Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「ロング・グッドバイ」私立探偵フィリップ・マーロウ

2018-06-16 09:02:01 | ミステリ小説


      

 1958年に清水俊二氏の翻訳で「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」として刊行された「長いお別れ」

チャンドラーがフィリップ・マーロウを主人公にした長編小説を書きあげたのは七冊で

「ロング・グッドバイ(長いお別れ)」は1953年に六冊目として書かれた

ここに上げた本は村上春樹による翻訳で2007年早川書房より刊行された単行本の軽装版です

訳者あとがき、として凖古典小説としての「ロング・グッドバイ」の評論がありますが、このレイモンド・チャンドラーに関しての

アレコレはとても興味深い一文ですから一読をお勧めします

ある意味では彼のお説のとおりだった。テリー・レノックスは私にたっぷりと迷惑をかけてくれた。しかし、

考えてみれば面倒を引き受けるのが私の飯のたねではないか。

「最後に彼に会ったのはいつで、場所はどこだ」私はエンドテーブルの上のパイプを手に取り、煙草を詰めた。

グリーンは身を乗り出してじっと私を見ていた。背の高い若者はずっと後ろの方に腰掛け、赤い縁のついたメモ帳にボールペンを向けていた。

「そこで私が『いったい何があったんだ?』と尋ね、君たちは『質問するのは我々だ』と言うんだろうね」

「分かってもらえると話が早い」

「彼が警察を動かしている訳じゃないぜ」とグリーンが言った。

「本人もそう言っていたよ。市警本部長や地方検事を買収してもいないそうだ。きっと彼が居眠りしている時に、相手の方から膝に上がり込むんだろうな」

「ほざいてろ」とグリーンは言って、私の耳の中でがちゃんと電話を切った。

何をするでもなく、ただ静かに待っていた。バニー・オールズから電話がかかって来たのは九時だった。

すぐこちらに来てくれと彼は言った。途中で寄り道して花を摘んだりするなよ、と念を押された。

「私はロマンティックなんだよ、バーニー。夜中に誰かが泣く声が聞こえると、いったい何だろうと足を運んでみる。そんなことをしたって一文にもならない。

常識を備えた人間なら、窓を閉めてテレビの音量をあげる。あるいはアクセルを踏み込んで、さっさとどこか遠くに行ってしまう。

他人のトラブルには関わり合わないようにつとめる。関わりなんか持ったら、つまらないとばっちりを食うだけだからね。

最後にテリー・レノックスにあったとき、我々は私が作ったコーヒーをうちで一緒に飲み、煙草を吸った。そして彼が死んだことを知ったとき、

私はキッチンに行ってコーヒーを作り、彼のためにカップに注いでやった。そして彼のために煙草を一本つけてやった。コーヒーが冷めて、

煙草が燃え尽きたとき、私は彼におやすみを言った。そんなことをやっても一文にもならない。君ならそんなことはしないだろう。

だから君は優秀な警官であり、私はしがない私立探偵なんだ。

「名前を言えよ。どこの誰だ?」

「マーロウというものだ」

「どのマーロウだ?」

「君はチック・アゴスティーノか?」

「いや、チックじゃない。合言葉を言ってみろ」

「顔を火で焙ってきやがれ」

相手はくすくす笑った。「このまま待ってろ」

フランス人はこのような場にふさわしいひと言を持っている。フランス人というのはいかなる時も場にふさわしいひと言を持っており、

どれもがうまくつぼにはまる。

さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。



                           


                                



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「ジェリーフィッシュは凍らない」市川優人のミステリ

2018-06-15 09:16:39 | ミステリ小説

     

