Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「七つの会議」池井戸潤のビジネスエリート物語。

2014-11-29 19:50:40 | ミステリ小説


一部上場の有名企業の子会社を舞台にした物語です。親会社の肝いりで設立された販売会社。設立当事から過酷なノルマを課せられ死に物狂いで販売に明け暮れて、

中堅企業だが名の通った会社になり課長や部長職のポストに付いた男達。同期の中から抜きん出るには結果がすべて。そんな過激なビジネス戦線を勝ち抜いてきた男達。始めの会議で二人の課長の姿が描かれます。

北川部長からの叱責が営業第二課の原島課長に浴びせられます。目標未達の報告に厳しい言葉を容赦しません。しかし、営業第一課の課長である坂戸は課題をクリアしており何の問題もありませんでした。その課長の隣には万年係長

の居眠りハッカクと呼ばれる八角民夫がいます。絵に描いたようなグータラ社員ですが部長の北川とは同期入社の仲で何故か北川は八角のことは黙認しています。このあとから各人の視点でエピソードが綴られていき徐々にある秘密が

浮かび上がってくるようになります。でもこの八角が最後に虚飾の繁栄か、真実の清貧か彼が選んだのは後者だった、として物語は終わりますがどうも私的にはしっくりきません。

あまりにもきれいごと過ぎるような気がします。純真無垢な少年も世間の垢に染まるとピュアな心も多少は曇ってきます。そんな埃に汚れた自分にはこの本は、例え少しばかりの必要悪も世の中には有ってはならない、

そうこの著者が言っているように感じてしまいました。うがち過ぎかも知れません。でも世の中「だったら良いよね・・・。」と思ってしまいます。大勢の中から勝ち抜いてトップに躍り出て君臨するのには

多少の後ろめたさや人には言えないことがあるはずです。清廉潔白な成功者なんてそんなに居ないと思います。正攻法では勝ち残れない、競争を勝ち抜くのはそういうことだと思います。

ちょっと斜めから見過ぎでしょうか?   しかし、説得力のある物語を見せてくれる著者のこの本は、今のんびりとサラリーマンは気楽な稼業だと考えている人にとってはガツンと目の覚める内容の物語といえます。

今、現実の社会でもある会社の大きな問題が話題になっています。文字どうり会社の存亡に係わる問題です。どうしてこうなったのか、誰の責任なのか、真面目に働いてきた社員にとってやるせない思いでしょう。

                             

「七つの海を照らす星」七河迦南のミステリ

2014-11-24 07:42:45 | ミステリ小説
                               

児童擁護施設を舞台にした連作ミステリです。いわゆる日常の謎をメインにしたミステリですが、児童擁護施設を舞台に据えたことで社会派的なテイストを持った

内容になっています。でも想像が付くようにこれらの世界のことを書くと内容が重くなってしまいます。暗く重い話は苦手と捕らえる人が多いと思います。著者はその辺を考えてか主人公になる子供たちの生活とか

抱える様々な問題はサラリと書いていますから読んでいるこちらの気分はそう重くはなりません。しかし、考えさせることはあるのでこの辺のさじ加減は著者の上手さではないかと思います

学園七不思議といわれる出来事があって、その謎に現在の出来事がリンクしていくストーリー構成になっています。七海学園に勤める保育士・北沢春菜がこの物語の主人公ですが、学園で生活するいろいろな子供たちが

巻き起こす問題や出来事が北沢春菜を悩ませます。そんな春菜を助けるのが児童相談所に務める児童福祉司の海王さんという人物です。春菜から話を聞くとあっさりと謎を解きます。するどい洞察力の持ち主ということですが

この探偵役の人物設定も好感が持てます。北村 薫の「空飛ぶ馬」他のシリーズのような円紫師匠と女子大生の私のコンビを彷彿とさせます。六つの謎が絡む物語を読み進むと最後に七つ目の物語があって

これまでの話がひとつに繋がっていることに読者は気付きます。このように書くとある意味ネタバレになるかも、ですがしかしそれでこの本の面白さが半減するとは思えません。

いろいろなピースが最後にピタッと合わさり、これまで読んできた様々な出来事の裏にあったことが実はひとつに繋がっていた、そんな仕掛けのあるストーリー構成になっています。

こういった仕掛けそのものは目新しくはありませんが、これが見事に嵌まると読後感は爽快になります。この本もそういった点では成功していると思います。このスタイルは続編の「アルバトロスは羽ばたかない」にも

使われています。この続編の「アルバトロスは羽ばたかない」も中々悔やまれない一冊です。二冊続けて読むと著者の意図がはっきりと解かります。日常の謎を扱ったミステリも沢山あり、それぞれ作家の個性を出した

世界感とか設定を考えた物語が書かれていますが、この二冊も読んで損の無いミステリといえます。第18回鮎川哲也賞受賞作ですが水準以上の作品だと思います。

                            

「扼殺のロンド」小島正樹のミステリ

2014-11-17 08:38:56 | ミステリ小説
                             

トリックに派手な要素を取り入れる作家です。ミステリらしいミステリと云えるかも知れません。タイトルからして作者の意図が隠されています。

二重密室と容疑者不在。これだけでも中身の濃いストーリーになりますが、この他にもミステリのガジェットやアイテムがいろいろ詰め込まれた贅沢な内容のミステリです。今は使われていない自動車修理工場。その中に

クルマが一台壁に激突して止まっています。衝撃によりドアは開かない状態で男と女が死亡していました。さらに数分後にこの地の持ち主が事故に気付かず表門を閉じてしまいます。二重の密室です。

検視の結果助手席の女は腹を割かれ内蔵が抜き取られていました。運転席の男はまるで高山病のような症状で死亡していました。事故の直前にすれ違った他の車のドライバーは二人が生きていたと証言します。

この謎に刑事コンビとその友人、そしてその友人の仲間に自称名探偵と云う男がいて、そんな彼らが調べていく過程が主なストーリーとなっています。とても奇妙な冒頭の謎の設定です。不合理な二人の死因にどう説明を

つけるのか興味津々で読み進みます。はじめに大きな謎を見せて、後はその謎の解明にただ動き回るだけの内容では普通のミステリです。三津田信三とかこの小島正樹のミステリはそんなゆるいミステリではありません。

二転三転するストーリーに読者の想像をひっくり返したりと、ミステリの要素をいくつも詰め込み著者のミステリを愛する心とミステリファンへのサービス精神に溢れた内容がこの二人の作家の特徴です。

いわばオーソドックスな内容と採れなくもありません。しかし、こういった内容のミステリは心地よいものです。時間の過ぎるのを忘れて読みふけります。

この謎の結末が気になったあなた。もう読むしかないですね。