「それではスクナビの神に先導をお願いし、これより仙境へ渡る。ここに集まった者全員で出発する。ではスクナビの神、あらかじめ段取りをお話しください。まずは、ここにいる者達に仙境へ渡る段取りを理解してもらいますので・・」
久地が前に進み出て、皆を見回しながら云った。
「神人や仙人が住まいする仙境とこのスサの国をつなぐ天橋立は、雲と雲が渦巻き重なり合う所に現れる。前の日に科戸の強い風が吹き、その夜遅くに渦雲が生まれたとき、夜明けに巨大な奇しき雲の橋が現れる。天に昇る気吹きの流れは速く強い。荒ぶる海のごとし。ゆえに、船を操る真秀の技を乞う。技、まがひなればこの橋を渡ることかなわず」
「かれ、これなる技を持ちて吾れらここにあり」海人猛と和邇猛が大きな声で叫んだ。腕を高く上げ、もう一方の手で胸をたたいでいる。
「頼もしきかな!」スクナビが微笑んだ。
「では、スクナビの神お願いします」と今度は飛が立ち上がって云った。
「いや、そうはまいらんのじゃ。このままでは何の準備もできてはおらんじゃろう。確かにスサの神たちで仙境に渡ったのは吾れとクエビ、しかし表のハバ国の仙都だけじゃ。裏側のアダシ国はそのときに話を聞いただけなのじゃ」
「確かに。スクナビの神、アダシ国は常冬の国と云うことでしたね。きっと、雪と氷に閉ざされた国かもしれない。そうだったら、何の準備もせずに乗り込むのは危険だ。そうだろう本宮」
「そうだな常春のハバ国を通るのか、いきなり、直接に常冬の国へ行くのかわからないが最終的に寒冷のアダシ国へ行ってワルサと妖怪どもの手から救い出さなければならない。それ相応の準備がいるね」
「龍二君。辰と交信してくれないか。仙境に関する何が情報がないか、何でもいい、あれば入手してくれないか。この事の成り行きも連絡しておいてほしい」
「わかりました。本宮先生」
龍二はその場を離れて入口近くの雲の方へ走っていった。
「そうなると、我々だけではだめということになるな~、久地」
「そうだ本宮、でもあの二人がいる」と云って、久地が和邇猛を呼んだ。
「和爾、あの二人との交易、次はいつか?」
「交易は、吾れらが尊たちにお会いした少し前でしたから、今はまだ加母知か爾田の族長のところにいる頃です。爾田の鍛冶や加母知の牧も見てから、大耶の於爾の牧、大柄、今佐山、志豆の鍛冶へ回ると云ってました」
「それは好都合。飛、都賀里、ちょっとこっちへ来てくれ」
「尊、何か御用ですか」
「急ぎ二人で爾田の族長の所へ行ってきてくれ。耶須良衣と美美長比古が来ているそうだ、探して、急ぎ此処へ連れてきてくれないか。あの二人の協力がいる」
「なるほど、先生それはいいお考えですね。承知しました、直ちに行ってきます。それでは皆さん、洞窟の外に出てください。雲を移動させますので、ここが真っ暗になります。それから、タニグの神、今しばらく雲をお借りします」
「飛の猛、この地を離れるまで汝らのものだ」
「では、皆さんいったん外の台に移動しましょう。海衆は船に戻って待機してください。於爾加美毘売、今のうちに衛士を海人と和邇の船とに二手に分けておいてください」
龍二と於爾が台の九重雲から出てきた。
「関屋先生は仙都を御存じありませんでした。逆に、そんな所があるのかと驚いてました」
「辰は他に何か言ってなかったか?」
「何かあった時には、探しようが無くなるから気を付けるように。連絡手段が無くなると・・」
「そうか、連絡手段は無しか・・。異次元から更に異次元へ行くことになるからな~」
「ここの世界から、完全に離れるということか。時間も空間も全く異質な所へ行くということだな・・」
「よし、腹は決まってることだ。なあ、本宮」
「そういうことだ」
やがて、飛が戻ってきた。
台の真上に七重雲が浮かんでいる。はるか後方、西の方へ眼をやると船が二隻白波をけってこちらに向かっているのが見える。どうやらうまいことに、あの二人はいたらしい。
しばらくして、二隻の船は着いたようだ。
美美長比古の大きな声が下から聞こえた。耶須良衣と共に台に駆け上がってきた。
「尊、遠征には吾れらが慣れてます。ぜひお供させてください。飛の猛から伺いました。お役にたちますから、同行させてください」
「二人ともよく来てくれた。スサの神々、彼らは吾れらの友人、エダチの若き長たちです。一人はくろがねの優れた技を持つ匠の部族の族長の息子、耶須良衣。美美野長比登は牧を作る騎馬族の若き長、美美長比古と言います」
「吾れはスクナビ、それは大きなあなないとなる。久地の尊、吾れらは寒さを防ぎ、攻撃をかわし、素早い追撃をもたらす手立てが必要となる」
「スクナビの神、久地の尊、吾れらが船荷をぜひ見ていただきたい」
「よし、飛と龍二君、於爾と都賀里を連れ、於爾加美毘売にも声をかけ、先に行って見せてもらってくれ。我々は、洞窟の岩戸を神たちと参拝してから、この台を後にする」
「承知しました」
四人は急ぎ台を駆け下りていった。
つづく
神主神気浴記を移動しました。
2014年06月02日 | 日記
旧神主神気浴記にアクセスできなくなり、更新が不可能になりましたので、こちらへ移動しました。
お手数をおかけします。ご容赦ください。引き続き物語を続けます。
