2016年4月1日に障害者差別解消法が施行されるのだという。大田区もようやく重い腰を上げ、「副区長を本部長とする『大田区障害者差別解消推進本部』を立ち上げ、全庁体制での取り組みをすすめているところです。」とのことだ。そこで、行政機関のサービスを利用する場合などにおいて、「障害を理由とする不当な差別的取扱い」及び「合理的配慮の提供」について具体的な事例について情報提供を、という要請が、大田区自立支援協議会委員、専門部会のみ委員に対してあった。8月24日の依頼で、提出期限は9月4日。というわけで、とりあえず区が関わっている事項として3点上げさせてもらった。うち2点は、聴覚に障害を持つ人への情報保障でいつも障壁になっていること。残りの1点は、僕の周囲で出会う移動支援の場面でよく目にするが一向に改善されないこと。
不当な差別的取り扱い、とまでいえないと思うが、合理的な配慮をしないことを差別に含む、と障害者権利条約は明記しているので、事例にあげた。
【事例1 手話を必要とする人が学習会、講演会、その他会議に参加する場合について】
・現在、学習会、講演会、その他会議の場での手話の情報保障について、聴覚障害の当事者が依頼する場合は無料だが、主催者が依頼する場合は有償であり、公的な負担はないのでかなりの高額である。
本来、情報保障の合理的配慮は主催者側にあるので手話通訳の依頼を主催者がするのは当然だが、聞こえる人、聞こえない人、手話を使う人、使えない人が席を同じくする場面で、通訳を必要とするのは双方であり、一方に行政の支援がないのは行政の合理的配慮が欠けていると考えられる。
【事例2 パソコン文字通訳を意思疎通支援に含めないことについて】
・聴覚に障害がある人の中で、手話を使用する人は20%程度と言われている。手話を使用しない聴覚障害者の多くが、文字による情報保障を必要としている。また、老人性難聴は70歳代からは人口の半数以上に達するといわれている。現状の要約筆記は情報再現率が20%程度といわれ、情報の欠落が激しい。
パソコン文字通訳は話される情報の再現率が100%に近く、また聴覚に障害のない人も理解でき、情報の共有度が高いのでユニバーサルな資源でもある。にもかかわらず、パソコン文字通訳が意思疎通支援のメニューに含まれないため、導入のコストを主催者が全て負担することになり、特に中・小規模の会合場面での利用を抑制する要素になり続けている。
【事例3 親が就業している家庭に居宅介護の支給決定がおりないことについて】
・知的障害者の移動支援の中で、「親が仕事から帰ってくるまで家に帰れない支援」が往々に存在する。外出のニーズはそれ自体じゅうぶんに柔軟に保障されるべきだが、単に居宅での見守りが支給決定されないために、本人の帰宅の希望は読みとれつつも、支援者が本人をいろいろとなだめながら、本人と支援者が外で時間をつぶしている、というケースはよく見られる。
親が就業せず見守りをするべきであって、親の就業が理由で在宅での見守り支援が必要、という支給決定はありえない、という考えがベースになっていると考えられる。一方で現実的にそれでは家族が成立しない、という事情を理解したうえで、暗黙で勘案して移動支援の支給決定をしていると思われるが、必要な就業をしている家族に対して居宅支援の支給を出さない、という「不文律」は合理的配慮に欠けると考える。