売り文句が、新時代の「そして誰もいなくなった」登場!と、あります。

「そして誰もいなくなった」とはもちろんあのクリスティの名作です。

第26回鮎川哲也賞受賞作ですが、そこにこの謳い文句があれば読まざるを得ません。

メインキャストの女刑事と相棒の男性刑事のコンビは、新鮮さはありませんが掛け合い漫才のようなセリフ回しはまぁ良しとしましょう。

トリックも途中で見破られるというレベルの低さはではありません。

それどころか良く書かれているなぁと感じ入ります。

並みの新人ではないと思う筆力も感じます。

その筆力がしっかりと見れるのは二作目の「ブルーローズは眠らない」です。

                               

この二作目が出たということで一発屋でないことが証明されました。

個人的にはこの二作目の「ブルーローズは眠らない」の方が出来としては上だと思います。読ませ方もそうとは読者に気づかせないように

工夫を凝らしてありそのおかげで謎の部分がさらに深くなっているという具合です。

「ジェリーフィッシュは凍らない」はいわゆるクローズドサークルもので「ブルーローズは眠らない」は密室ものです。

物語の深さ、面白さではやはり二作目ですね。

次に何を出してくるかちょっと楽しみではあります。

              

「熊と踊れ」アンデシュ・ルースルンド

2018-06-14 09:19:58 | ミステリ小説

          

北欧ミステリです。
スティーグ・ラーソン原作の「ドラゴン・タトゥーの女」以降、北欧ミステリがもてはやされている印象ですね。

まあ、面白ければどこの国のミステリでも良いのですが、ただ国が違えば文化風習が変わるので警察の捜査方法なども

日本のやり方とは大分違っていて面白いとな~と感じたり、そんな悠長な捜査の仕方で良いの?というようなことが多々あります。

この辺は海外ミステリならではのギャップというか一つのお約束というところでしょうか。

この作家は先に「三秒間の死角」という本が出ています。



「熊と踊れ」は厳格な父親に育てられた男の三兄弟がその影響により犯罪に手を染め警察と必死の攻防を繰り広げる様子が描かれています。

厳格な父といっても下層階級の暮らしをする家庭の中で、男としての意地を失くさず例え相手が強くとも逃げずに向かっていけと闘い方などを

息子たちに教える父親です。  しっかりと働いて家族を養い家庭を大事にする父親であれば、父としての言葉にも説得力があるでしょう。

しかし、酒を飲み仕事が無いことは世の中のせいにして母親を虐げる父親を見る子供の眼は怒りと畏れがない混じっています。

銀行の現金輸送車を襲い、初めての仕事としては運よく成功した彼らは歯止めが効かなくなります。

警察も派手な犯罪には世間の目が集まりますから解決には全力を尽くします。

逃げるものと追うものの構図の中で描かれる男たちの物語。

ドキュメンタリーのようなテイストで描かれた犯罪に手を染める家族の物語です。

「三秒間の死角」は潜入捜査官が麻薬組織の撲滅を任務にある組織に入り込んでいます。

長い時間をかけ組織の上層部まで入り込んだ男。 当然そのような彼の経歴は消されています。警察署内でもこのことを知っているのは

潜入捜査官として彼をスカウトした直の上司と他には数名だけです。 そんななか組織はさらに利益を上げるために刑務所をマーケットにすることに

目を付けます。安定した客がいて売る時に金が無く支払えないような相手でもそれを貸しとして組織の言いなりになる人間を増やすのは

組織にとってマイナスではありません。でっち上げた罪で彼は刑務所に入りました。 しかし以前取引の現場でトラブルにより一人の男が殺されました。

殺された男も実は潜入捜査官でしたがお互いそんなことは知らずにいたことです。 警察は捜査の過程で殺された男が潜入捜査官だったと気付きます。

そして犯人を追ううちに刑務所に入った彼に行き当たります。彼は中で対立する組織を潰し自分の組織の商売を始めようとします。

一方事件の捜査に当たっている警部が刑務所内にいる彼に接近しようとしていることに危機感を抱いた上層部は彼を切り捨てる決断をします。

潜入捜査官としての身分がバレた彼は刑務所内の組織の連中からも命を狙われます。

さて彼の運命は・・・・・・。といったお話ですが、けっこうスリリングな展開が続き飽くことなく最後まで読ませます。


ざっと荒筋だけ見るとハリウッド映画的なストーリーで、軽いノリで読み進むような感じにとれます。

でもけっこう細部にわたって説得力ある文章で書かれているので物語に引っ張られていきます。

途中で本を閉じて読むのを止めてしまうというようなことはありません。

本のタイトルもこの物語のキメの部分で、少し危ういところはありますが全体を見れば良い出来なので気にはならないでしょう。

                  

