千曲川右岸。
ついさっきまで、この写真のちょうど中央の位置に千鳥が一羽いた。千鳥も、人が近寄るのをぼんやり待って写真に撮られるほど間抜けじゃないので、ここには写っていない。声も立てずに飛び去って瀬波に紛れてしまった。どうか平凡な護岸工事の写真と見ず、「不在の千鳥」の写真と思っていただきたい。
しかし写っていたところで、どうということもない。私には、それほどの魅力のない鳥である。(千鳥愛好家のみなさん、すいません)。
小さくて特に美しいわけでもなく、鳴声も平凡。だが日本文化はこの鳥を不釣合いなほど珍重しており、さまざまな意匠にこの鳥のモチーフが使われている。そして文芸の世界ではメジャーバードだ。なにしろ最初に千鳥を詠んだのはニニギノミコトだそうで、それから紀貫之の「川風寒み」を経てサトーハチローの「目ン無い千鳥の高島田」に至る。当然、誹諧時代から夥しい千鳥の句があり、また秀句も多い。
星崎の闇を見よとや啼千鳥 芭蕉
私が最も心惹かれるのは下に掲げる青畝の句である。
いりあひの鵆なるべき光かな 阿波野青畝
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます