読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

薬丸岳著「蒼色の大地」

2019-09-13 | や・ら・わ行

運命に抗え。時は明治。海賊と海軍の戦争が生む狂気の中を、友情、恋慕、嫉妬、裏切り、三人の運命が交錯する。19世紀末。かつて幼なじみであった新太郎、灯、鈴の三人は成長し、それぞれの道を歩んでいた。新太郎は呉鎮守府の軍人に、灯は瀬戸内海を根城にする海賊に、そして鈴は思いを寄せる灯を探し、謎の孤島・鬼仙島にたどり着く。「海」と「山」。決して交わることのない二つの血に翻弄され、彼らはやがてこの国を揺るがす争いに巻き込まれていく。

時の支配者の手の及ばない治外法権の島という設定し、青い目を持つが故に青鬼と呼ばれ不当で激しい差別を受ける「海族」が難を逃れて住み着き、島の支配層となっているという展開。細かな事を無視し明治時代と戦時中を背景にした、対立する「海」と「山」の部族の冒険物語と思えば楽しめますが鈴の無鉄砲さ甘さなど色々気にしだすとつまらない作品かも。

2019年5月中央公論新社刊

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吉田修一著「続 横道世之介」

2019-06-09 | や・ら・わ行

バブルの売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐこの男。24歳の横道世之介、が主人公。彼はいわゆる人生のダメな時期にあるのだが、彼の周りには笑顔が絶えない。鮨職人を目指す女友達浜本、大学時代からの親友コモロン、美しきヤンママ桜子とその息子亮太。そんな人々の思いが交錯する27年後。オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。・・・

世之介以外は、前作とはまったく違う登場人物が出てくるが、誰かに向ける言葉だったり、世之介がかけられる言葉だったりで前作とのつながりを感じる。善良とは「正直で性質のよいこと。実直で素直なこと。また、そのさま」。

「彼と出会った人生と出会わなかった人生で何かが変わるわけではない。それでも彼と出会えたことで、なぜか自分がとても得をしたような気持になってくる」

「世の中がどんな理不尽でも、自分がどんなに悔しい思いをしても、やっぱり善良であることを諦めちゃいけない。」(P409)

次の続編は30代の世之介か?

20192月中央公論社刊

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柚月裕子著「弧狼の血」

2019-05-18 | や・ら・わ行

69回日本推理作家協会賞受賞作。

識外れのマル暴刑事と極道の、プライドを賭けた戦いを描いた警察小説。昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島・呉原。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡秀一は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上章吾とコンビを組むことに。そのころ広島の巨大組織・五十子会系の加古村組と地場の暴力団・尾谷組との抗争の火種が燻り始めていた。そして加古村組の金融会社社員上早稲の失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが・・・。

清濁併せ呑む悪徳刑事・大上を役所広司と日岡を松坂桃李で2018年映画化され、警察組織の目論み、大上自身に向けられた黒い疑惑、様々な欲望を剥き出しにした、暴力団と警察を巻き込んだ血で血を洗う報復合戦。役所広司がこれで42回日本アカデミー賞主演男優賞受賞。

小説の方も原作になっただけあってさすがに面白く一気読み出来ました。後半の明かされる大上の秘密もその後の日岡の活躍も日岡の成長物語としても読後感の良い物語でした。

20158月株式会社KADOKAWA

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薬丸岳著「ガーディアン」

2018-11-01 | や・ら・わ行

匿名生徒による自警団「ガーディアン」が治安を守る中学校に赴任した秋葉悟朗は、最初は問題が少なく安堵する。スマホやSNSが普及し、教師は生徒の悩みを把握しきれない。いじめ、不登校、夜間徘徊など荒れていた中学校は、匿名生徒による自警団「ガーディアン」によって落ち着いた。ガーディアンのメンバーは、「ともに楽しい学校生活を築いていきましょう」と問題のある生徒らに「制裁」を行っていた。相次ぐ長期欠席を怪しんだ秋葉が生徒の身を案じるが、同僚は激務に疲弊し事なかれ主義だ。赴任したばかりの秋葉だったが単身、学校の謎に迫ろうとし、秋葉が学校の秘密に気づくと、少年少女は一変し、天国から地獄に叩き落とされる。・・・

大人と子供の思惑が幾重にも交差し、生徒の名前が名字で書かれていたり、名前で書かれていたりして、同一人物だとわからなかったこと。ただでさえ登場人物が多くて覚えられないので、読んでいて混乱した。主人公の教師の視点では名字で書かれ、生徒の視点では名字や名前で書かれている。とにかく物語の整理が大変、登場人物の相関図と相互の関わりをメモしながら読むことをお勧め。

