下北沢のトリウッドという小さな映画館へ『深夜裁判』という映画を観に行った。
知り合いの川上史津子さん(エロ短歌の歌人で、昔で言うアングラ女優)からメールをもらい、この映画に準主役級の女弁護人の役で出ているのでぜひ観に来てほしいというお誘いがあったからだ。齢不惑で映画出演だというし、多分ノーギャラで出て、憐れにも上映中は連日映画館で客引きみたいなことをやっているらしいので、観ずに済ますわけにはいかない。
『深夜裁判』という映画の監督は、篠原哲雄氏。以前同監督の『月とキャベツ』(『月とスッポン』のようなタイトルとだけ記憶にあったが川上さんに教えてもらった)という作品のDVDを新宿のツタヤで借りたことがあるが、奇をてらった恋愛映画で途中でやめて返却した覚えがある。『深夜裁判』という映画もきっと退屈するだろうなと思いつつも、最近の映画もできるだけ観なければいけないという義務感もあって、自宅で夕食を済ませると、下北沢へと向かった。
私は明大前に住んでいるので、下北沢は急行で一駅の近さなのだが、下北沢という街は、どうも居心地が悪く、用事がない限りほとんど行くことがない。あまりいい思い出もない。気取ったイタリアレストランでバカ高いイカ墨スパゲッティを食べて幻滅したこと、どこの小劇場だったか忘れたが中村獅童さんが出演している現代劇を観に行ったらこれが観念的なセリフばかりの芝居で、うんざりしながら2時間近く過ごしたこと、私が作った本を置いてもらっても売れない書店しかないこと(博文堂、三省堂、ヴレッジバンガード)などである。
以前、下北沢のはずれに映画館があって、何度か行ったことがあるが、確か3年ほど前につぶれてしまった。トリウッドという映画館は初耳で、新しく出来たのだろうか。メールの案内に従い、駅を南口で降りて、商店街をまっすぐ行って、有名なパン屋を通り越し、五さ路を左へ直角に曲ってすぐのところ、古着屋の二階にトリウッド(Tollywood)はあった。意味不明の名称で、ハリウッド(Hollywood)のもじりなのか。
受付で川上史津子の名を言うと、彼女が妊婦服のようなドレスを着て出て来て、目をまんまるくして喜ぶ。切符を予約せずに来たのに、割引にしてくれた。
彼女と5分ほど立ち話。ビックニュースがあるというので聞くと、この映画に続いてまた映画出演したという。「あたし、映画女優づいて来ちゃった!」今度は主役で、深作欣二の息子さんが監督する映画で「脱いだのよ」だって。「おっぱいあるの?その年で脱がれてもなあ……」
午後8時から入場。ほんとに小さなミニシアターだ。客席が40くらいか。
お客さんは十数人で、若い人ばかり。「おれが一番年寄りかよ」といった感じ。いつも行く名画座(新文芸坐やラピュタ阿佐ヶ谷や浅草名画座ほか)は高齢者の方が多い。 だんだん様子が分ってくる。ここは主に自主製作映画を上映しているところらしい。そしてこの二週間は「篠原哲雄ショートムービーパーティ」と題して、短篇と中篇を計4本、一日二回ずつ上映。しかも連日出演者の舞台挨拶があり、その司会進行役が川上史津子なのだ。
妊婦服の彼女が出て来て挨拶をすると、少ない観客から暖かい拍手があり、次にゾロゾロ十人くらい男女の出演者が登場してずらっとスクリーンの前に並ぶ。みんな普段着でシロウトみたいに地味。偉そうにプロデューサーも登場して、最初に彼の話だったが、長ったらしくて面白くない。彼は平埜さんと言って、映画が終ってから飲み屋でご一緒したので悪口は言えないが、これは正直な第一印象。上映作品3本の脚本も書いたそうだ。その後、順番に出演者の簡単な挨拶があり、一人一人に観客からパラパラと暖かい拍手。もちろん私も拍手。みんな自己紹介をして名前を言うが、多すぎて覚え切れず。有名な役者さんは誰もいなかったようだが、一応全員役者らしい。あるいは役者を目指してかんばっているらしい。一人、松葉杖をついて足を引きずっている女の子がいて、ちょっと可愛いかったので気になる。もう一人、長い髪をしてメガネをかけて映画の中に出て来ますから見逃さないでください、と言った女の子の話が印象に残る。
30分ほどこうした舞台挨拶があって、いよいよ映画の上映開始。ハナから期待していないし、2時間を超える長篇はないので、気は楽。(つづく)
