上巻では2007年の9月から翌2008年の2月までが、そして下巻では引き続き2008年8月までの半年間が描かれます。湘南のカフェ店員に一目惚れ、相手をふり向かせたくてサーフィンを始めた「ドーミー吉祥寺の南」の下宿人谷尻くん。その恋を応援する傍らで、最愛の人「二千花」と過ごした日々を幾度となく反芻する世之介です。春から夏へ。相変わらずのんびりと季節が移ろう中、後輩カメラマンのエバと咲子カップルには新しい命を授かり、世之介は「名付け親」をお願いされる。ところが咲子の容態が一転し・・・。最終章で15年後が書かれています。やがて運命の日がやってくる。大切な人に、今すぐ「好き」と伝えたくなる、心ふるえる結末が。世之介は頼りなくお調子者だけど、そばにいるとホッとする。そんななんでもない一日のような存在、それが横道世之介です。世之介の他人との関わり方がとても魅力的です。だから周囲の人も生き生きと描き出されています。大地震・火事・津波、事件の現実。特別なことではない日常がとても大切ということを改めて感じさせてくれた物語でした。「誰かのことを思える。そんな心の余裕が何よりも贅沢なものに見えたのだ。自分ではなく。誰かのことを思えるということが、どれほど恵まれていて、贅沢なことなのか。」(P234)「人生は一人で使うには長い、その余りを誰かのために使えたら贅沢だ。」
2023年3月毎日新聞社刊
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