持っている人は殆どいない為、病院が対応しきれず対策に忙殺されている。 対策のひとつは、或る細菌を蚊に感染させることにより、蚊の免疫反応を高め、デング熱や他のウイルスの体内での増殖を抑えるというもの。この細菌に感染させた蚊を昆虫飼育場で繁殖させ、各地域に放出する。この蚊は野生の蚊と交尾するが、野生のメスが産む卵は孵化しなくなる。他にも、英国の企業が遺伝子組み換えした蚊の卵を提供している。孵化する蚊はすべてオスで、刺さないし、交尾してもメスの子孫は生き残れず、個体数が減少するというものである。一方日本の武田薬品は蚊を撲滅するのではなく、人間に高い免疫力を高め発症を食い止める新しい日本製ワクチンの提供を始めている。
他方、日本の花王は、蚊の足を詳細に研究した結果、化粧品やシャンプーなど様々な日用品で使われている液体「低粘度シリコーンオイル」を皮膚に塗ることで蚊が皮膚に止まれなくなるのを突き止めた。実際に、このオイルを使って実験すると、表面に接触した蚊はわずか0.04秒で吸血の体勢をとれないまま飛び去ることが分かり、試行錯誤の結果たどり着いたオリジナルのオイルは、すでにタイで商品化され、人々を蚊から守っている。
人間には嫌われ者の蚊も他の生物にとっては大変な御馳走でもある。蜘蛛や蟻、蛙、トカゲ,コウモリ等にとっては食卓を賑わし食生活を豊かにする無くてはならぬ副菜でもある。実際中米の一部で両生類の病気が発生したときに、マラリア患者が急増したことが突き止められた。又他の研究では、1時間に1000匹もの蚊を食べるコウモリもいることが明らかにされている。蚊だけを捕食して生きている蚊もいる。日本にも生息するオオカ、その幼虫は、木の窪みのような水の溜まった場所に生息し、他種の小さな蚊の幼虫を食べまくり、人間や動物には興味を示さない有難い存在である。
生態系学者から見れば違った世界が見えて来る。蚊は多くの生物の餌になり、更に蚊が血を吸うことで、その個体にストレスを与えたり、感染症を媒介したりして、ある特定の種が増え過ぎないように動物の数をコントロールする役割も果たしていて、生態系のバランスをとるという意味では、非常に重要な存在である。昆虫を駆除してしまうとそのバランスを崩し、周り廻って自らに跳ね返ってくる恐れがある事に留意して行動することが必要と言われている。
厄介者だからこそ、蚊は色んな角度から生態等の研究が行われ、其の成果として暮らしに役立つ技術に応用しようという試みも進んでいる。蚊の針をヒントに関西大学・ロボット・マイクロシステム研究室が進める「痛くない注射針の開発」である。蚊の針の細さは、一般的な採血用の針の10分の1、わずか0.05 mm程、その針を回転させながら皮膚を刺す事によって、刺した直後は何も感じないという仕組みを解明できたので、医療現場で活用しようというものである。
更に千葉大学で蚊の驚くべき飛行技術をドローンに応用しようという研究も進められている。蚊が暗闇でも壁とか床にぶつからないように飛べるのは羽で起こした空気の振動を自らのセンサーでキャッチして障害物を把握している事を解明した。この研究を応用したドローンの開発は、海外ですでに始まっていて蚊の気流感知システムを組み込んだドローンは、自ら起こした気流を感知し、気流が乱れると赤く光って障害物を認知、回避することが出来るというものである。尚蚊の羽ばたきは1秒間に600〜800回と、同程度のサイズの昆虫と比較しても、非常に高速で、その反射を感知するセンサーの感度は驚くべきものであると言われている。恐るべし蚊の先端技術!!。
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