20172月講談社刊

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米澤穂信著「いまさら翼といわれても」

2018-10-11 | や・ら・わ行

古典部シリーズ第6作。6篇の連作短編小説。「大人」になるため、挑まなければいけない謎。奉太郎、える、里志、摩耶花等「古典部」4人の過去と未来。神山市が主催する合唱祭の本番前、ソロパートを任されている千反田えるが行方不明になってしまった。夏休み前のえるの様子、伊原摩耶花と福部里志の調査と証言、課題曲、ある人物がついた嘘。折木奉太郎が導き出し、ひとりで向かった居場所とは・・・「(表題作)いまさら翼と言われても」。生徒会長選挙の投票箱の謎・・・「箱の中の欠落」。中学の卒業制作に作った木枠の彫刻のデザインに込められた思いと謎・・・「鏡には映らない」。鏑矢中学校の時の英語の小木先生はヘリが好きだった?・・・「連峰は晴れているか」。摩耶花と漫画・・・「わたしたちの伝説の一冊」。ホータローの信条「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」というようになったきっかけは・・・・「長い休日」。このシリーズの面白さは謎解きはだけでなく、主題は青春真っ只中の古典部の面々の人間模様です。

201611月角川書店刊

 

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宿野かおる著「はるか」

2018-09-16 | や・ら・わ行

賢人は小さな頃、海岸で一人の少女と出会う。彼女の名は「はるか」。一瞬で鮮烈な印象を残した彼女を、賢人はいつしか好きになっていた。それから30年以上。長じて人工知能の研究者となった賢人は、ある画期的なAIを生み出す。AIの名は「HAL‐CA」。それは、世界を変えてしまうほどの発明だった。・・・

亡き者との再会は、東西を問わず古から伝承される、禁断の行為。はるかもまた類に漏れることなく、残された者のエゴのせいでイザナミとなり果ててしまったということか。プログラムは記録された会話から論理を抽出しプログラミングするように描かれますが、そんなのでAI作れるのかの疑問が残った。何をディープラーニングさせたのかは分からない説明不足の単語も解らずじまい。不満の残る小説でした。

2018年6月新潮社刊  

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柚月裕子著「盤上の向日葵」

2018-08-17 | や・ら・わ行

さいたま市天木山山中で発見された白骨死体。唯一残された手がかりは初代菊水月作の名将棋の駒のみ。それから4ヶ月、叩き上げ刑事・石破と、かつて将棋を志した若手刑事・佐野は真冬の天童市に降り立つ。向かう先は、注目の若手棋士同士による世紀の一戦が行われようとしている竜昇戦会場。同時に進行するのは昭和46年から始まる一人の少年、桂介の物語だ。長野県諏訪市に暮らす彼は幼いうちに母を亡くし、父親からは虐待を受けて育った。彼を気にかけていた元教師がその人並みならぬ将棋の才能に気づき、東京へ出てプロを目指すよう助言するが、桂介は父親の支配から逃れられない。

刑事たちと少年、それぞれの物語がやがて冒頭の天童市の場面に繋がるだが、なぜそこに繋がるのかがなかなか見えてこない。死体となって発見されたのは誰か。なぜ名駒も一緒に埋められていたのか。それらと天才棋士には、どういう関係があるのか。少しずつ事実が明らかになるが、その情報の小出し具合に惹き付けられて読まされました。読んでいてこれは松本清張の「砂の器」の別バージョンの意識が離れず、結末も意外性も感じられなかった。将棋の勝負場面は白川道の「病葉流れて」の麻雀シーンのようでもありそれなりに面白くもあったが将棋のことが解らない読者には面白さ半減カモ。桂介を助けた唐沢の思いは生かされず仇になったのか。IQの高い人間も自己の欲求には勝てなかったのか残念。

「ものを知らないことほど。怖いものはない。無知は人に恐れを抱かせるか,恐れしらずにさせるかのどちらかだ。正しい知識を持たなければ正しい判断を下せない。我々はもっと多くのことを学ばなければいけない。」(P65)2017年8月中央公論新社刊

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米澤穂信著「遠まわりする雛」

2018-07-02 | や・ら・わ行

「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」と省エネをモットーとする折木奉太郎は神山高校の一年生で部活は「古典部」。部員の千反田えるの頼みで、地元の祭事十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという「生き雛まつり」へ参加する。ある連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態になったが、千反田の機転で祭事は無事に執り行われた。しかしその「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する・・・表題作他「古典部」の1年を描いた6編の連作短編。

