静かに座っているだけだが、自分が隣にいると、他のおじさんたちに目立ってしまう。
自分たちの前を通るおじさんは必ず自分に挨拶をしてから帰っていく。
ある一人のおじさんが自分たちの前に立った。
彼は喋れないおじさんのことを知っていて、彼が福祉を受けて独り暮らしをしていることを自分に話した。
その話し方が喋れないおじさんのことを少し見下したような感じだった。
心のうちは表に現れ、喋れないおじさんの顔に雲がかかっていた。
自分が隣にいるだけで彼が望みもしない相手が集まってきてしまうことを察して、自分は少し離れてみた。
離れれば、そのおじさんも離れるだろうと思っていた。
しかし、その逆だった。
自分が離れると、そのおじさんは彼にタバコを要求し、今日配っていた乾パンまで取って行った。
彼は要求を呑むほか無かった。
面倒なことが早く無くなることを望むがために。
それを見ていた自分はすぐに彼のもとに戻った。
すると、喋れないおじさんはタバコを自分にもくれようとしていた。
差し出してくれたのはマイルドセブンだった。
タバコのボックスには違う短いタバコがたくさんあった。
安いタバコ{わかば}だった。
それも穴が開いていたりしていた。
彼は自分が持っていたタバコのなかで一番良いものを自分にくれた。
彼は穴の開いたわかばを穴を塞ぎながら吸っていた。
自分はタバコを止めていたが、彼の思いを有り難くいただくためにタバコを吸った。
彼は素晴らしいと思った。
彼は自分よりも他人を大切にしていた。
名誉や高価なものなど何一つ持っていないかもしれない、生まれた故郷に帰ることなど叶わない孤独な日々のなかにありながらも、人を想う心を持っていた。
それを与える心を持っていた。
いつも与えられているのはこの自分である。
優しいものが辺りを包み込んでいた。
握手をして、タバコのお礼をしっかりと伝えて、その場を離れた。
自転車で帰ろうとすると、少し前に「みんなで食べてください」とあるおじさんからラッキョ一箱をもらっていたことを思い出した。
誰にも奪われることなく、自転車のかごのなかにラッキョがあって一安心した。
どんな経路でこのラッキョが来たかは聞かなかったが、賞味期限は来年の三月になっていて、まだ十分に大丈夫そうだったので、あの喋れないおじさんにあげようと思った。
乾パンを取られ、何もなく帰るのは悲しいだろうと思ったからだ。
彼は快くラッキョをもらってくれた。
近くにいたおじさんたちにも配った。
一人でMCに帰ってくる途中で20袋あったラッキョは全部出会ったおじさんにあげた。
自分たちのためにとラッキョをくれたおじさんの意に反したことだったかもしれないが、必要な人にしっかりと与えることが出来たことに違いはないと、青空を見上げた。
見上げた青空も優しいものの一つであった。
与えられていたものの一つであった。
自分たちの前を通るおじさんは必ず自分に挨拶をしてから帰っていく。
ある一人のおじさんが自分たちの前に立った。
彼は喋れないおじさんのことを知っていて、彼が福祉を受けて独り暮らしをしていることを自分に話した。
その話し方が喋れないおじさんのことを少し見下したような感じだった。
心のうちは表に現れ、喋れないおじさんの顔に雲がかかっていた。
自分が隣にいるだけで彼が望みもしない相手が集まってきてしまうことを察して、自分は少し離れてみた。
離れれば、そのおじさんも離れるだろうと思っていた。
しかし、その逆だった。
自分が離れると、そのおじさんは彼にタバコを要求し、今日配っていた乾パンまで取って行った。
彼は要求を呑むほか無かった。
面倒なことが早く無くなることを望むがために。
それを見ていた自分はすぐに彼のもとに戻った。
すると、喋れないおじさんはタバコを自分にもくれようとしていた。
差し出してくれたのはマイルドセブンだった。
タバコのボックスには違う短いタバコがたくさんあった。
安いタバコ{わかば}だった。
それも穴が開いていたりしていた。
彼は自分が持っていたタバコのなかで一番良いものを自分にくれた。
彼は穴の開いたわかばを穴を塞ぎながら吸っていた。
自分はタバコを止めていたが、彼の思いを有り難くいただくためにタバコを吸った。
彼は素晴らしいと思った。
彼は自分よりも他人を大切にしていた。
名誉や高価なものなど何一つ持っていないかもしれない、生まれた故郷に帰ることなど叶わない孤独な日々のなかにありながらも、人を想う心を持っていた。
それを与える心を持っていた。
いつも与えられているのはこの自分である。
優しいものが辺りを包み込んでいた。
握手をして、タバコのお礼をしっかりと伝えて、その場を離れた。
自転車で帰ろうとすると、少し前に「みんなで食べてください」とあるおじさんからラッキョ一箱をもらっていたことを思い出した。
誰にも奪われることなく、自転車のかごのなかにラッキョがあって一安心した。
どんな経路でこのラッキョが来たかは聞かなかったが、賞味期限は来年の三月になっていて、まだ十分に大丈夫そうだったので、あの喋れないおじさんにあげようと思った。
乾パンを取られ、何もなく帰るのは悲しいだろうと思ったからだ。
彼は快くラッキョをもらってくれた。
近くにいたおじさんたちにも配った。
一人でMCに帰ってくる途中で20袋あったラッキョは全部出会ったおじさんにあげた。
自分たちのためにとラッキョをくれたおじさんの意に反したことだったかもしれないが、必要な人にしっかりと与えることが出来たことに違いはないと、青空を見上げた。
見上げた青空も優しいものの一つであった。
与えられていたものの一つであった。