5/21にThe HISTORIANをついに読了。読み始めたのは3/14だったから、丸2カ月以上かかってしまった(まあ、最初から、ある程度予想していたことだったけど)。いざ読み終えて全体を振り返ってみると、何とも不思議な物語だった。ミステリでもあり伝奇でもありホラーでもあり歴史譚でもあり…
父の書斎で見つけた「わが不運なる後継者へ」と書かれた手記の束と、龍(Dragon)の挿画が1つあるだけの白紙のページからなる本が、少女を秘められた歴史の闇へと足を踏み入れさせる出発点となる。ドラキュラ(Dracula = son of the Dragon)の謎を追うロッシ教授、謎の失踪を遂げた恩師ロッシ教授を追う父、そして消えた父を追う少女…物語は3つの時間軸を持って重層的に展開していく。そして、そこに見え隠れする「不死なるもの(undead)」の影
10年を費やして書かれた、というこの物語は、しかし、ヴァンパイア、ドラキュラという題材を扱いながら、ケレンはなく、恐ろしくストレートだ。それゆえに、中盤の盛り上がりに比べてラストが弱い、とどこかで指摘されているのは、まさにその通りで、謎解きのミステリとしても、スプラッタのホラーとしても、何やら中途半端な印象は拭えない。では、著者エリザベス・コストヴァの真意はどこにあったのだろうか?
The HISTORIANでは、15世紀中期という時代が重要な意味を持っている。それは、勢力を拡大しつつあったオスマン・トルコ帝国が、現在の東欧を飲み込んでいく時代であり、そのオスマン・トルコ軍に対抗して領土を守ったのが、ワラキア公ヴラド・ツェペシュ(つまり、ドラキュラ)だった。それらの出来事は、キリスト教勢力とイスラム教勢力との間の確執として今に残っている。と同時に、The HISTORIANで物語の大半を占める「父の旅」は、ソ連が東欧全域をその勢力下に置いた1960年代が舞台となっている。オスマン帝国とソ連--15世紀中期と20世紀中期--国や時代を越えて相同する出来事…その「歴史は繰り返す」ということを、「不死なるもの」ドラキュラをある種の狂言回しとして描こうとしたのだとしたら、どうだろう?
The HISTORIANには、ヒストリアン(歴史家)だけでなく、さまざまな学者、研究者、修道士たちが登場するが、その人物造形はどれもすばらしい。中でも、父がトルコ(もちろん、オスマン・トルコ帝国ではなく、1960年代のトルコ共和国)で出会う人々はキャラが立っている。彼らもまた、「不死なるもの」ドラキュラとはまた違う意味で、500年という歴史をその背に負っている者たちである。
さて、上で「このThe HISTORIANにはケレンがない」と書いたが、実は必ずしも正しくない。The HISTORIANには1つだけ、ある仕掛けが施されている。それは、この物語を最後まで読み、そしてもう一度、最初に戻ってA Note to the Reader(読者への覚え書き)を読み返した時に明らかになるだろう。この本を読もうとするなら、それをゆめゆめお見逃しなきよう。
父の書斎で見つけた「わが不運なる後継者へ」と書かれた手記の束と、龍(Dragon)の挿画が1つあるだけの白紙のページからなる本が、少女を秘められた歴史の闇へと足を踏み入れさせる出発点となる。ドラキュラ(Dracula = son of the Dragon)の謎を追うロッシ教授、謎の失踪を遂げた恩師ロッシ教授を追う父、そして消えた父を追う少女…物語は3つの時間軸を持って重層的に展開していく。そして、そこに見え隠れする「不死なるもの(undead)」の影
10年を費やして書かれた、というこの物語は、しかし、ヴァンパイア、ドラキュラという題材を扱いながら、ケレンはなく、恐ろしくストレートだ。それゆえに、中盤の盛り上がりに比べてラストが弱い、とどこかで指摘されているのは、まさにその通りで、謎解きのミステリとしても、スプラッタのホラーとしても、何やら中途半端な印象は拭えない。では、著者エリザベス・コストヴァの真意はどこにあったのだろうか?
The HISTORIANでは、15世紀中期という時代が重要な意味を持っている。それは、勢力を拡大しつつあったオスマン・トルコ帝国が、現在の東欧を飲み込んでいく時代であり、そのオスマン・トルコ軍に対抗して領土を守ったのが、ワラキア公ヴラド・ツェペシュ(つまり、ドラキュラ)だった。それらの出来事は、キリスト教勢力とイスラム教勢力との間の確執として今に残っている。と同時に、The HISTORIANで物語の大半を占める「父の旅」は、ソ連が東欧全域をその勢力下に置いた1960年代が舞台となっている。オスマン帝国とソ連--15世紀中期と20世紀中期--国や時代を越えて相同する出来事…その「歴史は繰り返す」ということを、「不死なるもの」ドラキュラをある種の狂言回しとして描こうとしたのだとしたら、どうだろう?
The HISTORIANには、ヒストリアン(歴史家)だけでなく、さまざまな学者、研究者、修道士たちが登場するが、その人物造形はどれもすばらしい。中でも、父がトルコ(もちろん、オスマン・トルコ帝国ではなく、1960年代のトルコ共和国)で出会う人々はキャラが立っている。彼らもまた、「不死なるもの」ドラキュラとはまた違う意味で、500年という歴史をその背に負っている者たちである。
さて、上で「このThe HISTORIANにはケレンがない」と書いたが、実は必ずしも正しくない。The HISTORIANには1つだけ、ある仕掛けが施されている。それは、この物語を最後まで読み、そしてもう一度、最初に戻ってA Note to the Reader(読者への覚え書き)を読み返した時に明らかになるだろう。この本を読もうとするなら、それをゆめゆめお見逃しなきよう。
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