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いわゆる「骨格提言」に基づき 障害者総合支援法の抜本的見直しを求める経緯と現状について

2012年09月23日 17時10分21秒 | 障害者権利条約Vs障害福祉

「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」

(いわゆる「骨格提言」)に基づき

障害者総合支援法の抜本的見直しを求める経緯と現状について


障害者総合福祉法をちゃ~んと成立させよう!城南地域集会実行委員会

PDF版はこちら http://www015.upp.so-net.ne.jp/shigehp/setumei.pdf

1■骨格提言とは何ですか。

平成21(2009)年12月、障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」という)の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革を目的として「障がい者制度改革推進本部」が設置され、この下で、障害者施策の推進に関する意見をまとめる「障がい者制度改革推進会議」(以下「推進会議」という)が発足しました。

このことは、障害者権利条約の基本精神である「私たち抜きに私たちのことを決めるな!」(Nothing about us without us!)を踏まえた政策立案作業の開始を意味します。

平成22(2010)年4月には、この推進会議の下に、障害者、障害者の家族、事業者、自治体首長、学識経験者等、55名からなる「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」(以下「総合福祉部会」という)が設けられました。

さらには、平成22(2010)年6月29日、政府は閣議決定を行い、推進会議の「第一次意見」を最大限に尊重し「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」を定めました。その中で、とくに「『障害者総合福祉法』(仮称)の制定」に関しては、
「応益負担を原則とする現行の障害者自立支援法(平成17年法律第123号)を廃止し、制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体系の整備等を内容とする「障害者総合福祉法」(仮称)の制定に向け、第一次意見に沿って必要な検討を行い、平成24年常会への法案提出、25年8月までの施行を目指す。」と定められました。

こうして総合福祉部会は障害者総合福祉法の制定に向けた検討という使命を背負って18回の検討を重ねてきました。そして、平成23(2011)年8月30日に発表されたのが、骨格提言です。

2■骨格提言の基礎となった2つの指針とは何ですか。

総合福祉部会の55人の立場や意見は多様ですが、次の2つの文書を前提として検討作業を行ってきました。それは、平成18(2006)年に国連が採択した「障害者権利条約」、そして、平成22(2010)年1月に国(厚生労働省)と障害者自立支援法訴訟原告ら(71名)との間で結ばれた「基本合意文書」です。これらの文書は、総合福祉部会が、障害者総合福祉法の骨格をまとめるに際し、基本的な方向を指し示すなど重要な役割を果たしました。

(1)障害者権利条約
この条約は、すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することなどを目的としています。
とくに、第5条(平等及び差別されないこと)において、合理的配慮の確保が求められています。
また、第19条では、「すべての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を認める」とし、
「(a) 障害者が、他の者と平等に、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の居住施設で生活する義務を負わないこと。」
「(b) 地域社会における生活及び地域社会への受入れを支援し、並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援[personalassistance]を含む。)を障害者が利用することができること。」
を締約国は確保するとしています。

このように条約は、保護の客体とされた障害者を権利の主体へと転換し、インクルーシブな共生社会を創造することをめざしています。

(2)「基本合意文書」
この文書では、
「国(厚生労働省)は、速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し、遅くとも平成25年8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する。そこにおいては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」
「(障害者自立支援法、とくに応益負担制度などが)障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、・・心から反省の意を表明する」
「・・新たな福祉制度の構築に当たっては、現行の介護保険制度との統合を前提とはせず・・」
「今後の障害福祉施策を、障害のある当事者が社会の対等な一員として安心して暮らすことのできるものとするために最善を尽くす」などが確認され、利用者負担、支給決定、報酬支払い方式、「障害」の範囲、予算増などについて原告らの指摘を踏まえてしっかり検討するとしています。

3■骨格提言には、おおよそどんなことが書かれていますか。

骨格提言では、現行法の問題点を踏まえた上で、障害当事者が求める「あるべき姿」がしっかり書き込まれました。その柱は次の6点です。

1,障害のない市民との平等と公平(=他の者との平等)の実現
2,現行法でカバーできていない制度の谷間や支援の空白状態の解消
3,自治体間、あるいは障害種別間による支援の格差の是正
4,社会的入院・入所や家族の丸抱え、といった放置できない社会問題の解決
5,介護保険のように「何ができる・できないか」という日常生活動作の査定ではなく、本人が「どのように暮らしたいか。そのためにどういう支援が必要か」という本人のニーズに基づいた支援サービス
6,OECD加盟国で下から5番目、という低い予算水準を打破し、障害者の地域生活支援を充実するための安定した予算の確保

4■骨格提言を作った「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」は画期的な組織だったと聞きます。その特長は何ですか。

