ここしばらくは西洋絵画を見ても感じるものが何もなくて、美術展と言えば仏像などばかり見に行っていたのだが、久々に西洋絵画を見に行ってきた。上野の東京都美術館で開催されている「ブリューゲル『バベルの塔』展」である。
『バベルの塔』はピーテル・ブリューゲル1世の手になる、美術の教科書にも載っている世界にその名の知られた傑作で、ブリューゲルはニ度この作品を手がけているが、今回来日したのは1作目より小さい、二度目に描かれた通称「小バベル」の方。それにブリューゲルに先立つネーデルランドの奇想の画家、ヒエロニムス・ボス(私にとってはボッシュという呼び方のほうが馴染みがあるが)の『放浪者』と『聖クリストフォロス』の2点を含む関連作品群が展示されている。
さて、それで肝心のブリューゲルの『バベルの塔』だが、実物は案外小さい。しかし、大胆な構図と圧倒的な密度を持つその絵は明らかに「気」を放っている。とにかく絵を正面に見据えて立つと、画圧というのか、こちら側に迫ってくる力に圧倒される。けれどその力は見る者を拒絶するようなものではなく、その目を捉えて離さない類のそれであり、どれだけ見ていても見飽きることがない。日光東照宮にある陽明門は一日中見ていても飽きないことから別名「日暮しの門」とも呼ばれるが、それに倣えば『バベルの塔』はさしずめ「日暮しの絵」と呼ぶことができるだろう。
会場には東京芸大のチームによる、オリジナルを300%に拡大した超細密な複製画や、お客が絵の細部をよく見ることができるように10倍以上に拡大した展示物も置かれている(不思議なことに複製画はオリジナルより大きな画面にもかかわらず、オリジナルの放つ「気」のようなものが全く感じられない)。そして恐ろしいことに、それだけ拡大してもなお、絵にはそれほど粗さがない。そのことから、オリジナルの『バベルの塔』が驚異的な密度を持って描かれていることがわかるのである。
その細部については図鑑や図録で確認することはできるし、むしろその方がよくわかるが、作品そのものの持つ「気」については、やはり本物を目の前にしないとわからない。その意味で、この「ブリューゲル『バベルの塔』展」は本物の持つ力を直接体感できる数少ない機会であり、『バベルの塔』1枚を見るだけでも入場料を払う価値は十分にある(もちろん他の作品も十分魅力的で、特に模倣作ばかりが圧倒的に多いボスの真作を見られることなど、ほとんどないはずだ)。
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