鬱病の人が増えている…らしい。雑誌やテレビでの特集も多い。ウチの治療院にも鬱病の患者が徐々に増えている。かく言う私もかつて鬱病になったことがあり、(それだけが理由ではないが)12年勤めた会社を辞めた、という過去がある。
最近、患者の1人に『ツレがうつになりまして』(細川貂々著、幻冬舎刊)という本を貸してもらったので読んでみた。会社員だった夫が鬱病になって戸惑う日々の様子が、マンガ家である妻の視点から描かれている。絵がほのぼの系なので、あまり重たくなくサラッと読めるが、描かれている事柄は非常にリアル。私が鬱病になったのは10年以上前のことなので、当時のことはもう忘れかけていたが、この『ツレうつ』を読んで、あぁ確かにこんなだったなー、といろいろ思い出すことも多かった。
『ツレうつ』では、ポジティヴでバリバリやってきた会社員の夫、ツレさんが、突然、出社拒否になってしまい、鬱病であることがわかる。彼の場合、人員削減で仕事を一人で背負い込むことになり、燃え尽きてしまった、というのが引き金になったようだ。
私の場合、メーカーの開発部門にいたのだが、そこでグチャグチャの状態にあったプロジェクトのリーダーになった頃から早朝覚醒が始まった。早朝覚醒というのは、不眠の一種だが、布団に入ってもなかなか眠りに入れない入眠障害とは異なり、すぐ眠れるのだが2時間ほどで目が覚め、そのまま朝まで眠れない、というもの(注)。私の場合は、一度目が覚めるとそこでプログラムのデバッグや会議のスケジューリングなどを始めてしまい、眠れなくなってしまうのだ。
(注)この早朝覚醒が鬱病の典型的な症状の一つであることは、会社を辞めて治療の勉強を始めてから知った。
そんな状態が3カ月くらい続いていた当時、私が朝一番にやっていたのは電話帳をめくることだった。「今日こそは精神科に行こう。どこか近くに精神科はないか?」──そう思ってページをめくるのだが、ふと「でも今日は朝2つ、午後2つ、打ち合わせが入ってる。それをやらないと、部会を前にした打ち合わせができない」といったことを思い出して、泣く泣く電話帳を閉じる…と、そんなことを毎朝繰り返していた。だから、出社するだけでヘトヘトになっているような有り様だった。
鬱病の原因はさまざまに言われているが、はっきりしない。Wikipediaでは鬱病の成因として、セロトニンの代謝異常や海馬の神経損傷といった生物学的仮説と、性格的なカテゴリーや否定的思考パターンの固定化といった心理学的・精神病理学的仮説を挙げている。また一部に、遺伝的な要因を挙げる人もいるようだ。病院での治療は、鬱病はセロトニンなどの神経伝達物質の異常によるものという考え方に基づいた、三環系抗鬱剤などによる薬物療法が中心になることが多いように見受けられる。
…が、『ツレうつ』を読んでいてふと気づいたことがある。
鬱病になると、それまでバリバリやっていた人が、急に引きこもって何もできなくなってしまったり、ポジティヴで自信にあふれていた人が、弱々しくなって何でもないことで泣き出すなど、感情の揺れが激しくなる。また人によっては、感情が異様にネガティヴな方向と異様にポジティヴな方向の間を振れることもあり、そういうケースは躁鬱病と呼ばれる。鬱病にはさまざまな症状があるが、その多くはこの「感情の揺れ」から起こっているものなのではないか。そう思った時、その「感情の揺れ」ということが本田健さんと結びついた。
本田健さんは『ユダヤ人大富豪の教え』シリーズ(大和書房刊)で大ブレイクした、自称「お金の専門家」で、「幸せな小金持ち」をキャッチフレーズに全国でセミナーを開いている。同じように本を書いて、同じように成功セミナーを行っている人は、それこそ掃いて捨てるほどいるが、彼は神田正典さんなどと並んで、その中でも群を抜いた一人と言っていいと思う。
その本田健のセミナーを受けたことがあるが、彼のセミナーは聴き手に「感情の揺れ」を起こさせることに大きな特徴がある。と言っても、決して強い言葉や激しい言葉を使うのではない。セミナーではQ&Aのための時間がたっぷり取ってあって、参加者から自由に質問を受けるのだが、本田健は出された質問そのものにも答えるが、それより質問者がその質問を通して「本当に聞きたかったこと」(それは質問者自身も明確に意識していないことが多い)を探り出し、それを質問者(そして、参加者全員)に突きつける。その「本当に聞きたかったこと」は、自分の内面と直接向き合わなければならない要素を含んでいて、そこで人は今まで気づかなかった自分や、見ないようにしてきた自分に眼を向けざるを得なくなる。そこに「感情の揺れ」が起こるのである。本田健はその「感情の揺れ」の向こうに、表面的な願望や見せかけの目標でない、(大袈裟に言えば)その人が魂レベルで共感できるような願望や目標が見つかる、と考えているようだ。
…とすると、鬱病による「感情の揺れ」も実は同じ働きを持っているのではないだろうか? 鬱病は仕事上、あるいは家族関係、人間関係のストレスが引き金になることが多いが、それは単なる引き金であって、私は鬱病とは、その人が本当にやりたいこと/本当にありたい自分と、実際にやっていること/現実にいる自分との間のギャップが、もう誤魔化すことができないほど大きくなってしまった時、本当にやりたいこと/本当にありたい自分を再発見させるために起こる、ある種の自然な働きではないかと思い至った。つまり、本田健がセミナーの場で意図的に行っているのと同じ機序を、人は本来その中に持っていて、それが発動した状態がいわゆる「鬱病」なのではないか、と。
とするなら、例えばセロトニン代謝異常も、それは「異常」なのではなく、体が「感情の揺れ」を作り出すために意図的に行っていることなのかもしれない。だとすれば(鬱病による「感情の揺れ」が自殺衝動を引き起こすこともあるので、その「揺れ」が、あるレベルを越えて大きくならないようにすることは、当然必要だが)薬で鬱病の症状を無理矢理押さえ込むことは、見せかけの改善を作り出しはしても、結果として体の自然な働きを阻害することになるわけだから、むしろ病気(のように見える状態)を長引かせる可能性があるのではないか、とも考えられる。
ユングは「病気とは決して悪いものではなく、その人が次の段階に進む時が来たことを示すサインだ」というようなことを言っているが、もしかすると鬱病はまさにユングの言葉そのものなのかもしれない。実際、鬱病をきっかけに生き方や、自分というものに対する考え方が大きく変わる例は多い。『ツレうつ』のツレさんは会社を辞めて主夫になり、最近は奥さんのマンガ入りのレシピ本を出しているようだし、私自身、サラリーマンを辞めて治療家になってしまった(だからといって、「鬱病になったら勤めを辞める羽目になる」とか「勤めを辞めれば治る」ということではないので、短絡的に考えないように)。
多くの病気は早期発見、早期治療が基本だが、鬱病に関してはむしろ「時が解決する病気」だと、私は自分自身の体験からも思う。「感情の揺れ」の中から「自分にとって本当のもの」を、たとえ時間がかかっても一つひとつ見つけていくために用意された時期が、実は鬱病なんじゃないだろうか。とすれば、鬱病が増えている背景にあるのは、単にストレス社会がどうとかではなく(いや、それも無関係ではないだろうが)、「××なんだから○○すべき/○○であるべき」のような「べき」論ばかりの中で、「偽りの自分」を身にまとって生きている(そして、そのことに気づいてすらいない)人がそれだけ多いということなのかもしれない。
…というのが、鬱病についての私の論である。言うまでもないが、こうした考え方は医学的にオーソライズされたものでは全くない。
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早朝覚醒もないし…クレニオ瞬睡でヘッドバットしないようにする方が今の課題かな?(笑)
鬱病についての私の考え方が正しいか間違っているかは、今のところよくわかりません。
ただ、鬱病に限らず、現代医学的な治療は症状を抑え込むことに腐心していますが、「症状」に見えるそれが、実は体にとって必要な過程なのだとしたら、それを闇雲に抑えて「ハイ、よくなりましたよ」とすることは、実はとても怖いことなんじゃないかと思ったりもしているのです。
でも、『その人が本当にやりたいこと/本当にありたい自分と、実際にやっていること/現実にいる自分との間のギャップが、もう誤魔化すことができないほど大きくなってしまった時、本当にやりたいこと/本当にありたい自分を再発見させるために起こる』
この言葉を読んではっとしました。友達には、もっとポジティブになれとか、そんなの気持ちの持ちようだって言われて、そう言われるたびにドンドンふさぎ込んでいましたが、この一節を読んで,納得した感じです。
今日から本当にありたい自分が何かそしてそれになれるために今何が出来るかを考えながら生活をして行こうと思います。
やった~
ブログでも書きましたが、私も10年以上前、今のZoomyさんのような状態でした。そのまっただ中にいるとよくわかりませんが、今にして思えば、あれは自分にとってのターニング・ポイントだったのかもしれません。
Zoomyさんにとっても、恐らく今が「変わるべき時」なのでしょう。時間がかかっても、「自分にとっての本当」を見つけられますよう。