なにげな言葉

なにげない言葉を あなたに伝えたい
迷宮・緑柱玉の世界の独り言

『ハンティング・3幕・狩人』

2021-03-29 | 短編:ハンティング
彼女へのメールに熱中して、周りに気が廻らなかった。
背後に大きな男が、アーミーナイフを持って立っていた。
「君は何者だ?」
恐ろしかった。息をするのを忘れていた。
「あ・怪しいものではありませんよ。」
俺はとっさに、彼女を見てしまった。
男は含み笑いのような笑みを浮かべた。
「あの女は、君の女か?そこで、いいものを見つけたよ。」
男は手にした黒いものを見せた。
広げてみれば、彼女が脱いだ黒色のショーツだ。
「あの女のものか?」
男が聞いてきた。
「ええ、先ほど、彼女が脱いだものです。」
この男も、山歩き風の身なりだ。
不法侵入者・・俺と同じ立場だろうと思った。
偶然、道に落ちていた下着を拾い、見渡した先に、俺たちの姿を見つけたのだろう。
彼女とは関係ない男だろう。
知っていれば、俺に彼女の事を聞いたりはしないだろう。

「何をしているんだ?」
「メールで彼女と話してる。」
「メールで話し?」
「遊びですよ。」
「何かさせるのか?」
「はい、命令してるんです。」
「あの女を裸にしてみろ。」
「だめですよ・・」
「なぜだ?」
「こんな所で・・・」
「誰もいやしない、かまわないだろ?それを楽しむために、山に来たんじゃないのか?」
「そうですけど・・」
「あの女は、それで喜ぶ女なんだろ?」
「さあ・・」
「さあって、お前の女なんだろ?」
「・・・・・・そうですけど・・裸は・・・」
「男だったら、自分の命令で恥ずかしい事でもしてくれれば、嬉しいだろ?」
「はい。」
「やってみろよ!もう、下着を脱がせたんだろ?」

男の威圧的な態度で、僕はメールを送った。
<着ている服を脱げ>
確かに俺も、服を脱がせる気ではいたが、どう進めようか悩んでいた。
<嫌です>
返事が返る。男がメールの内容を言ってくる
<お前のショーツ、いただいた。履いてないのを見せてみろ>
<嫌です。返してください。>
<スカートを捲れ!>
<反対を向いて、ケツを見せろ!>
<そこの倒れた木に座れ>
<その、倒れた松の木に、またいで座れ!>

「いい女だなぁ。命令を聞くんだな。可愛いだろ?」
俺はその言葉に、自分の彼女を褒められている様な気になった。
俺の女でもいいよな。
そして男は再びショーツを取り出し、眺めている。
「これを履いていたんだろ?」
男はとてもうれしそうに広げてみては、裏返し、香りをかいでいた。
「なんだか匂うぞ!お前たち、sexしただろ?」
自分でもそうなのだが、他人のそんな行為を見ると、男とは情けないなと思った。
大男が、スケベ丸出しの姿に、思わず噴出しそうになった。
「ありがとうな、いいものもらったよ。あの松の木のブラも欲しいな。」
男はどんどんずうずうしくなった。
ブラを欲しがり、彼女が服をなかなか脱がないことに、男はいらつき始めた。

<ショーツと写真は、ネットで売る。>
<駄目!>
<無理にでも脱がす事だってできるんだ。嫌なら、自分で服を脱げ>
<脅迫しないで・・・>
<いまさら知らないわけじゃない、さあ脱ぐんだ>

俺は男に、俺と彼女の関係が、他人だと気づかれたくなく、必死で言葉を選んだ。
<君の裸は素敵だよ。昨日の様に、大自然で見せて欲しい。>

「ほぉ、昨日はどこで脱がせたんだ?」
「川で、裸で泳がせたんですよ。」
「楽しんでるんだね。僕も仲間に入れてくれよ。」
「だめですよ。」
「良いから携帯電話よこせ。俺が、彼女を脱がさせるよ。」
「無理ですよ。」
強引に男は携帯を取り上げた。男は大きな手で、器用にメールを打ち始めた。

<君たちの遊びに参加させてもらったよ。命令に逆らえば、彼の命が危ないよ!>
着信したのを確認すると、男は茂みから出て、彼女のほうに向いた。
俺を背後からつかみ、アーミーナイフを首元に当てた。

