わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

Arrival  邦題:メッセージ(ネタバレあり)

2017-01-31 | 映画・ドラマ・本
 テッド・チャンの中編、「あなたの人生の物語(Story of Your Life)」を原作とする映画です。原作は「地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく」というお話。

 SFファンのご多分にもれず、私もテッド・チャンとグレッグ・イーガンには心酔していますが、特にテッド・チャンは、あまり同じ本を読み返さない私が何度も読み返すほど好き。好きすぎて、娯楽のために英語でマンガ以外の本を読む事は滅多にない私が、オリジナルを読んじゃったほど好き。だから、その映像化となれば、興味津々。異星人のヘキサポッド、彼らの言語、宇宙船ルッキング・グラスが、映像でどう表現されるのか?楽しみにしていたので、予告を見たときには、正直、「なんだ、こりゃ~?」とガックリきて、劇場には見に行きませんでした。

 しかし!

 私が愛するもう一人のSF作家、フィリップ K.ディックの映画化作品は、なぜか全く斜め上方向な内容に向かいがち。ブレードランナー、トータル・リコール、マイノリティー・レポート、そして今、アマゾンで配信されてる「高い城の男」は、映画やドラマとしては面白いけど、原作と比べると「なんでやねーん?!」なので、テッド・チャン作品も同じ運命かと思ったのです。

 ところが、むしろ地味な原作に、国際的な協力体制のバランスや、宇宙船に攻撃をしようとする中国と同調する他国をからめ、緊張感のある、スケールの大きな映画になったと思います。原作では112の「ルッキング・グラス」が地球上に現れ、アメリカだけでも9機でしたが、映画では世界で12機、アメリカには主人公が関わる1機だけ。取巻く状況も、ずっとシリアスかつ秘密裏で、主人公とペアの数学者(原作ではゲイリー、映画ではジェレミー・レナー演じるイアン)と、中華を食べに街に出たり、なんて悠長な状況じゃない。

 また、原作ではタイトル通り、ルイーズが娘に語る、娘の話がメインですが、映画では、異星人とのコンタクトの方に重点が置かれており、合間に娘との思い出が挿入されます。ルイーズを演じるエミィ・アダムズは好きな女優さんです。日本人好みな顔立ちだよね。贔屓目もあるかもしれないけど、この役にはピッタリだったと思います。世界最高の言語学者の一人だけど、娘を深く愛する母親でもある。ジョディー・フォスターみたいに、いかにも賢そうでクールなルックスではなく、どこか垢抜けず、情の深そうな感じがイイ!

 異星人との交流を通じて新たな言語の習得によって、新たな知覚を得るというテーマに変わりはありません。
話している言葉によって、考え方や感じ方が変わるという事は、二ヶ国語以上を話す人には納得の行く感覚だと思います。中国系二世の原作者、テッド・チャンも、普段から中国語と英語を使い分けているから、その感覚があるのかな?と、思ったら、本人は「子供の頃は中国語が話せたけど、今はさっぱり」なのだそうで、意外でした。


 監督は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。「複製された男」と「ボーダーライン」、「プリズナーズ」の監督で、今年公開予定のブレードランナーの新作も、この監督です。同じ監督の作品だとは意識していなかったのですが、前記3作は、どれも印象が強く、 寒々しい画面、様々なイベントが起きているに関わらず、静かに進むストーリー、そして見ている間中ずっと続く「嫌な感じ」の緊張感は、確かに本作でも同じで、「言われてみれば…!」って感じ。

 「ブレードランナー2056」は、主演が好きな俳優さんのライアン・ゴスリングだし、楽しみにしています。この監督の雰囲気にぴったりだと思う反面、また「嫌な感じの緊張感」と、観た後に何かが喉に引っかかったようなモニョモニョした気分になるのかな、と、不安でもあり。全て解決、みんなハッピーvって作品じゃないのは判ってるけど、後を引きそうで… どうやら私には、この監督さんの作品とは「Love-Hate」な関係らしいです。


 原作では、フェルマーの原則と深く関わる異星人の文字が、視覚的に分かり易く改変されています(上の画像)。原作の、光線による表現をどう映像化するのか楽しみにしていたので、ちょっと拍子抜けでしたが、実のところ、4次元の知覚を持つ異星人の言語の表現として、こちらの方が良かったと思いました。

以下、ちょっとネタバレになります:


 自分より先に死ぬのがわかっているから、死んだ時に辛いからペットを飼いたくないという人がいます。その気持には、とても賛同できる。逝ってしまった犬達と共に、自分の一部も一緒に、永遠に持って行かれてしまったから。でも、共に過ごした時間と思い出は、喪失の悲しみとは引換え出来ないほどに愛おしい、私の人生における、とても大切な一部です。

 失う事を恐れて、出会いを否定しない勇気を教えてくれる、これはそんなお話です。誰にでも愛されるような映画ではないと思いますが、私は好き。観て良かった。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