マザーの列福式が終わり、山谷のブラザーたちとお茶会が行われていたその部屋に向かう時、暗く疲れた表情をした小柄な女性に声を掛けられた、その彼女がKさんだった。
「Tetsuさんですよね、ありがとうございます。あなたとのメールがなかったら自殺していたと思います・・・。お礼が言いたくて・・・」
彼女とは私のHPを通して知り合い、何度かメールのやり取りをしていた。
彼女は幻覚幻聴に悩まされていたと私は思っていた、と言っても、彼女自身には間違えなく現実のものとして感じていた。
彼女は苦しみはこうしたものだった。
彼女がアパートの隣の人がうるさくて注意をして以来、いろんなところに隣の人が来て付回されている、銀行やビザを取りに向かったインド大使館まで付けてくると言う話だった。
こうしたものが昼夜構わず彼女を激しく悩ませ苦しませ、最後には自殺を考えるようにまで追い込んでいったのだろう。
だが、そこで私が何をしたのでないと思う。
彼女にはただ自殺を選ばない力があったのである。
その彼女とは次の年、カルカッタであった。
何かを思い悩むような暗い感じはそのままあり、他人を近寄らせぬ鋭いものを心に持ち、またその情緒の不安定さも浮き彫りのままにカーリーガートで働いていた。
彼女は自分よりも不幸のものに手を差し延べることによって、自分の苦しみを感じないように必死になっていたようにも思えた。
その居た堪れない生き辛さに、私はその時関わりをあまり持たないように逃げたことを覚えている、その罪悪感とともに・・・。
その後彼女と会うことはなかった。
彼女の死はマザーハウスにいるシスタークリスティーから聞いた。
カーリーガートで一緒にボランティアしていたスミコさんが彼女から連絡を受け、ガンの末期でボランティアをしていたホスピスにいるとのことだった。
クリスティーが西新井のMCに連絡し、シスターに見舞いに行ってもらうとしたが、それは間に合わず、彼女は亡くなった。
クリスティーから、それを聞いた私は胸が痛かった。
しばらく彼女の痛みをうちに入れ込むように感じながら、二人とも黙った。
Kさんの詳しい話はその後スミコさんから聞いた。
そこでも同じように彼女の痛みをうちに入れ込むように、この身体はなっていた。
{つづく}