Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

京極夏彦・その世界

2013-12-31 09:39:16 | ミステリ小説
初めて読んだ「姑獲鳥の夏」。書店の棚にズラリと並ぶ多くのミステリーの中から選んで取り出した一冊。

我ながら「面白そう!」と感じる予感めいたものはこれまで外れたことはありませんでした。これは森 博嗣の「すべてがFになる」を手にした時も同じです。

さて、どの本を買おうか、何か面白い本はないだろうか、と書店の棚の前に立ったとき予感めいた確かさで選ぶ自分のセンスにいつも満足しています。

さて、この京極夏彦の本、ある意味古めかしい言葉使いのタイトルでミステリーらしからぬ装丁の本でした。

しかし、読んでみて絶句しました。その独特の世界。憑き物落としの陰陽師こと古書店の主人が名探偵の役割で、他の登場人物たちもそれぞれ個性的な魅力

を持った人物ばかりで読み始めてすぐに物語に引き込まれました。またこれまで漠然とした知識しかなかった怪異についての薀蓄もなかなか読み応えがあり

その解釈に目を見張りました。そしてストーリーと怪異についてのサブストーリーが上手く交差していく展開に、ミステリーの要素を絡ませた

内容はこれまでにない新鮮さですっかり彼のファンになりました。

この後も「魍魎の匣」、「狂骨の夢」、「鉄鼠の檻」、「絡新婦の理」とシリーズが続きとても楽しく読みました。

デザインの仕事の合間に書き上げたという氏の作品はとても素人離れしており文章力は並ではありません。

「世の中には不思議なことなど何もないのだよ関口君」という京極堂のセリフも決まっており、薀蓄を絡ませた広い見識と博学による洞察力でことの真相を披露する

最後のシーンには胸がスッとする快感すら感じます。

とにかく他とは一線を画す世界を創造し探偵小説とした氏の一連の作品はとても価値のある作品であると思います。

願わくばもう一度、シリーズのような内容の新しい作品を書き上げて欲しいと思います。          

最後にホッと一息の面白さ。

2013-12-09 12:36:46 | 日記

 
雪が降り積もる寒い田舎町。さえない保険業のミッキーは妻とも上手くいかず金繰りも上手くいかずで鬱屈した日々を送っていた。

そんな折知り合った独り身の老人の家に出入りしていると、老人が持っているバイオリンが骨董的価値のあるバイオリンと知る。多少ボケ気味の老人の目をかすめバイオリンを手に入れて

大金を手に入れようとするが思わぬ方向に計画が狂いだすことになる。 バイオリンを巡って右往左往するミッキーたちの様子が笑わせられるが、かなりブラックな

笑いで滑稽さのなかに身につまされる部分もある。

知り合ったセキュリティー機器の業者の男と、老人の留守に家に入り込みバイオリンを探していると隣人の男がやって来て二人に何をしているのかと詰問する。

思い余ったセキュリティー業者の男は隣人の男を殴り殺してしまう。その場で写真を撮られたミッキーは俺たちは同罪だと脅され

彼の云うまま動かされる。
 


多少価値のあるバイオリンと知った老人。ミッキーの態度からバイオリンの存在に気付いたセキュリティー業者の男。


この後バイオリンを巡ってドタバタが続くのだが、次第にセキュリティー業者の男に追い詰められていくミッキー。何も方法が思いつかず湖から変死体のニュースが紙面にあるのを見て、せっかく手に入れた

バイオリンも証拠品になるためゴミ箱に捨ててしまう。  だが、この後のシーンに意外なドンデン返しがあって、これまでの話が「そうだったのか」とニヤリとさせられる。

なかなか良く出来た脚本で見応えのあるサスペンスでもあり、主演のグレッグ・キニアの変に生真面目的な顔と演技につい笑ってしまう。

彼の妻役にリー・トンプソンが出ている。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が懐かしいが顔立ちはそんなに変わっていない。


最後にホット一息の余韻もあり中々面白かった。 こんな映画が楽しい。


「パーフェクト・プラン完全なる犯罪計画」

監督 ジル・シュブレッヒャー
                       出演 グレッグ・キニア
                          アラン・アーキン
                          ビリー・クラダップ
                          リー・トンプソン
                       2011年 アメリカ 93分   

「体育館の殺人」と「水族館の殺人」その論理的展開の面白さ。

2013-12-08 10:00:51 | ミステリ小説
現役大学生作家の青崎有吾。まだ二冊しか出ていないが、デビュー作の鮎川哲也賞を受賞した「体育館の殺人」


この作品とシリーズ二作目の「水族館の殺人」


この二作品は平成のエラリー・クイーンと単行本の裏表紙に書かれているとうりに、圧倒的な論理的展開の面白さを堪能できるミステリです。

高校生の裏染天馬という人物が主人公の名探偵ですが、彼を取り巻く同じ高校の仲間達との関係とか距離などがうまく配置されています。
卓球部の袴田由乃、その兄が刑事ということで一作目の「体育館の殺人」から刑事たちと顔見知りとなり、その非凡な洞察力を買われ事件にクビを突っ込むこととなります。

「体育館の殺人」では一本の傘が物語のキーワードになります。激しい雨が降る時体育館のなかで行われた殺人。現場は扉が一部閉じられていたり他の部活動の部員たちが数人いたりして密室状態でした。
犯人はどこから来てどこに消えたのか?隣接するトイレで見つかった一本の傘。証拠品といえるのかはっきりしない一本の傘。そこから裏染天馬は論理の積み重ねにより犯人を指摘します。
一本の傘から何故犯人が?と思われるでしようが、雨の降りしきる中何故トイレに傘があったのか、誰も自分の所持品と申告しない一本の傘を巡って天馬の推理が驚きの展開をみせます。

二作目の「水族館の殺人」ではアリバイ崩しが命題です。数分の時間で水族館にいる職員のアリバイが明確に証明されます。しかし誰もが犯人で有り得ない状況から
調べが進むに連れて誰もが容疑者へと変化します。黄色いモップと青いバケツ。何故それがそこにあるのか。それはどの様に作用したのか、何気ない現場の状況も天馬の論理展開により
姿の見えない犯人へと迫っていきます。推理を実証するために実験をしたりと単なる思い付きでないことを証明します。
刑事たちとの関係に絡ませて天馬自身の私生活面の隠された部分も少しずつ明かされるなど、細やかな計算によりシリーズとしての世界を広げる様子が見て取れます。

試行錯誤の末に犯人を特定できたのは黄色いモップと青いバケツでした。

人の眼や監視カメラなどで守られたアリバイも天馬の推理には叶わなかったのです。

横浜在住の現役大学生とのことですが、この作者只者ではありません。今後が楽しみな作家です。

圧倒的な論理的展開による面白さ。ミステリの醍醐味がここにあります。ぜひ興味のある方は一読を。