他に「やるべきことなら手短に」「大罪を犯す」「正体見たり」「心あたりのある者は」「あきましてあめでとう」「手作りチョコレート事件」。

部員の福部里志や伊原摩耶花などとの日常のちょっとした謎・ミステリーを絡めた青春小説。

20710月角川書店刊

 

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柚月裕子著「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」

2018-05-29 | や・ら・わ行

不祥事で弁護士資格を剥奪された涼子が立ち上げた調査会社上水流エージェンシー。Q140 の貴山をアシスタントに、探偵エージェンシーに持ち込まれるあり得ない依頼に知略をめぐらすミステリー。

「未来が見える」という人物に経営判断を委ねる二代目社長を・・・「確率的にあり得ない」。詐欺にあい自殺した夫の妻からの依頼・・・「合理的にあり得ない」。

賭け将棋で必勝を期すヤクザからの依頼・・・「戦術的にあり得ない」家出した孫娘の捜索依頼・・・「心情的にあり得ない」野球賭博に絡み多額の負債を残して自殺した父の恨みを晴らす・・・「心理的にありえない」明晰な頭脳と美貌を武器に、怪人物がらみの「あり得ない」依頼を解決に導く。プロフェッショナルなキャラクターと痛快であでやかな結末を堪能したが涼子より助手の貴山の活躍が目立っていた。「成功したときは奇跡。失敗しても何事もなく、日常は変わらない」(P97)という余裕の心持がイイネ。

20172月講談社刊

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結城充孝著「エクスプロード 捜査一課殺人班イルマ」

2018-01-07 | や・ら・わ行

1000ccのデュアルパーパス・バイクを駆る捜査班の紅一点。標的に喰らいついたら放さない女刑事――その名はイルマ。女性刑事イルマが活躍するシリーズ第3弾。前作から数か月後大学の物理学研究室で発生した爆破事件の現場に急行していた警視庁捜査一課の入間祐希は、同じ管内で発生した大手電気通信企業の超高層ビル立て籠もり現場に行き先を変更した。犯人は元傭兵の斉東克也、手製の武器で武装し五名を惨殺していた。イルマも斉東の攻撃に遭い負傷するが、身柄確保に成功。しかし、イルマは同時に発生した二つの事件の関連を疑う。直後、科学系出版社の編集部で第二の爆発が。犯人に繋がる唯一の手掛かりは、爆発物の送り状の末尾に記された“ex”という文字のみ。“狼のような”イルマだけが犯人の足跡を嗅ぎ取り、追走を開始するが・・・。冷酷無比な殺人犯に、組織との確執も無視して食らいつくイルマが今回も実にイルマらしいが、恋愛には「中学生かよ、私は」と初心な面も描かれ意外な黒幕犯人とのやり取りも面白かった。201710月祥伝社刊 

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米澤穂信著「さよなら妖精」

2017-09-25 | や・ら・わ行

青春ミステリー小説。1994年4月。雨宿りをするひとりのユーゴスラヴィアからやってきた少女マーヤとの偶然の出会いが、守屋・太刀洗・白河・文原ら高校生の謎に満ちた日々への扉を開けた。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。日常のやりとりを通じて、マーヤに惹かれていく主人公・守屋。しかし、もともと約束されていた別れ。そこに発生するユーゴスラヴィア紛争。それでも帰ることを決意するマーヤと、自らの無力さ、傍観者でしかないことを知ることになる守屋。マーヤの帰国の1年後、当時の日記を紐解きながら数ある民族と地域に思いを馳せ『彼女の故郷はどこなのか』帰国した彼女は無事なのか?謎解きが始まる。謎を解く鍵は守屋の書いた日記とそれぞれの記憶のなかに。忘れがたい難いそれぞれの思い出に余韻をもたらした物語でした。

2004年2月東京創元社刊

 

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米澤穂信著「王とサーカス」

2017-09-12 | や・ら・わ行

2001年ネパールで実際に起きた王宮事件を取り込んで描いたフィクション。2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年サガルにガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始しネパールの軍人の一人に接触することに成功。だがその軍人は殺害され、彼女がその死体を見つける。「この男は、わたしのために殺されたのか? あるいは・・・?」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いたのは痛切な真実だった。取材をすることの意味について考えるシーンが多い。自分の書く情報がとるに足りないものではないか、と思い悩むのだが、前に進むことにより答えを得ようとする。たとえつまらない記事でもその記事を書くことで完成・真実に近づくはずだという信念。

