わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

SPL/ 狼たちの処刑台(ネタバレ注意)

2018-08-24 | 映画・ドラマ・本
 派手な格闘アクション映画が観たくて、図書館から借りてきました。「SPL/狼よ、静かに死ね(殺破狼)」と「SPL2/ドラゴンXマッハ(以後、DxM)」は、どちらも超面白かったし、期待高まる。

 英語のタイトルは「Paradox」、中国語では「貧狼」。アメリカではSPDは「Kill Zone」で、SPD2は「Kill Zone 2」なんだけど、なぜか今作は「Kill Zone 3」じゃないのね。SPLシリーズの前2作からは独立して、DVDの外箱にも「Ip Man三部作の監督による」というアオリが入っています。でも、「貧狼」は、「殺破狼」の系統を受け継ぐ香港ノワールの正統派、無情な最期を迎えます。むしろ、私には「DxM」の方が異質に感じましたが、これだけが、監督さんが違うんですね。でも、アクション監督はカンフー・アクションのゴッド・ファーザー(って、メイキングでトニー・ジャーが言ってた)サモ・ハン。見応えたっぷり、手に汗握るハイスピードの肉弾戦の連続です。



 このSPLシリーズ3作に、ストーリー上の繋がりは無く、それぞれ独立した単作として楽しむことが出来ますが、父の娘への愛というテーマは一貫しています。今作も、「タイのパタヤを旅行中の16歳の娘、ウィンチーが行方不明になり、香港の刑事、リーが娘を探してタイに向かう。現地の刑事、妻が妊娠中のチュイ、その同僚のタンの協力を得て捜査に乗り出すが、実は、娘の失踪は、心臓移植を必要とする市長のために、若くて健康な心臓が必要な臓器密売ブローカーによる誘拐だった…」と、いうお話。香港版「96時間」っぽいですが。こちらはずっと重い。

 「DxM」には、「殺破狼」のチンピラな殺し屋役のウー・ジン(吳京)が、DXMでは、臓器密輸グループと対決する香港の刑事役。DxMで、自分が心臓移植が必要なんで、弟のを頂いちゃおうっていう極悪兄を演じていたルイス・クー(古天樂)が、今度は香港から来たお父さん刑事という関連性(?)が。そして、前作に続き、トニー・ジャーも出ています。

 ウー・ジンは、殺破狼から10年も経ってるのに、全然老けてないのに驚く。どちらの映画でも、桑田佳祐に似てるような気がするけど。「殺破狼」での、ドニー・イェン兄さんとの路地裏ファイトは、映画史に残る名場面だと思う。ドニー兄さんは若くて、動きが切れっ切れだし。でも、今、見直したら、ドニー兄さんの初登場シーンのいきりっぷりが、ちょっと恥ずかしいかもねw

 ルイス・クーは、極悪兄貴役では真ん中分けにメガネで、なんだかYMOの坂本教授に似た風貌。死にかけてるんでヨロヨロしながらも、凄まじい生への執着は鬼気迫っていましたが、今回の筋肉ムキムキお父さんは、鬼人か、はたは狂犬かという怒りっぷり、そして娘への愛、後悔、哀しみの表情は、同じ役者さんとは思えなかった。同じ執念でも、DxMでは人魂みたいな青白い炎がゆら~っとしてる感じで、怒るお父さんは真っ赤にボウボウ燃えてる感じ。役者さんって凄いね。

 実は、私は勝手に、「DxM」的な、派手で胸のすくような映画を期待していました。トニー・ジャーも、超能力調査官っぽく登場して、どんな活躍をするのかと期待しましたが、あっけなく映画前半でお亡くなりに。マジですか…(ポカーン)。エンドクレジット見たら「特別出演」になってたわ。単なる顔見世で、アクション・ファイトを見せてくれたんだから、実は大サービスだったのか…

 DxMほど露骨にエグい場面は出てきませんが、こちらも臓器移植を扱っており、圧倒的な暴力シーンもあるので、それなりに目を背けたくなるような場面もあります。

 DxMは脚本が雑で、海に投げ出されても生きてる携帯電話?リーは麻薬やってたから3年間は骨髄移植のドナーにはなれないはずなのに説明なしに助かったサー、そして極めつけは、サーのドナーになり得たのに、さっさと刑務所長(3つ揃えのスーツ似合いすぎるラスボス、マックス・チャン。髪の毛一本乱さずカンフー・ファイトで超かっこいい)にアッサリ撃ち殺されちゃった、サーのドナーになり得た何万人かに一人の血液型を持つの白人の女の子。他にも、いきなりバンコクの森に現れる狼とか、突っ込み所だらけだけど、「いいんだよ、細けえコトは!」な娯楽作で楽しかった。

 「貧狼」も、トニー・ジャーが、まさかの途中退場を遂げるまでは、軽快さすら感じられ、こんなにも暗澹たる作品だとは予想できませんでした。なにより、父と娘の確執の理由は、16歳の娘から妊娠を告白され、相手を紹介されたその場で、娘と結婚したいと言った男を逮捕させて、堕胎させたこと。余りにも重く、それ故に父の痛恨が辛い。ここまでの悲劇は、ハリウッド映画では、とても扱えないでしょう。けれど、ずっしりとは重くとも、深みはと言うと…

 「殺破狼」では、特別重犯罪捜査班のリーダー、チャン(サイモン・ヤム)、その後任のマー(ドニー兄さん)、彼らの追う犯罪組織のドン、ポー(サモ・ハン御大)の3人は勿論、途中で殺される3人の刑事達、眼鏡の警官すらキャラが立っていて印象に残りました。父の日って設定が効いてたね。

 が、今回の「貧狼」は、そこまでの粋には達してなかったと思います。リーの娘がタイに会いに来た友人のタトゥー・パーラーを営む女の子、市長選を前に隠密に心臓移植を行って、なんとか現市長を再選させようと暗躍する秘書、警官なのに裏世界と通じているバン、バンにレイプされ恨んでリーに協力する娼婦、チュイの舅の警視総監… 個性的であり得た登場人物たちなのに、バック・ストーリーがないので印象が薄い。ただ、誰一人報われず、残ったのは喪失だけという「殺破狼」と比べたら、チュイ刑事の妻が無事に出産するラストは、まだ望みがあって良かったと。

 でも、最終的には何んとなく物足りなさが残る作品でした。見終わったら、香港ノワールの最高傑作と私が信じる「無限道 インファナル・アフェア」を見たくなっちゃったけど、これ観ると落ち込んじゃうんだよねぇ…(残りの2作は私の中では無かったことになっている。スコセッシのリメイク「ディパーテッド」は比べたら可哀想なレベル。マット・デイモンもレオ様も好きな俳優さんなんだけど、トニー・レオンとアンディー・ラウの持つ悲壮感には全く及ばなかったと思ってる)。

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2 コメント

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アクション大作! (八田政樹)
2018-08-29 09:46:30
これは香港アクションの名作ですね!
蹴り上げに投げ技!見ごたえ抜群のアクションシーンは見るに値する作品です。
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八田さま (わに)
2018-08-30 08:13:45
劇場で観られなかったのが本当に残念です。
香港アクションに加えて、トニー・ジャーのアクションも、でっかいスクリーンで観たかった。アクションだけではなく、しっかりとしたお話が、渋い演技で繰り広げられる。観る価値、絶対に有りと私も思います!
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