「炎の塔」「波濤の城」に続く女性消防士・神谷夏美シリーズ最終刊第3弾。大勢の人で賑わうクリスマスイブの新宿。通称“ギンイチ"銀座第一消防署の消防士・神谷夏美は恋人や同僚らが待つ店へと急いでいのだが、新宿地下街・サンズロードで火災発生との通報が入り、ギンイチにも特命出場の指令が出た。署に引き返した夏美らは管轄の消防署とともに消火作業を開始するが、地下街は延焼が拡大し人々は大パニック、出入り口は黒煙で封鎖され、負傷者が続出する。さらに地下街の特設ブースに陳列された今日発売の新ゲーム器の製品にマグネシウムが含まれていることが判明。マグネシウムに火が燃え移り爆発すれば新宿駅近辺は壊滅、何万人もの死傷者が出る。防火扉が閉じられた「地下街」の密封空間の地下で繰り広げられるサバイバル・パニック小説。「市民を守る熱き使命感と誇り」を持つ消防官たちと失火ではなく、社会から疎外された人々による顔が見えない悪意の連携によるテロ放火が原因の私テロリストとの勝負です。不公平、差別に打ちのめされた犯人たちが焼身自殺や無差別大量殺人にまで向かってしまう動機、過程、実行までのいきさつとギンイチの消防士たちの命懸けの消火活動が読みどころです。命を賭けて要救助者を救うとともに、自分たちも要救助者となる状況で、自分の命も守っていく。そんな過酷な状況の中での、消防士たちの矜持や誇りが見事に描かれていています。最近の無差別の個人テロの発生を思うと有りえないと話とは思えないリアル感があります。もし自分がこんなテロに巻き込まれたらと思うと怖くなりました。
2020年10月祥伝社刊
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