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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

寄生虫なき病

2015-02-18 22:13:41 | 一治療家の視点

ひどいアトピーや自己免疫疾患などの重度な疾患を患っている人から「今とにかく読んでおくべき本は何か?」と尋ねられたとしたら、私なら迷わずこの本を挙げる。

全部で500ページにもなる厚い本で、内容は生理学と病理学に関する非常に専門的な内容を含む、というより書かれているのはほとんどそれだけだが、驚くほど読みやすく、得るところも大きい。人によっては、自分が今まで信じてきたことが根底から覆されるようなショックを味わうかもしれない。例えば、ここにはこんな記述がある。

昨今の食物アレルギーの増加に対して公式見解を述べようとするときには、次のような問題を取り上げる必要がある。つまり、アレルゲンそのものがアレルギーを引き起こしているのか、それとも何かさらに深いところにある原因がアレルギーを引き起こしているのか、という問題である。
(中略)ピーナツにアレルギーがあるなら、ピーナツを避けなければならないのは当然だ。しかし、アレルゲンを避けたからといって、「そもそもなぜアレルギーになったのか」という根本的な問題の解決にはならない。世界中に多種多様な食物アレルギーが存在するという事実は、環境要因が重要な役割を果たしていることを強く示唆しているが、それはアレルゲンへの暴露が最重要の要因であることを示すものではない。

そうだ。我々はずっと「アレルゲンが存在することが原因でアレルギーが引き起こされる」と教えられてきた。実際、「アレルギーは塵やホコリ、ダニなどが引き起こすものだから、家の中はとにかく清浄、清潔に保たなければならない」と言われている。しかし、本当にそうなのだろうか。今よりずっと不潔だった頃の方が、アレルギーを持っている人はずっと少なかったはずだ。アレルゲンの存在はアレルギー反応の単なるトリガーに過ぎず、本当の原因は別にあるのではないのか…?

『寄生虫なき病』は、著者であるモイセズ・ベラスケス=マノフ自らが寄生虫に感染しにメキシコに向かうところから始まる。もちろんそれは彼が変態的な趣味を持っているからではない。自分の体を実験台にしてある治療法を試すためである。そして書かれていることをそのまま信じるならば、彼は全身脱毛症(自己免疫疾患の一種)、食物アレルギー、そしてひどい喘息を患っているという。

こうした自己免疫疾患やアレルギー、そしてそれに起因していると考えられる様々な症状を抱えた人が先進国を中心に世界的に急増している。そして今、その原因として新たに浮上してきたのが、

「かつて人間の身近にいた寄生虫などの微生物が急激にいなくなり、それが生体内部の生態系を混乱させ、免疫系の暴走を引き起こしているのではないのか」

というものである。

この説の根底にあるのは、免疫系は生体内部で自己完結したシステムではなく、それ自体が生体の内部環境と外部環境との相互作用のバランスの上に存在していて、免疫系が正常な状態でいるためには、生体内部の生態系が十分な複雑さを備えていなければならないのではないか、という考え方である。

そして今、そうした考えに賛同する医療関係者が増えてきている。そうした考えを取り入れたものに、例えばプロバイオティクス(Probiotics)というものがある。プロバイオティクスとは乳酸菌やビフィズス菌などのいわゆる善玉菌を含む食品のことで、それを摂取することで体内環境、特に腸内フローラ(腸内細菌叢)の状態を整え、健康になろう、というもの。しかし、現在のプロバイオティクスでは生体内部の生態系に十分な複雑さをもたらすことはできないようだ。

この本に出てくる調査・研究によれば、そんな人工的なプロバイオティクスよりも、生まれた後の早い時期に汚物や微生物にできるだけ多く触れることが、アレルギーや免疫系の疾患を防ぐことになるらしい。ただ、そういう外部環境からの「教育」が有効なのは幼児期だけで、大人になった後は効果がない、とも。それでも大人でも体に微生物を入れることで疾患が大きく改善する例が数多く見られるという(そしてベラスケス=マノフは自らの体でそれを検証しようとしたわけだ)。

この本を読んでふと思うのだが、我々は日々さまざまなものを食べているが、それには単に栄養を摂取するということだけでなく、食べ物に付着したさまざまな微生物も摂取する、という意味を持っていたのではないか。食を通じて微生物も同時に摂取することで体内の生態系を整える──それこそ本当の「医食同源」だったのではないのだろうか。だとすれば、食品がほぼ完全無菌状態で売られていることが人体に破壊的とも言える影響を与えているとしても、少しもおかしくはない。

また、例えばピロリ菌は現在は胃潰瘍、胃癌の元凶として見つかったら即駆除、というふうになっているが、遙か昔から非常に多くの人がピロリ菌を持ってきたということから考えると、そこには何か大きな意味があったはずで、駆除しさえすればいいのかという疑問が残る(その辺りのことは、第八章「『悪玉』ピロリ菌は役に立っていた?」を読んでほしい)。

ベラスケス=マノフ自身が寄生虫を体に入れた結果は、第十四章「私の寄生虫療法体験記」に詳しいが、この種の本にしばしば見られるような手放しの礼賛ではなく、そのマイナス面や効果がなかったところなどもキチンと書かれている。この章に限らず著者は全編を通じて中立で冷静な立場でこの本を書いているので、読者も熱に浮かされたように「寄生虫療法」などに飛びつくのではなく、中立で冷静な目をもってこの本は読まれるべきだ。


人間社会では、過去においてはひどい「不潔さ」が病の元凶だったし、今ももちろんそうだ。だが同時にひどい「清潔さ」も病の元凶になることが示されつつある。自分の生活空間を一定レベル「不潔」に保つこと──まずはそこから始めるしかないのかもしれない。それが私がこの本から学んだことの1つである。

※この記事は「ブクレコ」に投稿したレビューを大幅に加筆修正したものである。


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