「お前はサーカスの座長だ。お前の書くものはサーカスの演し物だ。我々の王の死はとっておきのメインイベントというわけだ。」(P176)

「記事は派手にしようと思うところから腐っていくもんだ」「たったひとつの知識がものの見方を根底から覆し、別の知識が更なる修正を加えていく。やがて蓄積された知識は、お互いに矛盾しない。妥当だけれど思いがけないものの見方へと収束していく。このダイナミズムが好きだった。無邪気に知を楽しむうちに大人になった。」
「知は尊く、それを広く知らせることにも気高さは宿る。「自分に降りかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ。意表を衝くようなものであれば、なお申し分ない。恐ろしい映像を見たり、記事を読んだりした者は言うだろう。考えさせられた、と。そういう娯楽なのだ。」
「たちまちカトマンズの街へと消えていく背中に、わたしはありがとうと言いたかった。素敵なククリをありがとう。他のことにも。けれど彼は、そんな言葉は聞きたくないだろう。わたしはそういう世界に生きている。」(以上本部により)

ジャーナリズムや作者自身の職業である作家のあり方をミステリ・タッチで問いつづけた物語でしたが、登場人物が少なく犯人の検討は容易だった。

2015年7月東京創元社刊

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和田竜著「小太郎の左腕」

2017-09-10 | や・ら・わ行

舞台は、戦国の大名がいまだ未成熟の時代。1556年。心優しい、優しすぎる少年・小太郎。種子島(火縄銃)の腕前が超人的であったため、小太郎はこの戦国時代の勢力争いに関わりまきこまれることになってしまう。勢力図を拡大し続ける西国の両雄、戸沢家と児玉家は、正面から対立。両家を支えるそれぞれの陣営の武功者、「功名あさり」こと林半衛門、「功名餓鬼」と言われる花房喜兵衛は終わりなき戦いを続けていた。そんななか、左構えの鉄砲で絶人の才を発揮する11才の少年・雑賀小太郎の存在が戦いを左右することに。

小太郎は、狙撃集団として名を馳せていた雑賀衆のなかでも群を抜くスナイパーで、純真な優しい心根の持ち主であり、幼少の頃より両親を失い、祖父・要蔵と山中でひっそりとした暮らしを営んでいた。

戦国時代に生きた真の主人公は林半衛門かも、著者の「村上海賊の娘」に繋がる前作小説。

2009年11月小学館刊

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吉村龍一著「清十郎の目」

2017-08-30 | や・ら・わ行

昭和初期、軍靴の音が日本中を覆い始めていた。貧困にあえぐ東北農村部で、身寄りのない当時カワラ者として蔑まれていた青年・清十郎は、ある日、自らが世話になっている料理屋の若亭主が、労働者を無残に裏切る様子を目の当たりにしてしまう。清十郎は、革命思想を持つ仏僧・剛寿と知り合いその寺の寺男となる。やがて寒村から身売りされた娼婦・桔梗との出会い感化された清十郎はその後も世の中の矛盾、成金や差別など不平等な社会に疑問を抱き続け、日々困窮していく民を救うため、世直しを唱える剛寿のもと、町の支配勢力に立ち向かう・・・。

具体的な思想があるわけでなくテロやアナキーな危うさもあり一時代を切り取ったような小説だった。

2016年11月中央公論新社刊

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和田竜著「村上海賊の娘」

2017-08-27 | や・ら・わ行

本屋大賞受賞作だけあったて上下巻の長編であるが展開が早く面白いので一気読みできた。文献に残された史実を元に想像力を駆使して縦横無尽に海賊王の娘を活躍させて歴史の一コマを描き、海戦シーンなどは残虐で血しぶき舞う場面なのに方言の泉州言葉を用いて会話を描写することでまるでコメディーを見てるような気にさせてくれた。

舞台・時は天正4年(1576年)比叡山焼き討ちから5年長篠の戦いの翌年信長と大阪本願寺の戦いが7年目を迎えたころ。和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。毛利は海路からの支援を乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。折しも、娘の景は上乗りで難波へむかう。その娘、景は海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女だった・・・。家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切って落とされる。第一次木津川合戦の史実。人物の描写など微細にわたり描かれて丁寧。版を重ねる読者数に納得。201310月新潮社刊

 

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