今回はアニメ『ファイブレイン』第2期のOPだった、nanoの「Now or Never」でも聴きながら読んでくださいませ。
以前にも書いたが、震災から少し経った頃、突然思い立って約30年ぶりに数学を始めた。それからおよそ1年半──今も数学は続けているが、数学の本を開くのがいつも、夜寝る1時間前とかになってしまっている。
昼間忙しくて、数学の本など開いているヒマがない、というわけではない。ハッキリ言えば、数学の本を開くのが怖いのだ。怖くてたまらないから、1日が終わるギリギリまで開くことができないのだ。
なぜ数学の本を開くのが、そんなに怖いのかって? それは見たくない現実を見せつけられてしまうから。
正直、私は自分のことを人並み以上に頭のいい人間だと思っている。それが私のセルフ・イメージだが、数学の本を開いた途端、そんなセルフ・イメージは木っ端微塵に粉砕されて、自分がただのダメで無能な存在だという現実を目の前に突きつけられるのだ。
例えば今、『線形代数と群の表現Ⅰ』を読んでいるが、最近は1行進むのにも3,4日かかるという有様だ。いや、1行でも進めればいい。前に戻ってやり直さなければならないことも日常茶飯事だ。(『線形代数~』を読んでいるので中断しているが)『解析入門Ⅰ』も読み出して1年以上になるが、まだ半分弱までしか達していない。
しかも、これらの本は高度なレベルの専門書ではなくて、大学1,2年生で読むレベルの本だ…。全くもって情けない。
そんな思いをしてまで、わざわざ数学なんかやらなきゃいいのに(別に仕事で使うわけでもなし)、と自分でも思う。実際にキネシオロジーの筋反射テストをしてみると、「もう数学はやめてしまう」に対して「Yes」という答が返ってくる。しかし反対に「まだ数学を続ける」にも「Yes」という答が返ってくる。つまりは自分の中に矛盾を抱えながら、数学をやっているわけだ。
数学科を出ながら納得のいくところまで全然できなかったという「やり残した感」と、その先にある景色を見てみたいという「小さなワクワク感」が自分の中にあって、それらにけりをつけたいという半分意地のような思いで、結局、無様でもまだやめられずにいる。
そんな中にあって、少しの勇気をもらっているのが、本田健さんの訳した『たった1%変えるだけであなたの人生に奇跡は起きる』という本だ。
この本は小説仕立てになっていて、主人公のケンが「たった1%変えるだけで人生に奇跡は起きる」と主張する6人のメンターと出会い、成功への道を歩み始めるという話だが、その中に「『1万時間』で一流になる方法」という章がある。
そこでのメンターは企業でCEOを務めるボブ。ボブは言う。
「“天賦の才”なんてものはないんだよ。たまたま生まれついての才能があって成功した? そんな与太話は全部忘れることだ。デタラメにすぎない。大切なのは訓練、それだけなんだ。
他の人がなんというかは知らんがね、私の考えでは、なにかに上達したいと思ったら、大切なのは訓練だけなんだ。訓練、訓練、また訓練だ。その道を極めようと思ったら、1万時間の訓練が必要だ」
そのボブの言葉に反論して、「例えば天才ピアニストなどいう人がいるじゃないか」と応じるケンにボブは
「私の孫娘は一流のクラシック奏者だよ。バイオリンの独奏者(ソリスト)だ。彼女がどれだけ訓練に時間を使っているか、私はこの目で見てきている。それに、うちの孫娘だけじゃない。一流の演奏家がどれだけ訓練に時間を使っているか、実際に調べた研究があるんだ」
と語る。音楽学校のバイオリン専攻の学生を、将来スターになれるレベル、プロの演奏家になれるレベル、せいぜい町のバイオリン教師止まり、の3グループに分け、それぞれが訓練に費やしてきた時間を調べると、第3のグループは平均4000時間、第2のグループは8000時間、そして第1のグループは1万時間だった、という。そしてボブはケンに言うのだ。
「この研究では、天性の素質を持った学生──つまり訓練なんかしなくてもすごい演奏ができる学生のことだが──そういう学生は一人も見つからなかったんだ。
もっと大切なことがあるぞ。天才もいなかったが、どんなに訓練を積んでも上達しない、どうしようもない学生というのも、やっぱり見つからなかった。
ポイントはこうだ。時間と努力を費やして訓練すれば、誰でも必ず上達する。そして上達したいなら、訓練するしかないんだ」
個人的には、ボブの言葉はあまりそのまま受け取るべきではないと思う。というのは、1万時間の集中訓練を行うというのは、その分野で何らかの地歩を築くという強烈な意思がなければできないことだから。そもそも、嫌いなことや重要だと思わないことに1万時間もの時間を割くなど、普通は考えられない。だから、1万時間を費やすという、そのことが既に他人との大きな違いをもたらしている、と言っていい。
けれど、そういったことを割り引いても、これを読んでから「1万時間」というのが私の中で大きな指標になっている。たとえ無様でも、続けている限り1万時間までの残り時間を減らすことができるのだから。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます