Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

爆笑ミステリーの一品。

2014-01-26 09:49:59 | ミステリ小説
「シューマンの指」の作者の奥泉 光氏が書いた作品です。赤川次郎氏が初期のころ書いた「三毛猫ホームズ」などが
ユーモア・ミステリーと云われましたが
                これはその上の爆笑ミステリーと云えると思います。クワコーこと桑潟幸一准教授の大学での様子、ひとつの組織内での彼の生活の様子とか、むりやり顧問を任された文芸部の変人女子たちとのやり取りなどが爆笑を誘います。彼の志の低さや事なかれ主義的な生活のあり方、給与面からくる汲々とした食生活ぶりなどがもっともらしく描かれていて、世間一般が思っている大学教授のイメージが根底から覆される有り様です。「呪われた研究室」と「盗まれた手紙」、「森娘の秘密」の中篇三作が収められていますが、文芸部の面々の今どきの女子大生そのものといった生態がとてもリアルに描かれていて、彼女達に振り回されるクワコーの情けなさが自虐的でやる気のなさが更に笑いを誘います。大学内でささやかれる謎めいた話と事件。そして数名の目がある中で消えた人物。ミステリ度もしっかりした話で文芸部のひとりジンジンが解き明かす真相の意外さも楽しめます。気分がクサクサしている時などに読んでみるのをおススメします。

歌野晶午のミステリ「密室殺人ゲーム王手飛車取り」

2014-01-12 11:20:36 | ミステリ小説
この本は非常にマニアックな側面を持った本です。ミステリとは?との問いに作者が示した答えがこの本であると言えます。
ですから、あまりミステリを読まない人がこの本を手にしたとしたら、恐らくその内容に戸惑うことでしよう。
これはミステリ作家とミステリ愛読者との楽しい遊びの空間であると言えます。非常に高度な問題を設定し答えもキチンとみせる
作者の手腕にただ驚くばかりです。ミステリの醍醐味を思う存分楽しむことが出来る内容で、その質の高さも一級品です。
プロットを生かす設定に違和感を覚える人がいるでしょうが、そこは先に説明したように「その世界の住民」であれば気にしません。
テーマはモラルでは有りません。勘違いをしないようにして下さい。多くはハウダニット、いかに犯行を成し得たか、が問題となっています。
ネットの世界で繰り広げられる五人による推理ゲーム。究極の推理ゲームにあなたも参加してみてください。

「聖女の救済」東野圭吾のミステリ

2014-01-06 01:10:15 | ミステリ小説
ミステリ小説は文学にはなり得ない。なぜなら人間が描けていないから。これがよく目にする通説です。
東野圭吾のミステリはこの通説を意識したのか「白夜行」以降
作風が変わったように私には思えます。それまでかなりこの人のミステリ
を読んでいましたが「白夜行」からはあまり読まなくなりました。
「容疑者Xの献身」は本を読まずにDVDで映画作品を観ました。感想は「なるほどねぇ」
といったところでした。この「聖女の救済」はタイトルから面白そうな感じがして
読んでみましたが個人的には平凡な作品としか云えません。
この本で使われているトリックはどうだろうか、あまり現実的でないと好意的でない評価を目にしましたが
主人公が、結果はどうでもよかった。私の気持ちがそうさせた。と云っているように結果にとらわれない
行為だということで私としては納得しました。
この「聖女の救済」もいってみればアリバイ崩しの作品ですが、どうも人間ドラマに重点を置いているようで
自分の好みからは外れているようです。私はやはり純粋な謎解きのミステリが読みたいと思います。

強運を奪い合うゲーム「10億分の1の男」

2014-01-05 10:15:33 | 日記
  飛行機の墜落事故が起きる確率は100万分の1。乗員237名、生存者として助かる確率は2億3、700万分の1。トマスはその事故からひとり助かった。生まれ持った強運の持ち主。その強運の持ち主たちが集まり強運を奪い合う不思議なゲームが行われる。カジノを経営するサム。そのサムは30年間負け知らずの世界一運の強い男。
そのサムが経営するカジノの地下でゲームが始まる。トマスは銀行強盗を終え飛行機に乗って逃走していたが墜落事故にあった。そのトマスが眠る病室の傍にはクルマの事故で同乗していた夫と娘をなくしたがひとり助かった女刑事。そんな運の持ち主が集まりそれぞれゲームが行われ、勝ち上がってきた二人が最後に行うゲームとは、リボルバーに弾丸を一発込め相手に向かって引き金を引くという究極のゲーム。相手の持っている強運を奪うという発想がユニークで、またゲームも運試しのような方法で決着をつけるのが面白く、予測不可能な展開で進むストーリーはサスペンスものとしてもなかなか見応えがあります。良くこんなシナリオを考えたなと感心する内容の作品です。

   2001年 スペイン 108分
 監督のファン・カルロス・フレスナディージョはヴァラエティ誌に2003年度の「将来を注目すべき10人の監督」に選ばれている。

「灰色の虹」 貫井徳郎

2014-01-05 08:40:15 | ミステリ小説
冤罪をテーマにした物語です。普段私達が目にしている新聞記事、テレビのニュース。自分の生活とは別次元での出来事と感じて、報道される事柄を「事実」と無条件に信じ込んでいませんか。昔々は新聞記者も足で記事を書いたそうです。だが誤報が生まれ社の信頼が失墜することを恐れいつの間にか記者クラブが出来ていました。警察の広報官がその記者クラブで読み上げる捜査内容が記事になる。
そんな時代になっています。テレビのニュース番組でも天気予報でも、どこどこによりますと、と話します。気象庁の発表によりますと明日は晴れるそうです、と云います。つまり雨が降っても当方の責任では有りませんといっているのです。 さて、内気で気弱なタイプの男が逮捕され過酷な取調べに負けて、やってもいない事件をやったと云えばどうなるか。法律的なことは何も知らない一般市民は裁判で本当のことを言えば解かって貰える。大丈夫だ自分は無実なのだから。そんな風に自分を安心させます。しかし、裁判で状況を覆すことが出来ず刑が確定します。昨日まで平凡な一市民が逮捕、起訴されるとどうなるか。世間は家族まで容赦しません。例え冤罪と訴えても誰も聞く耳を持ちません。大勢の人の人生が滅茶苦茶になります。このあたりの残酷さを作者は徹底的に描きます。壊れた人生、壊れた家族。やがて主人公はたったひとりの味方である母のもとから姿を消します。
そして刑事、弁護士、裁判官と次々事故や事件にあって死んでいきます。一本の線で繋がることに気付いたひとりの刑事。その刑事もわずかな金を奪う目的の男達に襲われた恋人が殺された過去を持っていた。
復讐は是か否か、そんな問いかけのストーリーです。ラストの意外性はミステリとしては弱いのでミステリ要素のある犯罪小説だと思います。
しかし、考えさせる内容でした。