普段は立ち読みするばかりで買うことはない『ヤングジャンプ』を買ってしまった。『ハチワンダイバー』の鈴木八段のセリフがあまりにも肚の底に響いたから。
展開はかなりカオスだが、『ハチワンダイバー』は一応、将棋マンガであり、タイトルにあるハチワンとは、将棋盤の9×9=81のマス目のこと。
主人公の菅田健太郎はかつて鈴木八段門下で奨励会に所属し、プロ棋士を目指していたが、規定の年齢になっても四段(プロ)になれず退会を余儀なくされる。その後、自堕落な生活を送っていた菅田だが、「アキバの受け師」こと真剣師の中静(なかしず)そよと出会って将棋への情熱を取り戻し、名うての真剣師たちとの勝負を通してメキメキと腕を上げていく。
そしていろいろあって(あまりマジメに読んでないので、その辺りのことはもうほとんど覚えていない)今は将棋コロシアムにて、谷生(たにお)率いる鬼将会との一大決戦中である。
そして今回、菅田の元師匠である鈴木八段が鬼将会の通称・暗殺者との一戦に向かう。
その舞台に昇る鈴木八段に1人の男が
「すっ鈴木八段っ、あなたに託したい!! このトーナメントで優勝して谷生を倒してもらえますかっ」
と言葉をかけると、鈴木八段が答えて
「プロ棋士は、そんな遙か先のことは考えない。将棋盤があり一人の相手が待ちかまえているなら…その一人、その一局に集中する。ただし、この一局だけは必ず勝つと言い切ろう。菅田が待っている。ただし…その谷生も倒すけどな」
その言葉に暗殺者が反応する。
「気安く…『谷生を倒す』って言ったよね。もし僕に勝ったところで、アナタを殺す事が決まった」
それを聞いた鈴木八段は「フ…」と薄く笑い、暗殺者に向かって語るのだ。
「プロ棋士にとって、将棋を指す事より恐ろしい事は、この世にはないんだよ。
おまえが…私を殺して将棋(ココ)から救ってくれるのか?
言葉を失う暗殺者に向かって、鈴木八段は更に言葉を継ぐ。
「だから、プロは強い。だから、プロなんだ」
多分、プロとは、それをやることが自らにとっての「業(ごう)」のようになっている人のことを言うのだ。
他の治療家のことは知らないが、私は治療をすることにいつも怖さを感じている。特に新しい人を治療する時は、いつも言い知れぬ怖さを感じる。そりゃあそうだ。治療とは相手を変化させる行為。それを行うことによって何が起こるかわからないのだから。
だから、これでいいのか幾重にもチェックを重ねる。何かあってもリカバリーできるように準備もしている。それでも治療することへの怖さが消えることはない。
ただ逆に、治療することに怖さを感じている限り、自分はまだ治療家としてやっていけるとも思っている。だから鈴木八段の「「プロ棋士にとって、将棋を指す事より恐ろしい事は、この世にはないんだよ」という言葉は、私にとっては突き刺さるように自分の中の奥深くまで響くものだったのである。
世の中思う通りにいくとは限りませんからね
口先で「私はプロでございます」と言うことは簡単ですが、プロになるのはシンドイことだなー、と改めて感じた次第です。