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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

生きる

2012-10-18 20:32:24 | 趣味人的レビュー

1997年に公開された宮崎駿監督の映画『もののけ姫』のコピーは、「生きろ」だった。この映画のヒットは、このコピーの力が大きかったと言われている。

それから15年を経て、その『もののけ姫』の放った「生きろ」への回答とも言える映画が公開された。ジョージ秋山の同名の原作を映画化した『アシュラ』である。『アシュラ』のコピーは「眼を、そむけるな。」だが、『アシュラ』が描くのはズバリ「生きる」である。


1970~71年に『週刊少年マガジン』に連載されたジョージ秋山の『アシュラ』は、中世の日本を舞台に、極限状態の中を生き抜く1人の少年アシュラを通して、「生きる」ことの本質を問うた作品だった。だが、人肉食を描いたことが問題視されて有害図書に指定され、出版社が掲載誌を回収する騒ぎとなり、結果として作品は事実上の発禁処分のような状態の中、執筆を断念しなければならなかったという。

私もずいぶん昔──中学生の頃だったろうか──に原作のコミックを本屋で立ち読みしたことがあるが、正直言ってどんな物語だったかほとんど覚えていない。ただ、飢饉の最中に子供を産み落とした女が、その子供を食らおうとするところだけは、強烈な印象として今も残っている。

──その『アシュラ』が映画化されたのである。何としても観ないわけにはいかなかった。


凄まじい飢餓の中で実の母親から殺されかけ、自分が生きるためには誰でもかまわず殺す、名前もなく言葉も知らない少年──1人の僧侶がその少年に出会い、ケモノではなく人として生きるためにアシュラという名を与え、経文の一節を教える。

僧侶から与えられた名前とも言えない名前と、言葉とも言えない言葉によって1人の少女と出会い、人として受け入れられることを学んでいくアシュラ。だが政情の混乱とともに飢饉は益々ひどくなり、アシュラも少女も、そんな世の中に飲み込まれていく…。


ケモノから人へと変わることが、アシュラを必ずしも幸せにはしない。さまざまな矛盾と葛藤が渦巻く中で、アシュラは生まれてきたことを嘆き、生きることの苦しさを叫ぶ。しかし、それでもなおアシュラは「生きる」ことをやめない。全身を血で真っ赤に染めて、それでも生き続ける。

そう、「生きる」とは、こんなにも凄惨なことだったのだ。そのことを『アシュラ』が思い出させてくれる。

はっきり言うが、この映画は耳に心地いい希望や励ましなど、少しも語ってはくれない。ここに描かれるのは、どうしようもない絶望的な状況の中、どんなことをしても生き延びようとする人々の、その「生きる」ということの本質的な暗さとおぞましさ、そしてそれゆえの強さである。


上に述べたような事情でジョージ秋山は『アシュラ』を構想通りに完成させることができなかったが、構想通りであれば最後に主人公アシュラに「その命を最後まで生ききった」という意味で、命という名を与えて終わるはずだったという。

上映時間は1時間と少しの短い作品で、どうやらその原作の全てを映画化したものではないらしいが、それでもこの映画は観る者を圧倒する。さあ、アシュラの「生きる」姿を刮目して見届けよ!

そのために、まずは『アシュラ』の予告編を。


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2 コメント

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Unknown (加藤CBS)
2012-10-23 16:31:54
先生謎の彼女Xの9巻買いましたか?最近電波女にはまってましてOPの曲が好きで無限ループしてます、それと鋼錬の作者が新しく書いているシルバースプーンもなにげに荒川ワールド全開でおもしろいですよ、先生もう読みましたか?
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まだです。 (sokyudo)
2012-10-24 12:16:37
>加藤CBSさん

コメントありがとうございます。
残念ながら、『謎の彼女X』の9巻はまだ読んでません。荒川弘の『銀の匙』に至っては、全くノータッチでした。
これから遅れを取り戻したいと思いまっす。
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