Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「ぼっけえ、きょうてえ」岩井志麻子の怖い話

2014-10-26 11:00:15 | ミステリ小説
                                    

ホラー大賞受賞作品ですが、ありきたりのホラー話ではなくミステリ的な味付けもしてある内容です。物の怪や怪異ではなく人のこころや社会の貧しさが恐ろしい物を生むというそんな内容のお話です。

応募作の「ぼっけえ、きょうてえ」の他に書き下ろしの「密告函」、「あまぞわい」、「依って件の如し」の計四編が収められた本です。「ぼっけえ、きょうてえ」は女郎がお客に寝物語を聞かせるという

お話で、岡山弁での語り口がその内容にとても効果的で怪しい雰囲気を醸し出すのに非常にマッチしています。また読んでいてその筆力にも圧倒されます。貧しい社会と貧しい人々、それらのリアリティが

断然読むコチラの胸に響きます。選評が載せてありますが「すごいもの」を書くことが、かならずしも「おもしろいもの」にならない中でこの「ぼっけえ、きょうてえ」はすごくて、しかもおもしろかったとあります。

たしかに、読む人それぞれだろうがある種のなんともいえない感銘を受ける作品だと思う。このセンスは魅力的で筆力とともに読み応えのある作家だと思います。

こういったホラー話は京極夏彦とはまた一味ちがった世界でのお話で、単なるホラー小説ではないとまだ未読の方にはおススメしたいと思います。


                   

「貴族探偵」摩耶雄嵩のミステリ

2014-10-26 09:34:50 | ミステリ小説
                                  

筒井康隆の本に「富豪刑事」があるので「貴族探偵」とくれば二番煎じの感が否めないのですが、どうもこういった少しオチャラけた設定になると
赤川次郎的な世界になってどんなものかなぁと思ってしまいます。しかしです、内容はレベルの高いミステリです。短編が五編収められた本ですが摩耶雄嵩らしいミステリの約束事などを逆手にとった
いつものスタイルで書かれています。限定された人数をロジックだけで白か黒かを証明する話や、ホンの小さな行為、ファン心理が行う行為が完璧と思われた犯罪の致命傷になる話など読み応えのある物語ばかりです。

この人の短編はあまり読んだことが無いのですが、こういった質の高い短編ミステリも書ける人であることに少し驚きもしました。バラエティにとんだ五編ですがミステリの醍醐味を充分に味わえる内容です。
精力的に量産する作家ではないですが、出す本はどれも安心して読める作家です。そして一味違うミステリを読ませてくれる作家でもあります。

これからもこの著者の作品を楽しみにしていきたいと思います。


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「死者の裏切り」桂 修司のミステリ

2014-10-18 16:50:44 | ミステリ小説
            

ジャンルで云えば倒叙ミステリです。この形式では有名なのは「刑事コロンボ」ですね。つまり犯人側の視点で描かれおり、いかに犯行を隠すかといったことに苦心して自身の身の安全を

最大限に考え犯罪そのものを隠蔽しようとする犯人の心理と行動をメインに描いたものです。しかし、結局は探偵あるいは警察の捜査に破れ犯罪が露見して逮捕されるという結末になるのが普通です。

そこでこの倒叙形式のミステリの醍醐味と云うものは捜査側と犯人の知恵比べと、思いもよらないところから犯人の計算が崩れていく様子が読んでいる読者にどれほどカタルシスを与えられるかにかかってきます。

想像もつかないところから捜査側に犯罪の一端を見透かされ徐々に追いつめられていく様が見所です。 このミステリも発端は思いがけない偶発的な事故といっても良いのですが妻の愛人が死亡した夫の死体を隠すように

妻に言います。動転していた妻も屋敷の地下室に死体を隠し愛人の知恵で継母と義兄に夫が失踪したと話します。警察にも失踪人の届けを出しますが、成人男子が自分の意思で家を出た場合警察は何の捜査もしません。

データとして年間10万人の行方不明者がいてそのうち9割りの人が見つかるそうです。それでは残りの1万人の行方不明者はどうなるのか?全国の警察が身元不明の死者のデータを公表しているサイトがあるそうです。

継母と義兄は失踪した夫の捜索に探偵を雇います。この探偵は相場の二倍三倍の料金を取るしたたかな男ですが仕事に誇りを持っています。失踪した当時の状況とか友人関係、会社関係を調べ妻の証言からその妻に

不審を覚えます。その探偵の追及をかわそうと妻と愛人は警察のデータベースから身元不明の死者のデータを調べ夫に似た条件のファイルを見つけ出します。

このようにして探偵との戦が始り二人の関係や身の回りの出来事、継母や義兄の思惑などが描かれていきます。

最後には死んだ夫が秘密にしていた事柄から全てが明るみになる訳ですが、それ以外にも妻にとって意外なことが隠されていたことが解かります。そういった二転三転する真相がわりと上手く書かれていて          

意外と云っては失礼ですが中々良く出来たミステリでした。短編では良くありますが長編ではこの倒叙ミステリはこのところあまり見かけないので楽しく読めました。

                

