Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「ソロモンの犬」道尾秀介のミステリ

2017-01-16 11:51:42 | ミステリ小説


                                       

少年が事故に合い亡くなります。犬を連れて散歩中だった少年ですが、歩道から犬が急に車道に飛び出したのです。リードを持っていた少年は

引っ張られて車道に飛び出す形になり走って来たトラックに轢かれてしまったのです。 その現場にはこの物語のメインの登場人物である大学生四人がいました。

ひとりは主人公となる秋内静というロードレーサーを使って荷物を配達するアルバイト中の青年です。

そして向かい側にあるファミレスから友人の友江京也という青年。その彼女である巻坂ひろ子。もう一人は主人公が想いを寄せる羽住智佳という女性です。

Caféで四人がこの事故について話し合うところからこの物語が始まります。何故犬は急に走り出したのか?この謎について主人公は友人の友江京也には不可解な一面があることから

思い悩みます。彼は何らかの形でこの事故に関与しているのではないか?そう思わせる意味深な言葉や行動が主人公の眼を通して読者に示されます。

犬は何故急に走り出したか?謎はこの一点です。しかし、ここにばかり目が行っていると最後に「え!」となります。始めから伏線が張られていますから気をつけましょう( ´艸`)

著者らしい仕掛けが施された青春ミステリです。犬の習性についてのところはご都合主義と感じるところもありますが

明るく軽い文体でさらっと読めますから、ただ黙って読んでいき騙される楽しみを味わうのが一番だと思います。
登場人物もバラエティに富んでいます。それぞれのキャラクターが立っているからこの物語が進む過程も、最後の読後感の良さにも繋がっています。

道尾秀介ファンにとってもこういったティストのものは宜しいんじゃないかと思います。

         

「殺人交差点」フレッド・カサックのミステリ

2017-01-10 12:58:58 | ミステリ小説


                       


            

古典です。たくさんのミステリを読んできた豊富な読書量を誇る人が今これを読んだとしたら

著者には失礼ですが肩透かしを食うでしょう。 それほどトリックがクラシックであると言えます。

これは別に著者の責任ではありません。時代の所為です。これと同じ手を使ったミステリは山ほどあり沢山読みました。

その本のタイトルを書くだけでこのミステリのネタバレになってしまうほどです。時は残酷ですね。当時のミステリファンはどれほどこのトリックに驚かされたことでしょう。

この本では二重殺人という言葉が使われています。探偵小説らしい言葉ですね。今では普通の殺人事件で被害者が二人いる状況と云えます。

一室で男女二名が殺害されていた。これは二重殺人だとそう表現していたのです。 時効寸前に現れた恐喝者。被害者の遺族と犯人に証拠の品を買い取れと同時に迫り金額を競らせます。

両者が金策に走り回るところは面白くブラックユーモアになっています。 この辺りはフランスミステリらしい味わいがあります。

そして、最後に真犯人の正体がわかるところは・・・・・。うーーん何度も書きますが当時は衝撃だったんでしょう。

でも、今読んでもこの作品の評価を下げることはないと思います。 キッチリと計算された書き方で最後の衝撃に至ります。これは見事と云う他ありません。

まだ読んでいない人には一読の価値はある、そう云える作品です。

    

「シンデレラの罠」セバスチアン・ジャブリゾのミステリ

2017-01-09 16:58:15 | ミステリ小説


                                   


最近ミステリに目覚めて古今東西の有名どころを片っ端から読んでいる・・・・・・。

もしそんな人がいたとしたら、この本は絶対に外せませんね。

クイーンや、クリスティ、カーのようには名前がポピュラーではないかも知れません。でもこの本の内容を知ればきっと驚くことでしょう。

何故なら、どこかで目にしたような内容だと感じるからです。それほど後世のミステリ界に与えた影響は大きかったと言えます。

このミステリのキーワードは記憶喪失。

そして遺産相続。火事。

火事で大火傷を負い、顔の皮膚移植をして一命を取り留めた私。一緒にいた娘は焼死した。

そして火事の真相を知る私は記憶喪失になっていた。

この私は本当にみんなが言う伯母から莫大な遺産を受け取るミなのか?死んだ娘がミで私はドではないのか?

『私は探偵で犯人で被害者で証人なのだ。』

こうして病院を退院したミは自分が果たして誰なのか、時折蘇る記憶と周りに現れる人々の話しを聞きながら、あの時あの家で何があったのか調べ始めます。

さて、単なる入れ替わりのお話ならこうまでミステリ界に残り語り継がれる訳がありません。

もっと深い仕掛けのあるミステリなのです。

タイトルの意味も最後のページで分かります。

どうです、ここまで聞けば手にしたくなるでしょう?ラストをぜひあなたの眼で確かめてください。

     


   

「大絵画展」望月諒子のミステリ

2017-01-02 11:27:57 | ミステリ小説

                         

本を開くと最初のページに「ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードに捧ぐ」とあります。

映画の好きな方ならピンときますよね。

私もこの本については何の前知識もありませんでした。どんな内容なのかまったく知らなかったのです。

タイトルを見ても、内容を想像するのはちょっと困難と思えるようなタイトルですよね。

しかし、最初のページのこの一文です。思わずニヤリとしました。 これは読まずにいられない、そう思いました。

フフ、そっちの話しか、と理解しました。 そうすればタイトルの意味合いもボンヤリとはあっても分かります。

絵画の世界、 美術界を舞台にしたものはそう多くは無いと思いますが原田マハの作品に面白いものがありました。

でも、こちらはあのような作品とは違った系統のものであることはハッキリしています。

どのように料理して読むものを楽しませてくれるのか期待が膨らみます。

前半は一人の男と一人の女の云ってみれば人生の転落の様子が語られます。 この二人の日常に直接の接点はありません。別々の世界に暮らす男女の人生のつまずきを描いています。

しかし、この男女はこの物語の重要人物です。 もう一人の人物に係わって来る経緯をじっくりと書いて、読者に違和感を持たせないように丁寧に仕込んでいかなければいけません。

そういう意味では、二人がしくじっていく過程がありそうな話で描かれていて素直に納得ができます。こういう男も女もいるだろうなと思わせます。 この辺はけっこう大事な部分で

お座なりな書き方では人物の動かし方が都合良過ぎととられますので注意が必要です。もっともプロの作家にとっては釈迦に説法な話でしょうね。

さて、この手の話しはオチがもっとも重要です。あれだけ盛り上げておいて最後のオチはその程度かい?と思われるようではハッキリ言って失敗作とみなされます。

それではこの本はどうなんでしょう? 私としては飛び切りの傑作とはいかないまでも及第点は上げられると思います。

美術界の見解についても原田マハの本とはまた違った角度からの見方で、その内容からもこの著者の人間的な部分が透けて見えるようで私としては好感が持てました。

後半からのスピーディな展開と意外なオチを楽しませてくれるこの「大絵画展」。読後感も良くておススメ出来る一冊です。