Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『ゴーン・ガール』ギリアン・フリンのミステリ

2016-04-17 11:20:25 | ミステリ小説
 

                           


もう映画やDVDで観た方もおられるでしょう。

私はDVDを観るのを我慢して、先にこの本を読みました。読み終えて思うのはやっぱり先に本を読んで良かったと感じていることです。

一組の夫婦の物語です。結婚五周年目の日突然妻エミリーが消えます。夫ダンは困惑しながらも思い当たるところに連絡を入れエミリーを探します。

しかし、エミリーは見つからないためやむを得ず警察に届けます。

エミリーはアメージング・エミリーとして有名な人物でした。両親が一人娘のエミリーをモデルに童話を書いていたからです。

荒らされた室内、拭き取られた血痕。失踪前日の夫婦喧嘩の声。こういったケースではまず夫が第一の容疑者だと心配するエミリーの両親。

事件か失踪か。型通りの捜査であってただの手続きだ、まず初めにあなたを除外しなくては捜査が進まないと云う二人の刑事。

事が公になり世間の注目を集めて夫ダンは窮地に立たされます。胸の中で毒づきながらエミリーの行方を調べるダン。

警察に協力しながら自分で調べるダンですが小さなウソを重ねていきます。当日のアリバイがはっきりしないダン。

そのダンの行動と胸の内を吐き出すモノローグの章。そして互い違いに示される妻エミリーが書いた二人の出会いから結婚生活の様子を描いた日記。

エミリーの人となりと彼女が記念日に用意した宝探しゲーム。そのゲームのヒントを書いた紙が見つかるたびにダンは追いつめられていく展開の面白さ。

上巻はサスペンス感がたっぷりでページを捲る手が止まりません。下巻が気になって一気読みのスピードで読み進むことになります。

夫ダンと妻エミリーの言葉。真実はどちらにあるのか。

結局、男と女が出会って結婚をする。ありふれた言い回しですが、育った環境も性格も違う他人同士が愛の名のもとに一緒に暮らしていくのが結婚生活。

そういえばわが国には「割れ鍋に綴じ蓋」という真理をついた言葉があります。先人の深い洞察とユーモアには頭が下がりますが、この辺の微妙さは国が違っても男女間の問題としては同じでしょうか。

下巻の予想外の展開と結末は日本人の気質的には違和感が残るかと思いますが、この作者の語彙の豊かさと訳者のセンス良い訳文でとても読みやすく、時代背景や地方の空気感や人々の様子などが

すんなりと胸に溶け込み物語世界を堪能させてくれます。

ハッピーエンドではなくとてもブラックですが深い結末で一連の出来事に終止符を打つ最後のページにあなたは何を感じるでしょう。

さて、デイビッド・フィンチャーはどのように料理したのでしょうか、DVDを借りてきて観てみましょう。


          
                




『図書館の殺人』青崎有吾のミステリ

2016-04-10 09:41:57 | ミステリ小説
    
           
                               

三作目でもありこれまでのキャラクター達が際立って描かれており、適材適所のポジションで生き生きと動き回っている印象です。

普通、人通りの少ない裏通りなどで殺人事件が起きた場合、警察の初動捜査としては被害者の私生活を徹底的に洗って広範囲に調べることが必要でしょう。通り魔や会社の仲間、友人関係のトラブル。

金銭関係のもつれ、恋愛関係のもつれ、本人が意識しなくても第三者に深い恨みを買っていたとかあらゆる可能性を視野に入れて捜査対象を絞り込むでしょう。

まぁ、ミステリ好きならこれぐらいは想像できるのですが現実の問題でもそんなに間違ってはいないと思います。

しかし、今回の現場は図書館です。しかも閉まった夜間の図書館で起きる殺人です。となると被害者の身辺に居る人物が犯人となります。

無差別の通り魔の犯行といった可能性は低く余計な神経を使わずに現場の様子と当日の被害者の行動を調べていくのが本筋です。

こういった環境設定で主人公の天馬が現場の様子から導かれる論理で犯人に迫っていくところがこの本の持ち味です。

断っておきますが動機云々を云ってはいけません。天馬の謎解きのロジックを楽しむのがこの本のすべてなんですから。

消えた本にも犯人には危うい意味があって隠された真相の一つという役割と犯人の立場で見れば重要な小道具建てとしての役割もあって細かく計算されている事が分かります。

ダイイングメッセージなんて今時そんなネタ?と思いますがミスリードの材料にしても最後まであやふやにして引っ張ってケリをつけるオチをちゃんと用意してあり、それも隠された真相に関連しているとは流石です。

天馬の謎解きのロジックが楽しみで読んでいるのですが、祖語のない計算された小道具と構成は見事です。

天馬の知られざる部分を柚乃が調べて少しづつ明らかになっていくところは今後もこの設定で書かれていくのかと楽しみになります。

世界観は少し悪く言えば漫画チックと云えますが登場人物たちの生き生きした様子や日々の過ごし方に好感を持てて今後もこのシリーズを出して欲しいと思います。