Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「七人の敵がいる」加納朋子の痛快小説

2014-09-21 06:35:43 | ミステリ小説
                                      

以前この人の「ささらさや」を読みました。ハートフルミステリでとても楽しく読んだので、この「七人の敵がいる」も読んでみようと思いました。あまり予備知識なく
読み始めました。男は一歩外に出ると七人の敵がいる、と云う有名なことわざを使った編集者としてバリバリ働く山田陽子という女性を主人公にした七つの物語です。

専業主婦もフルタイムで働く主婦も子供が学童になると避けて通れない問題が立ちはだかります。PTA役員という問題です。担当の作家からブルドーザーとあだ名される陽子ですが、仕事は出来てもこのような問題には始めて
ぶつかります。入学式のあとのクラス会でそれは始りました。思ったことはどんどん口に出す陽子はすぐに敵を作ります。好むと好まざると、あるいは自ら招いて陽子は簡単に敵を作ります。

この辺が面白く、そして陽子の独自のポリシーを持った生き方にある種の爽快感さえ覚えます。群れない陽子は様々な問題に逃げずにキチンと対処します。この辺は現実にある問題に取り組む時にはとても参考になるような
気がします。特にこれから結婚して子供を育てる事になる若い女性には学べる点が多くあると思います。男社会とは別に女の世界も厳しいことが多々あるのが現実です。井戸端会議などでくだらない噂話に興じる女たちを
軽蔑する陽子ですが、その陽子もそんな場でも百あるくだらない話の中にひとつ貴重な情報が入っている、その情報を共有するのはとても大事なことだと思い知ります。今、のほほんと気楽に暮らしている人が居たら
その人の知らないところで誰かがあなたを支えてくれている。それが世の中です。缶コーヒーのCMじゃないですが世界は誰かの仕事で出来ている。そうですそのとうりなんです。七つの話の中にはミステリ仕立ての話があったり

笑ったりホロリとさせる話があったりします。群れないといっていた陽子ですが最後にはこれまで出会った愉快な人たち(七つの話しに出てくる愉快な人物)としっかりネットワークを作っているところなども笑ってしまいます。

最後の七つ目の話の敵はラスボスにふさわしい強敵です。しかし、やがて敵のPTA会長は話します、七人の敵がいる・・・その言葉の続きを知っている? と、陽子は頷きます。相手はためらいながら続けます。

「七人の敵がいる、されど八人の仲間がいる」 こんな会話で最後の話が幕を閉じます。 加納朋子 ステキな作家です。

                                     

「人格転移の殺人」西澤保彦のミステリ

2014-09-20 13:45:22 | ミステリ小説
                                   

有る特殊な装置の中に入るとそこに居る人間の人格が他の人間に転移すると云うそんな不可思議な状況が説明されます。そして人格が次々と転移していくなかで連続殺人が起きるというそんなストーリーになっています。
したがって非常にややこしい記述が続きます。一人では装置が作動しないが、二名以上その中に入ると瞬く間に人格が入れ替わるということになります。それも一定のルールがあり順繰りに次の人間に人格が
移るというわけです。しかも一度だけではなく全くの不定期にそれは繰り返されるという設定です。誰が何のためにそんな装置を作ったのか、その点は曖昧にしてあります。初めにその装置を研究している政府機関の人間たちの
動きを描写して物語世界を紹介して読者を誘います。そして、数年後ということであるショッピングモールの中にあるファーストフーズ店に居合わせた七人の男女。そこに突然大きな地震が起きます。そのため店内にあったシェルターらしき中に
逃げ込む七人。しかし、それこそが例の装置で逃げ込んだ人間の人格が次々に転移していくことになります。仮に四人が装置に入ればAの肉体にdの人格が入りBの肉体にaの人格が入りCの肉体にはbの人格、そしてDの肉体には
cの人格となる訳です。そして法則として転移が繰り返される度に人格はひとつづつ次の肉体に移ると云う事になっています。そして装置から助け出された六人は政府機関の用意した施設に軟禁されます。この世間とは隔離された施設内で
連続殺人が起こる内容なんですが、これが読んでいてとてもややこしい。店に居たのは七人ですが装置の中にいたのは六人です。つまり一人の女性が崩れ落ちた店内で死体として発見されます。残りの六人で人格転移が
繰り返されますが、誰が誰を殺したのか把握するのに非常に神経を使います。ハッキリ云ってネタというかトリックはシンプルなんですが舞台装置が派手で、またその状況を上手く使ったストーリー展開がスピーディに進み
あっさりとは真相に近づけないようになされています。この辺は作者の計算のしたたかさです。西澤マジックといわれる所以でしょう。SFチックな設定のミステリはあまり好まないのですがこれは楽しめました。二重のトラップが
仕掛けられていますが、装置の意味を匂わせるラストと犯人の隠され方が上手いのでややこしかった事件も納得です。こういった設定には元ネタがあるのですが、それでもここまで膨らましてこのようなミステリに仕上げる
著者には流石としか云えません。西澤保彦らしい特殊な世界を舞台にしたちょっと毛色の変わったミステリです。

                                    