知り合いの川上史津子さん(エロ短歌の歌人で、昔で言うアングラ女優)からメールをもらい、この映画に準主役級の女弁護人の役で出ているのでぜひ観に来てほしいというお誘いがあったからだ。齢不惑で映画出演だというし、多分ノーギャラで出て、憐れにも上映中は連日映画館で客引きみたいなことをやっているらしいので、観ずに済ますわけにはいかない。
『深夜裁判』という映画の監督は、篠原哲雄氏。以前同監督の『月とキャベツ』(『月とスッポン』のようなタイトルとだけ記憶にあったが川上さんに教えてもらった)という作品のDVDを新宿のツタヤで借りたことがあるが、奇をてらった恋愛映画で途中でやめて返却した覚えがある。『深夜裁判』という映画もきっと退屈するだろうなと思いつつも、最近の映画もできるだけ観なければいけないという義務感もあって、自宅で夕食を済ませると、下北沢へと向かった。
私は明大前に住んでいるので、下北沢は急行で一駅の近さなのだが、下北沢という街は、どうも居心地が悪く、用事がない限りほとんど行くことがない。あまりいい思い出もない。気取ったイタリアレストランでバカ高いイカ墨スパゲッティを食べて幻滅したこと、どこの小劇場だったか忘れたが中村獅童さんが出演している現代劇を観に行ったらこれが観念的なセリフばかりの芝居で、うんざりしながら2時間近く過ごしたこと、私が作った本を置いてもらっても売れない書店しかないこと(博文堂、三省堂、ヴレッジバンガード)などである。
以前、下北沢のはずれに映画館があって、何度か行ったことがあるが、確か3年ほど前につぶれてしまった。トリウッドという映画館は初耳で、新しく出来たのだろうか。メールの案内に従い、駅を南口で降りて、商店街をまっすぐ行って、有名なパン屋を通り越し、五さ路を左へ直角に曲ってすぐのところ、古着屋の二階にトリウッド(Tollywood)はあった。意味不明の名称で、ハリウッド(Hollywood)のもじりなのか。
受付で川上史津子の名を言うと、彼女が妊婦服のようなドレスを着て出て来て、目をまんまるくして喜ぶ。切符を予約せずに来たのに、割引にしてくれた。
彼女と5分ほど立ち話。ビックニュースがあるというので聞くと、この映画に続いてまた映画出演したという。「あたし、映画女優づいて来ちゃった!」今度は主役で、深作欣二の息子さんが監督する映画で「脱いだのよ」だって。「おっぱいあるの?その年で脱がれてもなあ……」
午後8時から入場。ほんとに小さなミニシアターだ。客席が40くらいか。
お客さんは十数人で、若い人ばかり。「おれが一番年寄りかよ」といった感じ。いつも行く名画座(新文芸坐やラピュタ阿佐ヶ谷や浅草名画座ほか)は高齢者の方が多い。 だんだん様子が分ってくる。ここは主に自主製作映画を上映しているところらしい。そしてこの二週間は「篠原哲雄ショートムービーパーティ」と題して、短篇と中篇を計4本、一日二回ずつ上映。しかも連日出演者の舞台挨拶があり、その司会進行役が川上史津子なのだ。
妊婦服の彼女が出て来て挨拶をすると、少ない観客から暖かい拍手があり、次にゾロゾロ十人くらい男女の出演者が登場してずらっとスクリーンの前に並ぶ。みんな普段着でシロウトみたいに地味。偉そうにプロデューサーも登場して、最初に彼の話だったが、長ったらしくて面白くない。彼は平埜さんと言って、映画が終ってから飲み屋でご一緒したので悪口は言えないが、これは正直な第一印象。上映作品3本の脚本も書いたそうだ。その後、順番に出演者の簡単な挨拶があり、一人一人に観客からパラパラと暖かい拍手。もちろん私も拍手。みんな自己紹介をして名前を言うが、多すぎて覚え切れず。有名な役者さんは誰もいなかったようだが、一応全員役者らしい。あるいは役者を目指してかんばっているらしい。一人、松葉杖をついて足を引きずっている女の子がいて、ちょっと可愛いかったので気になる。もう一人、長い髪をしてメガネをかけて映画の中に出て来ますから見逃さないでください、と言った女の子の話が印象に残る。
30分ほどこうした舞台挨拶があって、いよいよ映画の上映開始。ハナから期待していないし、2時間を超える長篇はないので、気は楽。(つづく)
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