                                                                                

『鑑定士と顔のない依頼人』ラスト・シーンがどう見えるか

2014-10-13 09:14:30 | ミステリ小説
                                       

一流の審美眼を持つ鑑定士バージル・オドマン。その彼が人前には出れない精神的な病の女性から依頼を受けて受け継いだ財産の家財などを処分するため

目録作りを依頼され彼女の館に赴きます。電話でしか彼と接触しない女性。会う約束をしても何かと理由を付けて彼の前に姿を現さない。この辺がミステリアスで観ている方も主人公と同化して謎めいた

彼女の正体に興味津々です。一流の鑑定士には別の一面もあり、オークションで狙った品にはサクラを使い自身が手に入れていました。いつも手袋をして潔癖症のような彼はこれまで女性との関係などもなく

これまで独身で過ごしてきた男でした。そんな彼が興味を惹かれたのが謎の依頼人。彼女の名はクレア。仕事の契約書のことなどで時には衝突しながらも依然彼の前に姿を現さないクレア。

彼女の館の地下室で見つけた小さな歯車。知り合いのロバートに見せれば古いオートマタの部品だろうと言います。八割がたあればあとは作って完成させられるといわれ、その部品を見つけることも

クレアの館に行く理由でした。しかし、言葉を交わすうちクリアに翻弄されていくオドマン。ロバートの知恵で帰ったと見せて物陰に隠れクレアが部屋から出てくるところを見ます。

そうして少しずつオドマンとクレアの距離が縮まります。この辺では初老の孤独な男と精神的に弱った女性とのラブロマンスかと思います。広場恐怖症という人前や外に出れない症状に悩む

クレア。そのクレアに惹かれていくオドマン。いつもモノを触る時は手袋をしたりグラスを持つ時はナプキンでくるんで持ったりとしていたオドマンがこのあたりからなりふり構わず

クレアのために動き回ります。この辺の心理を表わす描写は上手いです。クレアの人物像も徐々に明らかになり二人はやがて結ばれます。

このあたりからラブロマンスとしてハッピーエンドに向かうのかと思いますが、少しずつ怪しくなってきます。これまで散りばめられた各人の話やエピソードが意味を持ってきます。

残酷と云うか悲劇と云うか結末にはいろんな想いが観る人に起こってくる物語です。

登場人物すべてに存在理由があり意味がある、そんな無駄の無い配役とキャスティングの良さ。そして画面を彩る小道具の数々。エンニオ・モリコーネの音楽も作品世界にピッタリです。

監督は「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレです。

主人公のバージル・オドマンを演じるのはジェフリー・ラシュ。

競演はドナルド・サザーランド、シルビア・ホークスなど。

一度ではなくもう一度見直したくなる映画です。                                                                  DVDで鑑賞。
                                       

「沼地の記憶」トマス・H・クックのミステリ

2014-10-12 08:12:46 | ミステリ小説
                                         

トマス・H・クックといえば「緋色の記憶」です。何かで目にしましたが彼、クックは展開の激しい動きの多いミステリは余り好きではなく

時間をゆっくり辿っていく物語が好きなんだそうです。この物語もそのような元教師が過去を回想するスタイルで書かれています。特別教室の生徒の中に殺人者を父に持つひとりの生徒がいました。

彼は「悪」についての講義を有名な文献などを使用して生徒たちにします。小さな町で父も教職にあって自分自身も町を出ることなく生まれ育った町で父と同じ人生を送る主人公。

数十年が経ちいま彼の元を訪れるのは一人の郵便配達人とわずかな人々だけ。    彼はひとつのきっかけで殺人者を父に持つ生徒エディに父についてのレポートを書くように薦めます。

フラッシュバックのように過去の出来事が描写され裁判の時の証言などが抽入されます。エディの父は昔女子大生を殺害し刑務所で他の囚人に殺害されていました。

裁判記録や取り調べた保安官などから話を聞きエディはレポートを作り上げていきます。この過程でひとりの女子生徒シーラとエディ、シーラが付き合っていたダークとの問題などが

本編の語り手である教師ジャックから語られます。 云ってみれば恋のトラブルですがこれがこの後の物語に影を落とします。

ときおり描かれる彼ジャックの現在の生活の様子。毎日のように彼の家に郵便物を配達に訪れる配達人。二言三言の会話だけで終わるその時間。

これが伏線です。誰もが読んでいる途中で想像する方向を見事に裏切り、まるで違う疑惑を見せます。さらにそれさえも読者に肩透かしを食わせ漠然と想像した結果を

さらにひっくり返します。 そうです郵便配達人の正体です。

彼ジャックも当事当たり前だった裕福層と貧困層との住み分けとか、名家として代々続いた家系のなかで不自由なく過ごした自身の心の内に芽生えた思いなどがジャックの行動に現れるところ、

エディに対するそういったこともしっかり描かれ物語の幅を広げます。  クックといえば品の良い上質な文章です。そして登場人物のドラマがとても上手く描かれることです。

静かな時の流れのなかで掘り起こされる真実。  こういったミステリも読み応えがあります。