
11月12日、午前8時半、那覇空港に向け飛行機は出発した。この日は風が強く飛行機のアップダウンもあって、少し遅れて11時に到着した。いつも利用しているレンタカー会社のバスに乗り込み、空港から10分ほど離れたレンタカー会社で手続きを行った。車両の色はリクエスト通り、黒色を確保して頂き、ご機嫌に荷物を車中へ積み込む。
この日の沖縄は、空はどんよりと曇り、幾重にも重なった雲の色は、今にも雨が降りそうな様相だった。気温は25度。出発時とは異なり、過ごしやすい温度だ。仲間は、『雨降りそうやな~』とつぶやいたが、『お参りするまで絶対に雨は降らないから。』と応えた。
すっかり見慣れた風景に、車は滑り出す。6月に立ち寄ったカフェへと向った。ここでこの日の昼食を摂る。模造の大木の上に作られた平屋の建物は、非常にインパクトがある。前回もそうだったが、この印象に導かれ立ち寄ったものだ。
駐車をし、エレベーターで店内に入る。記憶に残っている雰囲気を感じながら、店員に導かれ、中央の一番奥の席に案内された。
案内をしてくれた女性は、6月に接客された女性と同じ人物で、わたしも仲間も、『あー!』と声を上げ『6月の子や。。。』と同時にぼそっとつぶやいた。6月に初めてこの店に訪れた際、店内が空いていたせいもあって、彼女と会話を多く交わしたのだった。関西に憧れ、いつかは行ってみたいと笑顔で話した女性でもある。関西人としては、こういう発言はウエルカムなので、ついつい寛容になってしまうものだ。
『彼女、覚えてるかな?』『うん、覚えてるんちゃう?』そんな会話を注文後交わしていた。料理を運んでくるタイミングでちょっと聞いてみるのもいいかな?と思い、話してみることにした。
何も知らない彼女は、お皿を両手に持ち、こちらに向ってくる。『お待たせ致しました。□□でございます。』とお皿を置いていく中、仲間は唐突に、『覚えてますぅ?』とまるで口説き文句の如く、不意を突く。その言い方が妙に可笑しく思わず笑ってしまった。『え~・・・』と口元に手をかざしながら、『6月に一度来たんだけど~。』というヒントを与えると、『あ~~~っ!あちらのお席で召し上がった方ですね!思い出しました!』と覚えていたのである。
わたしたちが沖縄に来ている目的は伏せたまま、会話は数分続いたが、他府県からわざわざ自分が勤めているお店に立ち寄ってくれた事に、いたく感激した様子だった。
食事も終わり、レジへ向かい精算をする際、彼女が対応してくれた。『また来年来た時も必ず寄りますね。ご馳走様でした。』と会釈すると、『是非、またいらして下さい。お気をつけて。』と笑顔で送り出してくれた。
客と店員の間柄の関係ながらも、再会にはプチドラマがある。ちょっとした嬉しさを抱えながら、車に乗り込んだ。
さて、いよいよ買出しである。まずは道中の道沿いでホームセンターに立ち寄り、壕に納めるお地蔵様とブロックを繋げる材料やホウキ等を購入し、次に6月でも立ち寄った大型スーパーへ向った。
店内に早足で入り、真っ先に花屋さんに立ち寄る。【菊は完売しました】と小さな紙に書かれた張り紙がバケツに貼ってあった。『う・・・、小菊はなしか・・・』とこころで残念な思いを抱きながら、バケツに入れられた花をじっくり見ていく。頭の中では、花をどのように組み合わせ一束にするか、想像しながら、個数もまた考え、バケツから取り出して行った。
レジカウンターに目をやると、あれ?6月に対応してくれた方だ・・・と気付き、わたしは抱えた花をカウンターに置かせてもらうようお願いをした。あれこれ頭で計算しながら、これでいいかな~と思った時レジに近づき、精算をお願いした。
対応してくれた女性は、ビニールに貼られた値札の金額ごとの仕分けし、レジを打っていく。『このお花、少し痛んでますので、この百合は全部100円引かせて戴きますね。』と、独断で判断し値引きをされていった。想像していた金額より1000円近く結果安くして頂き、御礼を伝え支払をしたのだった。
『お買い物はされますよね?その間に包装しておきますので、どうぞ。』と話され、『お願いします。』と一言告げた後、わたしはカートを押しながら早歩きをし、まずは果実コーナーに向った。
果物、大量のお水、お茶、お菓子、アルミのお皿などを購入し、カートを押してレジへの向った。レジには少し人が並んでいたので、仲間に『ここの精算はわたしがしておくから、お花屋さんでお花引き取って、車に積んでくれる?』とお願いをした。
レジでわたしの番になり、お財布からお金を精算していると、向こうから仲間が険しい顔をして近づいてくる。
『どした?』
『さっき、花屋さんで花を引き取ったら、「この花は慰霊に使われるんでしょ?お店の奥に置いている少し弱った花ですけど、ご一緒に入れておきますので、お供えに使って下さい」って・・・。あの人、覚えてたわ・・・。chakoちゃんも御礼言ってきて。これ車に積んでおくから。』と、目を潤ませている。
『うん、分かった。』
そか・・・、あの人、覚えてくれてたんだ。確か6月の時は、慰霊のこと話したなぁ~と、思い返していた。
『すみません、先程お花を引き取らせて頂いた際、過分にお花を頂戴しまして、本当に有難うございました。』と深々と頭を下げた。
『いや~、御礼だなんて、お店においてても枯れてしまうので、どうか、お供えして下さい。』そう言われ、微笑んでいる。
『じゃぁ、ご遠慮なく頂戴します。有難うございました。』と一礼をし、この場を去った。
胸にぐっと熱く込み上げてくるものを感じながら、店内を小走りで走り、駐車場に向った。しかし、その出入口で『あ!おにぎり、忘れてる!』と気付き、再び食品コーナーに走り、梅のおにぎりとふかし芋とアルミの小皿を購入したのだった。
店内を走って出る頃には、すっかり汗ばんでいた。肉体は汗ばんでも、ささやかなるえにしに震え、こころでは泣いていた。
(つづく)
投稿者の年齢
10代 28 1.5%
20代 22 1.1%
30代 111 5.8%
40代 199 10.3%
50代 185 9.6%
60代 590 30.6%
70代 590 30.6%
80代以上 195 10.1%
不明 9 0.5%
平均年齢は63.5歳。
投稿者の住所
那覇市 571
沖縄市 151
浦添市 137
うるま市 129
宜野湾市 96
豊見城市 93
糸満市 62
名護市 44
その他県内 427
県外 132
外国 2
記載なし 85