Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「毒入りチョコレート事件」アントニイ・バークリーのミステリ

2015-01-31 15:15:58 | ミステリ小説
                         

古典中の古典です。ミステリが好きと公言する人ならば誰もが知っている本です。
西澤保彦の「聯愁殺」はこれを下地に書かれたミステリで、歌野晶午の「密室殺人ゲーム王手飛車取り」もこれのアレンジといって過言じゃないでしょう。

その他色々なミステリ作品に影響を与えています。

Aのところに送られてきた毒入りチョコレート。たまたま近くに居たBにそのチョコを譲ります。そしてBよりも妻のCが数多く食べたのでCは死亡します。

さて犯人Xは誰か?曖昧な話です。そしてシンプルな事件といっても良いでしょう。警察が手を上げたこの事件に

犯罪研究会の面々が順番に推理を披露するというお話です。メンバーは六人。

演算的方法や帰納的方法で立論された仮説の証明を各人が競うというゲームを始めます。
この内容からアンチミステリといった見方をこの本はされている所があります。確かにこれまでのミステリは

名探偵が組み立てたひとつの仮説が唯一無二の回答であるかのように書かれています。バークリーはこの点を揶揄するようにひとつの事件に対して

六人による六つの答えを見せます。つまり推理コンクールです。当然六人の推理はそれぞれ違っていて指摘する犯人も皆違っています。順番に推理を披露するわけですが、なるほどと思わせておいて 他の誰かが穴を指摘します。そして次の順番の者が新たな推理を披露するのですが同様に不備を指摘されます。最後の六番目の人物の番になると、 誰もが軽んじる人物の推理が思わぬことに・・・。と云った内容です。アンチミステリとしていますが結局はラストには ミステリらしい意外なオチが用意されていて思わず頬が緩みます。 この本はミステリが盛りの1929年に書かれたということも特筆でしょう。バークリーはこの本でミステリ界に大きな足跡を 残すことになります。著作は多くありませんがいつまでも読み継がれる名作を彼は書き残したと云えます。

「眠れぬイヴのために」ジェフリー・ディーヴァーのミステリ

2015-01-31 13:38:19 | ミステリ小説
                            

ジェフリー・ディーヴァーと云えば鑑識の天才リンカーン・ライムを主人公にしたシリーズが有名です。
でも、これはそのシリーズが書かれる前の作品です。 サイコ・サスペンスとして紹介されていますがそれほどの深みは無いように思います。


精神病院から脱走したマイケル・ルーべック。分裂症の彼が向かったのは裁判で彼の有罪が確定する証言をした女のもと。
時を同じくして記録的な嵐が近づいていた。

そのルーべックを追う三人。懸賞金目当ての元警官とルーべックの主治医、そして証言した彼女の夫の弁護士。
三者三様の思惑がありルーべックを追う。 各人の視点で書かれている章のそれぞれの動きと徐々に荒れていく空模様。

医師としてよりも経営者としての病院長。彼の思惑に乗せられる州警察。
証言したリズボーンのもとに向かっていると思われるルーべックの追跡者の裏をかくしたたかさ。

追う者追われる者の途中で起きる殺人。
嵐がピークを迎える時ルーべックの本当の目的が明らかになる・・・。

そんな内容ですがリンカーン・ライムシリーズのような派手な演出はなくても充分読ませる筆力で、かなりのボリュームの長編ですが最後まで
飽きることなく読んでしまいます。ルーべックの行動の意味もですが、本質は人間ドラマが根底にありそれぞれの葛藤や裏切りなど人間臭い

部分が交差するところがキッチリ描かれており、それらが緊迫感を盛り上げていく効果として充分に計算されて書かれています。

個人的には魔術師やウオッチメイカーといったリンカーン・ライムシリーズの大向こう受けを狙ったような派手な演出のストーリーのものよりも
こういった地味ではあるが人間ドラマを下地にしたサスペンスタッチの物語の方が好きで面白いと感じます。

ラストはお約束どうり意外な真相が用意されていてミステリとしても楽しめます。

           

「鬼畜の家」深木章子のミステリ

2015-01-10 19:03:45 | ミステリ小説
                                    

異常な母親とその三人の子供たちとの生活ぶりが事件の関係者へのインタビューといった形で明らかになる、そんな内容のストーリー構成です。元刑事で今は探偵を生業にしている
男が依頼を受けそれぞれの事件の関係者に会って話を聞いていくそんなスタイルですが、各人の視点で語られる内容は凄まじいもので打算以外の何ものでもない女の生き方がクローズアップされます。そして三人の子供もその母親の

影響が色濃く出た性格となりどこか歪な人間性が見えます。タイトルからも想像されますが貴志祐介のホラー小説に「黒い家」と云うものがあります。どうしてもそっちの方に意識が向きますが実は後半からグッとミステリ度の上がった内容になります。いろいろな人物に会って話を聞いてきた探偵はやがて隠れていた事件の裏側にある恐ろしい真相に行き当たります。保険金目当てで家族に手をかけていく母親。そんな風に読んでいくと良くある悪女ものだと

思ってしまいます。ところがそんな予想を見事にひっくり返します。こう書くとちょっとネタバレ気味ですが、二重に読者の思い込みをひっくり返す作者のその周到な伏線の張り方と技のキレの良さは見事です。
恐ろしい女とその子供たちの物語が後半からはまるでその様子が変わっていくところが読ませます。真梨幸子の「殺人鬼フジコの衝動」も思い起こしますが、あれとは又違った仕掛けであり緻密な計算が施された内容で

探偵が各人に会って話を聞いた事柄から導き出したその答えに新鮮な驚きを感じるでしょう。