「さよなら、愛しい人」レイモンド・チャンドラーの魅力

2018-06-12 09:48:22 | ミステリ小説


                                      

スミマセン、これは本格ミステリーではありませんね。

でも、話の構成とか内容はミステリーそのものです。

シャーロック・ホームズや金田一耕助と同じぐらい有名な私立探偵フィリップ・マーロウ。


え、知りませんか? でも少なくとも亜 愛一郎よりは有名な私立探偵でしょう?

ここに上げた写真の様に、私が読んだのは村上春樹の訳による本です。

ハードボイルドというとキザで気取った言い回しのセリフがまず思い浮かびます。

この本はもちろんそういった洒落たセリフがふんだんに見られます。

でも、嫌なぐらいに鼻に付くといったことはありません。

タフガイ、私立探偵フィリップ・マーロウ。

こういった小説の主人公の第一の特徴とはヤワな男ではなくタフガイだということですね。

でも、タフガイといっても今でいう格闘技がめっぽう強く、どんな相手にも負けないというようなヒーローではありません。


時に殴られて気を失ったり、ブタ箱にぶち込まれたり、警官にいたぶられたりします。それでも面倒を引き受けるのが彼の仕事ですから逃げたりしません。

登場人物の多彩さと当時の社会情勢などをバックにした謎めいた殺人事件。

読んで思うのは、やはり物語を面白く読ませるためには構成が大切だということですね。

作家としてはそう恵まれてはいなかったようです。

死後に評価が上がって、今では世界中で愛されている私立探偵フィリップ・マーロウ。

クイーンやドイルのように古典として読む価値はあります。

くすくす笑ったりニヤッとしたりそしてワクワクしたりと楽しみながら読める大人の物語です。

                                       
                                         

                                  




「中途の家」エラリー・クイーンのミステリ

2018-01-11 10:17:27 | ミステリ小説


1929年「ローマ帽子の謎」でデビュー。この時は覆面作家としてでした。
32年バーナビー・ロス名義で「Xの悲劇」を発表。 しかし、36年にこの作家の正体が公になりました。
この「中途の家」が発表された年のことです。

クイーン自選ベストの第三位に上げたのがこの「中途の家」です。 つまりクイーン自身もお気に入りということですね。
ちなみに一位は「チャイナ蜜柑」二位は「災厄の町」です。
話しは外れますが「災厄の町」は日本でも映画化されました。野村芳太郎監督 新藤兼人脚本による1979年制作の松竹映画
「配達されない三通の手紙」がそうです。

この映画も中々楽しめます。レンタル店では旧作100円コーナーにあるはずですから未見の方にはおススメです。

さて、この「中途の家」、一番に言えるのは安心して読めるということです。
最後のクイーンの謎解きの場面はかなりもつれた論理の展開になります。しかし、彼の推理は1ミリもズレません。

犯人は関係者の中にいる。このオーソドックスな展開の中で、クイーン自身が見て確認したもの、また全員の証言を
もとに論理を組み立て、そしてホンの少しの想像を加えて犯人に迫ります。

途中の何でもないようなエピソードも実は大事な伏線であったりと

細かく計算された文章と、しっかりと人物像を見せたりするとその筆致には感心します。
今読んでも少しも色あせた感じがしないのは凄い事だと思います。

クイーンが選んだ第三位のこの本。 ぜひ一読を。