障がい者制度改革推進会議は24名の構成員のうち14名が障害当事者・家族という、我が国の障害者関連の審議会では初の、当事者が過半数を占める委員会でした。「私たち抜きで私たちのことを決めないで」という政策形成過程への当事者参画が、ようやく日本でも具現化されたのです。
総合福祉部会では、厚労省側が推挙する人選と、内閣府担当室側が推挙する人選がほとんど重ならなかったので、結果的に55人の委員会という異例の大人数となりました。これは裏を返せば、自立支援法制定時の賛成派と反対派、あるいは厚労省審議会メンバーとそこから排除されてきた人びと、入所施設維持派と地域支援推進派、といった垣根を乗り越えて、障害者福祉に関する広範囲なメンバーが国レベルの会議で顔をつきあわせた、という画期的な会議でした。
この部会が作り上げた骨格提言は、日本で始めて、障害者福祉に関わる諸団体が合意形成をした成果と言えるでしょう。


5■先般成立した障害者総合支援法では、骨格提言が反映されていないと聞きます。どの程度の反映がされていますか。

総合福祉部会の部会長の佐藤久夫さんが、4月6日に「障害者総合福祉法の骨格提言と障害者総合支援法案との比較表」を公表しています。これによれば、骨格提言の60項目のうち、
・不十分ながら骨格提言を取り入れている事項 1/60
・検討されてはいるが、その内容が不明確またはきわめて不十分な事項 21/60
・全く触れられていない事項 38/60

という結果でした。

6■総合支援法の成立をめぐり、障害者団体の見解が分かれてしまったと聞きます。どのような背景があるのですか。

根本的には、自立支援法への見解の相違が尾を引いています。さまざまな見解がありますが、以下の見解を参考にしてください。

「…ところが我が国では、介護保険制度と障害者福祉の統合論は、前述のように、当時の財政制約を解決するための、厚労省が突然発表した案であり、そこには当事者からの同意もなかった。

制度の持続的安定のためには「これしかない」と押し切る厚労省の説得に、支援者団体や障害者家族会などでは「仕方ない」と賛同する論調もある一方、地域自立生活を切り拓いてきた、また権利条約制定過程を横目で見ている障害当事者達は、この改革は社会モデルではなく、医学モデル型の抑圧的な改正であり、当事者が政策形成過程から排除されている、と猛烈に抗議をした。

結果、介護保険法との2005年段階での統合はなくなったが、2006年に施行された障害者自立支援法は、介護保険との統合を将来的に見込んだ制度設計であり、サービス利用者の1割負担の導入や、要介護認定にきわめて近い障害程度区分認定にもとづく支給決定制度など、「介護保険に似せすぎた」とも揶揄される法律であった。また、当事者の声にもとづかない制度改革についての批判もかなり強かった。そして最大の不幸は、制度の持続可能性や安心安全を求める支援者団体や障害者家族団体と、当事者の声にもとづく政策を求める障害当事者団体の間で、自立支援法賛成派と反対派に分かれてしまったことだ。これは、医学モデルと社会モデルとの、パラダイム間の相克とも重なる対立であった。」

2012年2月20日 「障害者制度改革の重大な岐路」 竹端寛(元・内閣府障がい者制度改革推進会議総合福祉部会構成員)



7■「骨格提言」を理解することを通して、社会合意を図っていきませんか。

この間、障害者団体と関係者は、大きな混乱を強いられまた。しかし、そのような状況の中にあってもなお、障害者団体の共通した見解としてあるのが、「骨格提言」の実現です。私たちは障害者が権利主体となる社会の実現に向けて、この共通見解を軸に地域合意をはかっていきたいと考えるのです。また障害福祉に関わるものだけではなく、広く地域社会の中でこの「骨格提言」への理解を得る機会としていきたいと考えます。私たちは、そのために、積極的に学習と行動を働きかけていきたいと考えています。

元・障がい者制度改革推進会議総合福祉部会長の佐藤久夫さんは、「福祉新聞」の 2012年8月27日「論壇」で以下のように述べています。

「小宮山厚生労働大臣は国会答弁で繰り返し述べてきた。「骨格提言は障害者の願いが詰まった重いものでぜひ実現したい。しかし予算の壁などがあるので段階的・計画的に。すぐ出来ないものは検討項目に入れた。骨格提言に沿って、かつ障害者の意見を反映させて検討する。」国会で約束した大臣の言葉を信じたい。」


「…骨格提言は障害者、地方議会、地方行政、司法の声でもある。自立支援法違憲訴訟の基本合意や骨格提言に励まされてますます多くの障害者が、安心して生きるために、そして胸を張って社会参加するために、必要な支援を請求する時代になっている。これは東日本大震災後に日本がめざしている新生・復興の共生社会への道の一部である。そのために障害者、家族、行政職員、支援職員が骨格提言を改めて学び合い、行動し、この歴史の流れを早めたい。」

 

 


(なお、この説明資料は、骨格提言本体と、竹端寛さんの前述の文書から大量の引用をしています。)


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