「白ゆき姫殺人事件」湊かなえのミステリ

2014-09-14 07:56:03 | ミステリ小説
                                      

格好はちゃんとしたミステリですが、かなり特異なレイアウトで作られています。事件が起き、その様子が各人の感想と共に会話文で綴られます。
メインは同僚女性が学生時代からの知り合いのルポライターに情報を流すと云うスタイルでストーリーが進みます。目撃証言などから一人の女性が浮かび上がります。
その女性は母親が危篤とウソをついて会社を休み行方不明でした。そして大学時代の友人、故郷の小学生時代のエピソードや仲の良かった女の子などの話が出てきます。すべて話し言葉で書かれていて
読者は話を聞いているような感じになります。これは「告白」などでも使っていた手法ですが、著者はこの会話文で読ませるのが上手いので効果的な手法といえます。
さて、現代はネット社会です。地球の裏側の小さな国の些細な出来事でもそのニュースは瞬く間に世界中に広がります。これに匿名という防御服を着た無責任なネズミがモラル無視の蛮行を繰り広げます。
掲示板に書き込まれる誹謗中傷。直ぐに実名や顔写真などが晒されます。この物語に登場するルポライターという職業に就く男さえも許しがたい軽薄さでブログにあれこれと綴ります。

追いつめられる一人の女性。しょせん他人事という無責任さがオーバーな表現になったり、間違った見方になってその人の真意が捻じ曲げられたりします。
友人でも肉親でもこの点は避けられません。人が人を評価するのはその人の主観でしかありません。職場で誰もが羨む美人が殺されたのは何故か、誰が殺したのか。
この部分をストーリーの核として、人の噂話やネットで無制限に広がる無責任な個人の感想こそが問題であると著者は捉え、勝手な憶測が先行する今の社会のあり方に問題提起しているのでしょう。

                                    

「ミハスの落日」貫井徳郎のミステリ

2014-09-07 09:21:24 | ミステリ小説
                                       

海外を舞台にしたミステリ五編が収められている新潮社から出ている単行本です。著者が実際にすべての国に足を運んで書いたとあとがきにあります。
スペインのミハスでの昔あった奇妙な事件、あれは確か現場は密室だった・・・。記憶を思い出し偶然再会した幼馴染と話し合っていると思いがけない真相に行き当たる。

スウェーデンのストックホルムを舞台にした、容姿も平凡、女性と満足に口もきけない鬱屈した男の務めるビデオショップに現れたモデルのような女性との出会いがやがて・・・。

サンフランシスコで、保険会社の調査員にある日仕事以外では絶対に付き合いたくない恐ろしい刑事から面会を受ける。内容は保険金を直ぐに支払ってやれないかとの相談だった。
担当ではなかったが同僚に話を聞くと夫がベランダから落ち死亡した案件だった。妻はその時外出中だった。死亡した夫は彼女には三人目の夫だったが前の二人も事故死して彼女は
保険金を受け取っていた。刑事の脅しもあり調べていくと・・・。

インドネシアのジャカルタを舞台にした物語。男に捨てられ借金のカタに娼婦となって働く若い女。その店にある日東洋人のような男が客として現れる。優しい男に心癒される女。
最近この近くで娼婦が続けて殺害される事件が起きていた。刑事がひとり店に来て写真を見せる。それは彼女を捨てた男の写真だった。殺されたと刑事は云った。動機があるお前が
犯人じゃないのかと脅す。実は最近彼の姿を目撃していた。その事を話すと近所の店に聞き込みするから協力しろと云われる・・・。

アフリカのカイロを舞台にした物語。旅行会社でガイドとして働く男に指名でガイドを依頼してきたアメリカ人女性。たった一人でカイロに来た目的は・・・。

以上の五編ですが、それぞれ味のある話で現地の雰囲気なども上手く取り入れたミステリとなっています。
行った事のない国や場所を舞台にした物語はそれだけでも読むのが楽しいですが、その物語にミステリの味付けがなされていれば尚楽しいと思います。
精力的に作品を書き著作の多い作家ですが、どれも質の高いそして問題を含んだ内容が広く読者に指示されている作家です。

旅行記+ミステリといった内容でリラックスして読める一冊でした。

                                       

「三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人」倉阪鬼一郎のミステリ

2014-09-07 08:21:26 | ミステリ小説
                                       

この本は2010年の世界バカミスアワードの受賞作として知られています。このバカミスとは1995年の「このミステリがすごい」で小山正氏によって
これまで奇妙な味のミステリと言われていた内容の物をバカミスと表現され、それ以降バカミスと云う言葉が定着しています。このバカミスと云うのはバカバカしいミステリという意味合いですが、決して
作品そのものを侮辱することではなくて、読み終えた後にそんなバカなと絶句するような通常のミステリを超えた意外性や娯楽性に特化した作品を指す言葉です。

この「三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人」もミステリファンの人であれば大抵読んでいる作品です。でも、いま興味を持って読んでみようと本屋さんに行っても多分手に入らないでしょう。もちろん文庫化など
されていません。つまりそれだけマイナーな作品なんです。しかし、ミステリファンは知っています空前絶後の仕掛けが施されたこの作品を。読み終えたあとには言葉が出ません。著者の執念に
ただただ拍手を送るだけです。簡単に言えば「良くやるよ」ですが、アイデアを実行するその気概というか精神力に賛嘆します。物語は初めから伏線だらけです。奇妙な記述が続き怪しげな
展開で物語が進みます。謎の招待状で呼び寄せられた大学のあるサークルのメンバーが一人ひとり殺害されます。復讐のために殺人を実行していると犯人のモノローグもありますが
その様子がどこか変です。最後のネタバラシとさらにその後の著者の仕掛けの異様さに絶句すること確実です。たまにはこのようなバカミスも楽しんでみるのも良いでしょう。

決して読み終えたあと壁に向かって本を投げつける、そんなバカバカしいミステリでは有りません。