深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

ホルモン補充療法の功罪、そして…

2005-11-15 12:27:26 | 症例から考える
膝痛の患者(女性)を治療した。原因は、肝臓の弱化が胆嚢にも影響し、その結果、胆嚢の関連筋である膝窩筋が弱化したことだった。治療そのものは、だから肝臓/(東洋医学的な)肝の弱さを取るという、極めてシンプルなものだったが、これで症状は大きく改善した。では、肝臓の弱化はなぜ起きたのか? 実はこの患者は更年期障害の治療のために、数年前からホルモン補充療法を受けていたのである。

ホルモン補充療法とは、ホルモンの分泌の低下が引き金になって起こる(と考えられる)さまざまな疾患を、同じ作用を持ったホルモン剤を投与することで改善させる治療法である。特に更年期障害の治療法として有名で、アメリカなどでは非常に広く用いられているが、日本ではこの治療法を実際に使っている患者は、まだそれほど多くないと言われている。

ホルモン補充療法によって症状が劇的に改善することがある。実際、ウチに来た患者も、ホルモン剤を飲み始めたら、更年期障害の症状は全く出なくなった、と言っていた。しかし、ホルモン補充療法には大きな問題があるのだ。

一つは、更年期障害とは閉経によってエストロゲン(=女性ホルモン)の分泌が低下することで起こる、という誤解によって、エストロゲンだけを補う方法が行われてきたことがある。1960年代アメリカで、ホルモン剤の売り上げを伸ばすために、製薬会社が医師と結託してマスコミを使って繰り返し「更年期障害=エストロゲン不足」という図式を喧伝し、「エストロゲン神話」を広めていったという背景がある。

しかし、この「エストロゲン神話」に医学的根拠はなかった。確かに症状を軽減させる効果はあったが、エストロゲンだけを補うホルモン補充療法では、子宮内膜癌の発症リスクが高まることがわかったのである。実は、更年期障害はエストロゲン不足で起こるのではなく、プロゲステロン(=黄体ホルモン)とのバランスが崩れることによって起こるのである。だから最近では、(日本も含めて)更年期のホルモン補充療法では、エストロゲンとプロゲステロンのホルモン剤を併用する方法が一般的になった。

めでたしめでたし…ではない。ホルモン補充療法にはもう一つ問題があるのだ。

ホルモン補充療法で用いられるホルモン剤に含まれる物質は、人体で自然に作られるエストロゲン、プロゲステロンそのものではない。エストロゲン、プロゲステロンと非常によく似た、しかし分子組成が微妙に異なる別の物質が使われている。なぜか?

ここには製薬会社の特許戦略が絡んでくる。既にこの世に存在している物質を薬として出すより、それとよく似ているが別の物質を開発して、それを特許登録すれば、製品も高い値が付き、場合によっては他社から特許使用料も取れる。つまり、実入りが増えるのである。もちろん、物質としての効果や安全性は確認した上で世に出すわけだが、それはあくまで試験管+治験レベルでしかない。

それが人体に入ってくると、物質構造がよく似ているためレセプタ(受容器)はだまされて、エストロゲン、プロゲステロンが分泌されたのと同じように働く(というのが、ホルモン補充療法の狙いである)が、構造が異なるために、不要になってもうまく体外に排泄できず、そのまま体内に残り続けてしまうらしい。だが、こういうことは医師でさえほとんど知らない。

それが直接の原因かどうかはわからないが、プロゲステロン(に似たホルモン剤)を併用する方法でも、乳癌の発生リスクが高まることがわかっている。そのため、ホルモン補充療法を受ける際には、必ず定期的なチェックを受ける必要がある。

…と、ここまで読んでくださった方のために、一言追加すると…
今、医療を考える際に忘れてはならないのが、「医療もまた産業である」という視点だと私は思う。「医は仁術」とか「人助け」といった、単純な論理では、もはや語れないものになってしまっているのだ。上に述べた製薬会社のやり方にしても、それは企業戦略としては極めて真っ当なものであって、それ自体に何ら問題はない。

だから、医療「産業」を利用するためには、情報を取捨選択できる目を養わなければならない。医療「産業」はあなたを救わない。あなたを救うことができるのは、あなた自身である。

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