背寒日誌

2024年10月末より再開。日々感じたこと、観たこと、聴いたもの、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

『ブリット』

2013年12月27日 00時44分38秒 | アメリカ映画
 スティーヴ・マックイーンが亡くなったのは1980年11月。もう33年前になるが、ガンに全身を冒され、50歳であの世へ行ってしまった。
 マックイーンの全盛期は約10年で、作品数も少なかったが、忘れられぬスターである。30歳代のマックイーンはカッコ良くて、私が一番好きな外国の男優だった。テレビの「拳銃無宿」も良かったが、マックイーンが大好きになったのは、やっぱり『大脱走』を見てからだった。『荒野の七人』でもマックイーンは目立っていたが、あの映画のマックイーンは黒澤明の『七人の侍』の三船敏郎の役だったのだろうか。なんか違うような気もする。ユル・ブリンナーが志村喬の役で、一番若いホルスト・ブッフホルツが木村功の役で、チャールズ・ブロンソンとジェームス・コバーンは? まあ、どうでもいい。
 マックイーンの映画を欠かさず見るようになったのは、『シンシナティキッド』以降である。見た順番は確かでないが、『ネバタスミス』『砲艦サンパブロ』『華麗なる賭け』『ブリット』『華麗なる週末』『栄光のル・マン』『ジュニア・ボナー』など、どれも封切りで見た。それ以来見ていないが、また見たい映画ばかりだ。『大脱走』と『シンシナティキッド』を見て、マックイーンのファンになった人がほとんどだったと思うが、私も同じだった。あの頃は、「スクリーン」とかの日本の映画雑誌ではマックイーンが外国男優部門の人気投票ナンバーワンだった。ポール・ニューマンやアラン・ドロンも人気があったが、60年代後半はマックイーンの時代だったと思う。
 最近になって、またマックイーンの映画が見たくなり、何ヶ月か前に大好きな『シンシナティキッド』を見直したが、やっぱり良かった。マックイーンが売り出し中のポーカーの名手で、老練な達人のエドワード・G・ロビンソンに挑戦するというストーリー。『シンシナティキッド』は、中学2年の時に一人で目黒のスカラ座で観て大感激した映画だ。相手役の女優はセクシーなアン・マーグレットと清純派のテューズデイ・ウェルド。私はテューズデイ・ウェルドという可愛い新進女優にコロッと参ってしまった。賭場のあるアパートの裏で彼女がポロポロと涙を流して待っているシーンがあって、マックイーンが慰めるのだが、その場面が大変印象的で胸を打った。当時は、スター中心で映画を観ていたので、監督や音楽担当者の名前など覚えなかったが、『シンシナティキッド』は監督がノーマン・ジュイソン、音楽がラロ・シフリンだった。音楽がジャズで大変良かったのはよく憶えている。ラロ・シフリンは、その後、売れっ子の映画音楽作曲者になった。『ブリット』もそうだ。監督のノーマン・ジュイソンも、その後、『夜の大捜査線』を大ヒットさせ、一躍有名になった。マックイーンとは『華麗なる賭け』で再びコンビを組む。

 TSUTAYAヘ行って、マックイーンの傑作2本のDVDを借りてきた。『ブリット』と『ゲッタウェイ』。どちらも、封切りで見て、それから淀川さんの日曜洋画劇場のテレビで見た覚えがあるが、もう一度ちゃんと見るのは40年ぶりくらいだ。

  

 『ブリット』は、今見ても傑作であると思った。見せ場は何と言っても、カーチェイス。緑のムスタングに乗った刑事のマックイーンが殺し屋を追い駆けるシーンは、息もつかせぬ迫力だった。今の映画はCG全盛で、目まぐるしい上に音楽と効果音が大きすぎ、ゴマカシばかりで、ちっとも感心しないが、この当時のアメリカのアクション映画は現場主義で、プロの活動屋が最大限の情熱を傾け、カットカットを撮影しているので、見ていて感服してしまう。『ブリット』のカーチェイスは、もう二度と作れないシーンの連続である。尾行していた殺し屋の大型車を、逆にマックイーンの車が後ろに付いて追うことになり、そこからが凄い。マックイーンの刑事ブリットが絶対逃さんとばかり追い詰めていく。サンフランシスコの坂道をぶっ飛ばし、段差をジャンプしたり、対向車をよけたり、高速道路で発砲する殺し屋の車に体当たりしたり、追跡シーンが延々20分は続く。『フレンチコネクション』も凄いが、クールなマックイーンの方が、凶暴なジーン・ハックマンより断然カッコいい。マックイーンは正統派スターでヒーローだからだ。
 『ブリット』のストーリーは、それほど大したものではない。代議士のロバート・ヴォーンの役も類型的で胡散臭いし、マックイーンの女房役のジャクリーン・ビセットも大して魅力的ではない。共演者では相棒役がいい味を出しているが、その他の脇役はまずまずで目立つ俳優はいない。途中で死んだギャングが実は替玉だったと判明するところは面白いが、まあストーリーとしては二級品である。この映画は、はっきり言って、マックイーンの魅力と追跡場面の迫力で持っている作品である。が、そうだとしても、無口でクールな辣腕刑事を演じたマックイーンの魅力は群を抜いている。一流スターというのは、そこに居るだけで絵になり、観客の眼を釘付けにし、決して臭い芝居やアクの強い演技はしないのだが、『ブリット』のマックイーンがまさにそうだった。マックイーンのセリフ(英語)は、短いフレーズをボソボソと言うだけで、顔の表情もほとんどポーカーフェイスである。ただ、思ったことをどんどん行動に移していく男で、その一挙手一投足に惹きつけられるのだ。女にデレデレしないところも良い。男の仕事に口を出すな、あっち行ってろという感じである。
 ラストの空港での追跡シーンも見せ場だったが、ハラハラドキドキする点では今一歩か。
 最後にマックイーンが家に帰って、拳銃を置き洗面器で顔を洗ってこの映画は終るが、この終り方は思わせぶり(つまり今後も刑事を続けるのかどうか不明)だが、余韻があって私は好きだ。


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