なお、旧神気浴記のバックナンバーは下記のURLでご覧いただけます。
http://blog.goo.ne.jp/seiguh
久地が前に進み出て、皆を見回しながら云った。
「神人や仙人が住まいする仙境とこのスサの国をつなぐ天橋立は、雲と雲が渦巻き重なり合う所に現れる。前の日に科戸の強い風が吹き、その夜遅くに渦雲が生まれたとき、夜明けに巨大な奇しき雲の橋が現れる。天に昇る気吹きの流れは速く強い。荒ぶる海のごとし。ゆえに、船を操る真秀の技を乞う。技、まがひなればこの橋を渡ることかなわず」
「かれ、これなる技を持ちて吾れらここにあり」海人猛と和邇猛が大きな声で叫んだ。腕を高く上げ、もう一方の手で胸をたたいでいる。
「頼もしきかな!」スクナビが微笑んだ。
「では、スクナビの神お願いします」と今度は飛が立ち上がって云った。
「いや、そうはまいらんのじゃ。このままでは何の準備もできてはおらんじゃろう。確かにスサの神たちで仙境に渡ったのは吾れとクエビ、しかし表のハバ国の仙都だけじゃ。裏側のアダシ国はそのときに話を聞いただけなのじゃ」
「確かに。スクナビの神、アダシ国は常冬の国と云うことでしたね。きっと、雪と氷に閉ざされた国かもしれない。そうだったら、何の準備もせずに乗り込むのは危険だ。そうだろう本宮」
「そうだな常春のハバ国を通るのか、いきなり、直接に常冬の国へ行くのかわからないが最終的に寒冷のアダシ国へ行ってワルサと妖怪どもの手から救い出さなければならない。それ相応の準備がいるね」
「龍二君。辰と交信してくれないか。仙境に関する何が情報がないか、何でもいい、あれば入手してくれないか。この事の成り行きも連絡しておいてほしい」
「わかりました。本宮先生」
龍二はその場を離れて入口近くの雲の方へ走っていった。
「そうなると、我々だけではだめということになるな~、久地」
「そうだ本宮、でもあの二人がいる」と云って、久地が和邇猛を呼んだ。
「和爾、あの二人との交易、次はいつか?」
「交易は、吾れらが尊たちにお会いした少し前でしたから、今はまだ加母知か爾田の族長のところにいる頃です。爾田の鍛冶や加母知の牧も見てから、大耶の於爾の牧、大柄、今佐山、志豆の鍛冶へ回ると云ってました」
「それは好都合。飛、都賀里、ちょっとこっちへ来てくれ」
「尊、何か御用ですか」
「急ぎ二人で爾田の族長の所へ行ってきてくれ。耶須良衣と美美長比古が来ているそうだ、探して、急ぎ此処へ連れてきてくれないか。あの二人の協力がいる」
「なるほど、先生それはいいお考えですね。承知しました、直ちに行ってきます。それでは皆さん、洞窟の外に出てください。雲を移動させますので、ここが真っ暗になります。それから、タニグの神、今しばらく雲をお借りします」
「飛の猛、この地を離れるまで汝らのものだ」
「では、皆さんいったん外の台に移動しましょう。海衆は船に戻って待機してください。於爾加美毘売、今のうちに衛士を海人と和邇の船とに二手に分けておいてください」
龍二と於爾が台の九重雲から出てきた。
「関屋先生は仙都を御存じありませんでした。逆に、そんな所があるのかと驚いてました」
「辰は他に何か言ってなかったか?」
「何かあった時には、探しようが無くなるから気を付けるように。連絡手段が無くなると・・」
「そうか、連絡手段は無しか・・。異次元から更に異次元へ行くことになるからな~」
「ここの世界から、完全に離れるということか。時間も空間も全く異質な所へ行くということだな・・」
「よし、腹は決まってることだ。なあ、本宮」
「そういうことだ」
やがて、飛が戻ってきた。
台の真上に七重雲が浮かんでいる。はるか後方、西の方へ眼をやると船が二隻白波をけってこちらに向かっているのが見える。どうやらうまいことに、あの二人はいたらしい。
しばらくして、二隻の船は着いたようだ。
美美長比古の大きな声が下から聞こえた。耶須良衣と共に台に駆け上がってきた。
「尊、遠征には吾れらが慣れてます。ぜひお供させてください。飛の猛から伺いました。お役にたちますから、同行させてください」
「二人ともよく来てくれた。スサの神々、彼らは吾れらの友人、エダチの若き長たちです。一人はくろがねの優れた技を持つ匠の部族の族長の息子、耶須良衣。美美野長比登は牧を作る騎馬族の若き長、美美長比古と言います」
「吾れはスクナビ、それは大きなあなないとなる。久地の尊、吾れらは寒さを防ぎ、攻撃をかわし、素早い追撃をもたらす手立てが必要となる」
「スクナビの神、久地の尊、吾れらが船荷をぜひ見ていただきたい」
「よし、飛と龍二君、於爾と都賀里を連れ、於爾加美毘売にも声をかけ、先に行って見せてもらってくれ。我々は、洞窟の岩戸を神たちと参拝してから、この台を後にする」
「承知しました」
四人は急ぎ台を駆け下りていった。
つづく
神主神気浴記を移動しました。
2014年06月02日 | 日記
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お手数をおかけします。ご容赦ください。引き続き物語を続けます。
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