「彼の命は、君の行動にかかってるんだ、命令には従えよ!」
大きな声で、彼女に叫んだ。
茂みの向こうの彼女は、大男の登場に、なおのこと驚いたように、呆然としていた。
彼女はこくりと頭を下げた。
同様、俺も呆然自失。
もう彼女に僕の姿を見られた。この際仕方ない。
なるようにしかならない。
男は、俺以上に強引に彼女を脱がそうとしている。
俺は携帯を男から奪うように取り
<大丈夫、僕が何とかするよ>
とメールした。そうだ、この男から、彼女を守る。
<はい>
返事が戻った。
<男の命令を聞くようにしなさい>
<はい>
俺は彼女を守る男になれば、今までのことは消えるだろう。
俺と彼女の関係が、強い結びつきに変わった。
男は再びメールを打つ様に言ってきた。
男はとてもうれしそうにしている。
俺は、男の言うとおりに、メールを打った。

「おい、いつもは何をさせるんだ?」
「いろいろですよ。」
「何しても良いのか?」
「駄目ですよ。」
「駄目?彼女の裸が見たい。見れなければ、強引に脱がすぞ!」
「分かりました。脱がせるだけですよ。」
「電話貸せ!」

男は、自分で、どんどんメールを打ち始めた。
いったいなんと打っているのかさえ分からない。
彼女を見ると、ワンピースの前ボタンを外し始めている。いよいよ脱ぐのだ。
「おい。カメラは持っていないのか?」
「持ってますよ。」
「さあ、お前の彼女が脱ぐんだ、撮れ。」
俺は男に感謝した。
男がメールで指図する。俺がカメラで彼女の姿を撮る。
いつしか男2人に同じ目的の行動が分担されてきていた。
完全に主導権は男にあるが、仕方ない。
男のおかげで、俺は彼女を守りながら、裸まで撮影できる。

ブラとショーツを脱いでいた彼女は、ワンピースを脱いだことでキャミソール一枚になった。
俺は驚いた。
「可愛いなぁ。」
俺がそう思った言葉を、男が先に言ってしまった。
可愛かった。
ベビードールのような透けた生地にフリルのついた、可愛らしいキャミソールだった。
丈が短いので、尻が見え隠れしている。
「おい、パイパンか?」
「は・・・?」
俺は、目を疑った。
昨日の光景でははっきりと分からなかった。
確かに彼女には毛が無かった。
「お前が、剃らせているのか?」
「ええ・・・・」
「いいなぁ・・さあ、始めようか!」
「え?」

彼女は携帯を目にして、おろおろしていた。
男はにやりと俺を見た。
携帯画面には

<逃げろ、今からお前を捕まえる>

「折角のチャンスだ、狩をしようじゃないか!」
「駄目ですよ。」
「彼女が逃げ惑う姿見たくないか?」
「それは・・・・」

誰だってこのような大男が捕まえるといえば怯える。
実際、俺でさえ、かなわないだろう。
男は本当に彼女を追いかけるのだろうか?
男は立て続けにメールを打っている。
彼女は確認しては、返事を出す。
男と女の間で何が起きているのだろう。
男は立ち上がり、にやりとすると、腰に付けたアーミーナイフを手にして叫んだ。

「追いかけるぞ、カメラを持って付いて来い!」

男が走り出した。彼女までの距離は、100メートルはあるだろう。
しかし彼女が逃げなければ、あっという間だ。彼女は驚き、逃げ出した。

「にげろ!逃げるんだ!」

俺は叫んでいた。

「お前も追いかけるんだ、ついてこい。」

彼女は林の中を逃げた。
何もない林の中をベビードールが走る。
柔らかな布が、美しく靡いている。
俺はカメラのファインダーを覗いてはシャッターを切った。
この状況に鼓動が早いのか、走って鼓動が早いのか、現実離れしてきていた。
男と彼女の距離が近くなった。

「逃げろ、逃げてみろ、逃げぬけるかな。」

完全に男はおかしい。
ウサギを追いかける猟犬のようだ。
彼女が転び、男が覆いかぶさった。
彼女の両足の間に男の体が入った。黒のフリルが捲れあがった。
見える二本の白い足。
男は彼女の耳元で何かささやいた。
聞こえない。彼女は必死にもがいている。
「やめてぇぇ」
助けるべきだろう、だが、僕はファインダーから目が離せなかった。
彼女のあのような姿を想像もしなかった。
想像しなかったが、このチャンスに、残したい。
そんな俺の心を見透かすかのように、
「写真撮れよ!」
男が叫んだ。
俺は、写真を撮る事に必死だった。

男が叫んだ瞬間に、男の体から、体をひねるように抜きだし、彼女が再び逃げ出した。
彼女は、靴が脱げ、片方裸足で逃げていた。
彼女の体には落ち葉と、土がつき、汚れ始めている。
俺の彼女が汚れてきている事に、また違う喜びを感じ始めていた。
こんな光景を見たことはない。
まるで映画か、ドラマの一場面だ。
ビデオがあればよかったと思った。

男が再び彼女を追いかけはじめた。


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