Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『ルパンの消息』横山秀夫のミステリ

2014-03-30 13:48:18 | ミステリ小説
『半落ち』や『64ロクヨン』とか『クライマーズ・ハイ』、『第三の時効』などいわゆる警察小説で話題作の
多い横山秀夫氏の『ルパンの消息』を紹介します。これは氏の幻のデビュー作と云われていた作品ですが、2005年にカッパノベルスとして刊行されました。
今はありませんがサントリーミステリー大賞第9回(1992年)に佳作入選したものです。
このデビュー作から今の作品の形というか男臭い刑事たちの事件解決への一直線の気持ちとか、本庁や所轄、キャリア組みとノンキャリアの叩き上げ刑事たち等における
人間臭い軋轢などが描かれ物語の軸を彩る演出として上手く活用されています。
情報源は秘匿として過去に自殺として処理された事件が実は殺人であり、当事在校していた高校生三人がルパン作戦なる行動をとっていた。
死亡した同校の女教師に何らかの関わりがあった模様。時効まで1日しかない。このような状況のなか必死の捜査が開始される。
直ぐに一人の男が任意同行で所轄にひっぱられ調書が取られる。彼の供述を追う形で読者も当事の状況を知る展開になります。
このストーリーのミソはあの三億円事件を扱っていることです。悪がき高校生三人が学校に忍び込み保管されている試験問題を盗み出す。
それがルパン作戦です。この行動のなかに女教師の死亡事件が絡まってくるのですが、当事は遺書もあり自殺として処理されていたのです。
彼らが入り浸っていた喫茶店がルパンという名の店でした。マスターは例の三億円事件のモンタージュにそっくりで事実警察にもマークされていた人物という設定です。
他の二人の男も所在が調べられそれぞれ刑事が調書を取ります。捜査チームのリーダーである溝呂木が調書から当事の本当の出来事を探り出していく様子が
時効というタイムリミットを使いとても上手く書かれています。ラストには意外な犯人が用意されています。そして高校生三人の人生なども当事の出来事を引きずったままの者など
様々な様子をみせ物語に厚みを持たせる工夫を凝らし新人らしからぬ筆力で読ませます。

    
           


「火の粉」怖い隣人の物語

2014-03-23 08:38:35 | ミステリ小説
雫井修介 著『火の粉』は映画で云えばサイコ・ホラーのような隣人の恐怖を描いた物語です。
親切で世話好きな男。あれこれと気を回しいろいろ手伝ったり話相手になったりと好人物に見える男。だが、その男には異常な点があった。彼は自分の親切に対して見返りを求める。
金銭とかそういったことではなく自分を認めてくれという意味で、ないがしろにされたり相手にされないとお仕置きという攻撃を相手に加える。

裁判官だった梶間は最後の裁判である殺人事件の被告に無罪を言い渡す。その男の名は武内。

ある日梶間の妻が庭にいると隣の庭から話しかけてくる男に気付く。何かと親切にいろいろ話しかけてくる男と妻はいつの間にか打ち解けた隣人としての態度をとるようになる。
裁判官だった梶間の家には介護が必要な梶間の母親と弁護士を目指す浪人の息子。その息子の妻とひとり娘の五人が住んでいた。梶間は隣に引っ越してきた男が武内と知ったが距離をおいた態度でいた。
いちばん打ち解けたのは梶間の妻でいつしか家に上げお茶を飲みながら話をするようになっていた。しかし、家族中が親密になる中息子の嫁雪子ひとりが武内に違和感を持つ。
武内も自分を見る目が違う雪子の態度に気付く。ここから手に汗握る展開となっていきます。誰も雪子の話を受け止めず武内の陰謀で夫とケンカした雪子は家を出され実家に帰ります。いちばん
頼りの夫が雪子の話をまるで信じず過去のある人間を色眼鏡で見るなとむしろ雪子を非難します。この孤立無援の雪子の闘いぶりが中々上手くページをめくる手が止まりません。
武内の本性が少しずつ現れてくる怖さもあり結末が気になって最後まで一気読みでした。
ミステリとは違いますがサスペンスものとして読み応えのある内容でした。人の内面までは中々見抜けない。そして、隣人は選べない。お化けや怪物より怖い物
それは人間だということなんでしょうか。最後の皮肉さもひとつの問題提起のようでいろいろ考えさせる物語でした。

          
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「ディアトロフ・インシデント」事実の事件を描く

2014-03-22 17:44:08 | 日記
レニー・ハーリン監督の作品です。この人はダイハード2のあとスランプに陥ったみたいでパッとしない作品ばかり撮っていましたが
最近よくなったのか良い仕事をするようになってきました。これは1959年実際に起きたディアトロフ峠事件を映画化したものとのことで興味津々で観ました。
ディアトロフ峠事件とは、旧ソ連で極寒のウラル山脈を越えようとした9人の登山バーティが遭難した事件です。しかし、遭難した9人全てが死体で見つかったのですが
その様子が外傷がなく頭蓋骨が折れていたり、舌が切り取られていたりする者や、高い放射能に汚染されていたりと不可解な状況だったことです。
謎が解明されないまま年月がたち人々から忘れられていったこの事件を、アメリカの大学生たちが真相を探るため調査を始め事件の現場に辿り着くが・・・。
そんなストーリーとなっていますが、興味はどのような解決をみせるかでしょう。事件の前にオレンジの光が見えたとか、原住民による他殺事件であるとか、周りには他の登山隊などの
痕跡は何もなかったとかいろいろ云われていたようです。しかし、妙な扉を見つけ中に入っていくところまではいいですが。
結局、あの話の持っていき方ではその時点で興味が半減します。まえふりは良かったんですが、後半はガッカリな印象でした。
もっと違ったストーリーで見せて欲しかったと思います。個人的には「サンクタム」と同じぐらいガッカリな内容でした。

         

「トランス」ダニー・ボイル監督のサスペンス

2014-03-22 17:05:01 | 日記
「127時間」の後のダニー・ボイル監督の新作です。「127時間」は鮮烈な映像で魅せてくれましたが、今回は催眠=トランスといったお話で
オークション会場からゴヤの名画「魔女たちの飛翔」を盗み出す途中、競売人のサイモンが計画に無い行為をしたためボスに頭を殴られることになります。このケガがきっかけで彼は記憶を
失います。回収して持ち帰った額縁には絵がないことに気付いたボスはサイモンに絵のある場所を吐かせるために心理療法、催眠術の治療を受け記憶を取戻させようとします。
しかし、サイモンの頭の中は複雑でした。それには理由があるのですがネタバレになってしまうのでここは書けません。
とにかく絵がどこにあるか記憶を取戻させようと焦る強奪メンバー。そこに何故か治療を担当していた女の医師が入り込んできます。いろいろ手を尽くす心理療法ですが少しずつ
記憶が戻ってきます。しかし、このあと展開が目まぐるしく変わり先が読めなくなります。女性医師とサイモンの関係。絵の隠し場所。強奪メンバーたちの動き。
これらが127時間で見せたスタイリッシュな映像で描かれます。1カットにこだわった映像。バックに流れる音楽。いずれもダニー・ボイルらしい心地よいものです。
ことの真相もラストの余韻の良さもありスッキリした気分で観終わりました。

        
                  

「モネ・ゲーム」楽しいドタバタ劇

2014-03-22 16:49:39 | 日記
好きなコーエン兄弟が脚本を手がけたものなので楽しみにしていた。劇場では観ることが出来ずにいたので早くDVDが出て嬉しい。
往年のピンク・パンサーのようなドタバタ劇でもあるし、コリン・ファースとキャメロン・ディアスの顔合わせによる犯罪コメディとなれば見逃すわけにはいかない。
一枚の絵を巡って騒動が起きるわけだが、オチはあ、そっちだったのかと思わず笑ってしまった。キャメロン・ディアスも初めて見た「メリーに首ったけ」からみると
だいぶお歳を召しておられるがキュートさは残っていて楽しかった。コリン・ファースは務めて無表情にして感情を抑えた男でそういった役がよく合っていた。
モネの贋作を用意して億万長者をカモにしょうとする計画だが、思わぬ展開で計画が狂いだしていく・・・。そんなストーリーでよくある話と言えなくも無いが
そこはコーエン兄弟、ちゃんと見せてくれます。ホテルを舞台にしたシーンはどこかで見たようなシーンでもあるけれど、それらもストーリーの展開上はずせなく
そういった引っ張りがあってこそラストのオチが決まるわけで、演出の確かさを実感するところです。ちょっとお腹がすいた時のスナック菓子のような小品ですが楽しめました。